第10話:人畜 第一号
今回の登場人物
キャベツ:不満の化身の山羊男
ピー太郎:風見族(鳥型亜人)のオカメインコに似た青年
バロット:風見族(鳥型亜人)のミミズクに似た青年
メイリア:魔王を倒した英雄チームの剣士ヒロイン
キャベツはテーブルの上でメイリアの遺体を載せておぞましい作業を始めている。
キャベツは自分の体から肉を毟って手に蜃気楼のようなものが覆われたかと思ったら力を帯びたグズグズした液体になり遺体の傷にしみ込ませた。折れた腕を両手で掴んでまっすぐに戻したり、身切れた部分を接着するかのように直していく―。
しばらくして、キャベツは族長の館から出てきてバロットを呼び出した。
「俺が食事に行ってる間は、館の軟禁部屋に捕まえてるやつがいるから見張りをしろ。できるな?」
「え?見張りですかー?一人じゃ報告や監視の継続は難しいから他の奴も一緒でいいですかー?」
「なら、早く呼んで来い。」そう言うとキャベツは離れた場所にある風と水の魔法で冷やされた冷蔵の食糧庫に歩いていった。
ピー太郎はバロットに声をかけられ激怒した。オカメインコのようなとさかが垂直に逆立つ。
「おい!なんで俺を呼ぶんだ!俺はあの化け物に関わりたくないんだよ!なんでお前はあの怪物に馴れ馴れしいんだ?あいつは風見族を虐殺したんだぞ?」
「……そうだけど、お前はキャベツに勝てるの? 人間とあの化け物に、本質的な違いなんてあるの? ボク達は『飛べる』こと以外、人間より優れている要素なんて何一つない。魔王が出る前の人間たちが血で血を洗うように土地を奪い合っていたのは知ってるだろー?」
バロットはキャベツをまるで話が分かる相手のように語り出す
「それにさ、風見族は飛べない者や、飛ぶのが遅ければすぐ笑いものにするだろ。でも、山羊男は他人を優劣で馬鹿にしたりはしない。暴れたのだって、先に手出しをした連中が自滅しただけだよ。少なくともボクにとっては、身内よりもあの化け物の方がよっぽど『わかりやすい相手』に見えるけどねー」
「見誤ってあの怪物に食われなきゃいいがな。俺は御免だぜ?人間は少なくとも風見族を食う奴は知らねぇ!」
ピー太郎はバロットに反吐が出ると怒りを見せるが断ると怖いから渋々、族長の館に向かうのだった。
「ボクは外を見張るからお前は中を頼むよー?」
「何を見張れってんだよ?まさかあいつに子供とかいんのか?」そう嫌な予感の思考が常に駆け巡る。
恐る恐る近づいた木造の檻の軟禁部屋にたどり着いたピー太郎は絶句した。
「…メイリア様?…嘘だろ、おい…。顔が誰かもわからん遺体だったのに…」
死ぬ前のメイリアの形をしたそれは呼吸をして寝ていたが決定的に“ある部分が生前とは違うのだった“
「あの化け物は本物の悪魔だ…」ピー太郎は想像の限界を超えてしまったのだった。
その時だった…「ゴォオン――ッ!」
豪音が響いた次に「カンカンカンカン」と警報の鐘を叩く音が鳴った。
この鐘のリズムを聞いたピー太郎は「敵襲だ…」と声を漏らすのだった。
「何があった?」と外へ確認しに行けば魔物の大群が押し寄せていた。
***覇権を狙う勢力
風見族は神木を失い魔族に戦う術は大幅に落ちていた。神木の風の加護があれば簡単には落ちない要塞なのに次々と侵入を許し、蹂躙されていく。
ピー太郎が外へ出たときにはバロットはすでに居なかった。
「あわわ…敵襲だ…そうか、以前からちょっかい出してた魔族の幹部がマジに攻めて来たんだ…」
ピー太郎は大群の人の背丈くらいの“小鬼“を見て、『コクーンゴブリン』だ。と怯えて逃げ出す。
「あ、あいつらは個体での危険度はE級(訓練した兵士1名でも対処可能)だが繭になる個体に“肉の餌”をやると分裂して増える魔族の尖兵だ」
「しかし、知能が襲って食って増えるしか能がないから敵地を荒らしちまう…。俺たちと話し合う気も無いってことかよ…魔王よりやり方が雑だぞ…」
そう思っていた束の間、シルバナは神木があった頃より難攻不落の魔窟と化していたことを思い出した。
「ドシャ…」肉がつぶれる音が近くで聞こえたと思ったら山羊男が不機嫌そうに手足を振るい暴れていた。
魔獣の犬を踏み潰してあたりを見渡していた。
「戦っても服が汚れるだけだな…こいつらは人間みたいに話せないのか?」
キャベツは紺色の半ズボンが敵の血で汚れていることにかなり苛立っている。
歪んだ空間の粒を発生させ以前のように連射を繰り返し無表情でコクーンゴブリンを駆除している。“銃撃能力”を無言で行使し、怒りと不愉快以外の感情を見せない。冒険者なら自分の技に名前を付けたがるがキャベツはそんな発想もない。
コクーンゴブリンが恐れをなしてリーダーらしき、大きな個体の方へ逃げていく。
逃げていく敵の方向に首を向けた瞬間、キャベツの背後から火薬樽が猛スピードで投げつけられて起爆した。
ピー太郎はさっきの轟音はこれかと理解した。
「あいつは、ロックオークだ…5mはある…危険度C(対処に充実した装備と訓練した兵士100人の連帯が必要)の怪力で力めば岩の強度になる魔法の肉質をもつ怪物だ。」
キャベツは肉があちこち吹き飛んで倒れていたが“むくり”と起き上がり、半ズボンが破れたのを確認して見ている。
次の瞬間、キャベツはこの世の存在とは思えないおぞましい叫び声を上げた―
「――ッ!!!」
「…お前らを送った奴を教えたら見逃してやる…」
そう言ってロックオークに感情が読み取れない山羊目で見つめるのだった。
ゆっくりだが目に見えるスピードで傷が修復していくキャベツは傷が癒えない内に動き出す。
返事が来ないことを悟りロックオークに飛び掛かった。
ロックオークの腕は意外に素早く、飛び掛かったキャベツをあっけなく掴んだがキャべツは掴んだ手の前腕を殴り「ごしゃっ!」という音とともに引き裂いた。
「ヴォォ!!」激痛に苦しんだオークは逃げ出したがキャベツは「空気膨張能力」をオークの周囲に発生させ破裂させたのだった。
「一匹ずつ聞くか」そう呟くと風見族を呼び出して「上空から逃げた連中の場所を探して教えろ」と命じた。
その間際にピー太郎に気づき「おい…」と声をかける
「はいぃぃ…!?」
「俺が帰るまでの間に俺が履いてたのと似てるズボンを集めておけ…」
「わ、わかりました!!」
ピー太郎は限界寸前の精神状態でYesと言う他なかった。
キャベツは森に逃げたコクーンゴブリンの群れを追って消えていった。
その一時間後くらいのことだった
キャベツが去った後に、魔族の魔人達の一団が現れる。
風見族は魔人たちに怯える。
「魔人…ほぼ全員が知性がありBかAの危険度の実力と魔力を持つ魔物達を使役する指導者層の連中だ…さっきの攻撃は山羊男を離れさせる陽動作戦だったのか…」
「しかし、魔族は強いリーダーがいないと連帯はとらない個人主義者ばかりのはず…魔王の幹部のイテミスがもう他の幹部連中を束ねたのか?」
「初めて見た…頭に角がついてる…」
焦燥する風見族達に魔人の一人が「落ち着け」と発した。
「俺たちは森の街に興味はない。飛べる人材も下の魔物にいるから風見族を奴隷にする意義も薄い。」
「しかし、お前らの神木は俺たちのご先祖と関係がありイテミス様も欲しがってるんでね。」
「どうせ折れてるんだからいいだろ?おとなしく渡せば何もしない」
すでに尖兵を送ったのを棚に上げて傲岸不遜に話す魔族にピー太郎は憎悪の念に駆られる。
しかし、キャベツがいない今、魔人たちを相手にできる手段はすでに風見族にはなかった。
するとバロットが前に出て来た。ミミズクのような羽角(頭の飾り羽)を警戒させた動きを見せながら交渉を始めた。
「いいよー。でもここをこれ以上荒らしたら君たちのことを山羊男に言うから約束は守ってねー?散らばって逃げたボク達を全員殺すのは君らでも無理でしょー?」
まるで代理人のように話すバロットにピー太郎は完全に頭に来ていた。山羊男、魔族、助けに来ない人間、すり寄るクズ、「全員、糞野郎だ」そう小声でぼやくのだった。
魔人の隊長が「鳥の癖に話がわかるじゃねぇか」と侮辱のような好感を見せ、バロットは倒れた神木の場所に案内した。
「希少な召還魔法を見せてやるよ?今回は反対の送還魔法だがな…」そう話し出して倒れた神木の周りに魔法陣と魔法薬の準備をてきぱきと行い、集団で念じると“バシュン“と言う音と閃光の光と共に神木は消えていった。
「お前らも、不憫だな?あの間抜けな山羊顔にびくびくしてたんだろ?」
「だがイテミス様が直々に倒した上で、あの怪物を食ってくれるそうだからお前らも山羊男からは助かるぜ?」
「俺らを救世主として今のうちに神木の代わりに崇め奉るんだな。」
高笑いと捨て台詞を言い放ち、魔法陣の痕跡を消して魔人たちは立ち去って行った。
ピー太郎はもはや、プライドも常識も社会の正義もこの世界では役に立たないと痛感したのだった。
ふと、館の見張りの任務を思い出し持ち場に戻るピー太郎は軟禁部屋に戻ったが口を開いて愕然とした。
そこには「メイリア」はいなかった。
「ああ…やばい…キャベツが来る前に見つけないと…」
「木の牢屋を異能「裂傷線」で付けた傷を広げて逃げたんだ…」
ピー太郎は見張りの失敗の罰を気にして青ざめて急いで館から飛び出して探し回るのだった。




