第77話:英雄と怒り狂った未亡人
カタム領主がギノの護衛とは別の任務でシュウノを呼び出していた
以前、山羊男に力を授かったノーマルオークのウードがセアフスの冒険者と冒険者組合のセアフス支部を虐殺と建物を倒壊させさらに冒険者組合のセアフス支部代表になったオーバルを殺し、最終的にシュウノが宇宙にウードを奇策にはめて追放した件の葬儀の話である
「君の妻…いや野犬共は山羊男の飼い主だったギノの近くの部屋に案内させたかね?一か月いるだけで1万ルオン(百万円)はかかる要人用の療養施設だ…それを税金で君にたかる蛆虫にあてがっている…すべて山羊男のせいだ…私が大恩人だとわかるね?」
シュウノは申し訳なさと怒りに挟まれて応える
「はい…領主様に恩を返すためにもギノさんを守りながら山羊男を倒す手がかりを探します…」
「違う…私が君に望むことはセアフスの火の粉を払い続けることだ…君はそのために死ぬのだ。それが私への恩返しだ。君の家はオークの仲間の盗賊に壊されて君は盗賊の追撃を恐れて妻を私に懇願して預けている状況だ…」
カタム領主は窓を見ながら立ち背後に手を組みながら話を続ける
「君が死んだらあの魔人の子を戦士に仕立て上げてやる…父親は立派だったと吹き込んで山羊男に当てる戦士にしてやる…嫌なら生き延びて奴らに少しでも痛手を与えるのだ…」
ノフィスを倒したかつての英雄は打ちのめされたような表情で不満を訴える
「父親の前で本気で言っているのですか?…止めてくださいよ…言っていいことと悪いこともあります!」
「魔人は実力至高主義の略奪民族みたいな連中で英雄と魔王の娘の子供だ。それなら殺し合いしか能がないのが生まれるだろう?よく英雄の子は大体の場合、小説や漫画でも戦士になるだろう?嫌なら君が頑張って戦いを終わらせたまえ。」
領主は人間の社会は魔人と似ているとシュウノに振り向き諭す
「どうせ魔人なんかこれまで奪った歴史で人間世界ではろくな目ではみられない。聞けば魔王ノフィスも混血児で人間世界に最初はいたが人間社会には居場所がなくて魔人の社会に行ったと聞く。」
「魔人の社会は実力があれば成り上がれるから人間社会よりは公平で救いがあるのかもな。弱ければ使い捨てか気晴らしに味方でも恥として殺すような連中だがな。」
「君の子は恐らく似た目にあう。だから私がもし君が死んだら面倒を見てやる。魔王になるなら殺す必要もあるからな。そして君はちゃらんぽらんだろう?立派な父親にはどうせなれはしない。その証拠にセイルというバカ娘と隠し子を作って対処に困っていた。」
カタム領主はお茶を飲むと話を切り替えて任務をシュウノに言い渡す
「この前、オーバル氏が死んだからトレッチ氏の両親が心配しているそうだ。君が連れていけ。葬式には私は興味がないが君が顔を立てて参加しなさい。」
父親としてこれ以上ない屈辱を感じながら震えながら声を絞り出す
「わかりました…あなたの要望は出来る限り応えます。だから私の子を利用する話はもうやめてください…人間が魔人と同じことをすればなんのための英雄なのですか?魔王と人間が同じになったら守る意味や存在する価値が無いでしょう?」
「小僧…人間は魔王と同じだよ。歴史とは略奪者の物語だ。人間は奪われた側か奪う側に生まれること選べずに生まれて犠牲や問題にへらへら無関心に生きるのが大半だ。魔人とそう変わりがないよ。」
「君のような社会を知らない英雄は現実の人間という有様をあまりに知らない。だから今、私に腹を立てているのだ。それは人間を舐めている君の甘さだよ。君の思考がズレているのだ。無知に困っているのは君の方だ。もっと世の中の人間達を知るべきだ。クズも普通も善人もな。」
◆冒険者の葬式◆
オーバル氏の葬式は倒壊したセアフス支部の近くで行われた
冒険者達も大勢集まって棺が運ばれて行くのを見ていた
「オークが復讐にきてオーバルさんの両腕をちぎり腹を真っ二つに割いて上半身と下半身を分けたらしい…」
「おまけに冒険者達も50人以上は殺して施設の受付嬢やスタッフまで攻撃し建物を倒壊させて殺したそうだ…門番の兵も含めたら合計で100人近いかもな」
「あのオーバルさんが?体を鋼の強度にする異能と肉体強化の最上級魔法も使うのにヒーローソフビを分解されたみたいに殺されたのかよ…オークが1000体いても無理だろ?」
「そのオークは知能がある上に山羊男から力を授かったって話だ…シルバナに似たような連中が何人もいたらもう冒険者達も廃業かもな…」
立ち話が耳に入る中、シュウノが喪服を着て棺を見ているとトレッチが寂しそうに立ちすくんでいた
無力感に包まれたように無表情だった
「今、トレッチさんはどう思っているだろうな…因果応報なんて俺は言えないよ。人の不幸や没落やしっぺ返しを笑っても何の救いもない惨いい行為だ。俺も山羊男に負ければ俺の周りもオーバルさんと似たような境遇になるのかな…」
◆葬式の後で◆
トレッチはオーバルの棺を見送った後に自分の家で酒を飲んでいた…
グラスを握りしめて雑に酒をドボドボ注いで口に運ぶ…
「…なんなのよ…昔と同じね…実家の雑貨屋が貧困層の暴動で壊されて私が進学できなかったあのころと…」
【コンコン…】
ドアのノックオンが聞こえてドアをあけるとシュウノが玄関まで訪ねて来た
「トレッチさん?お話があるんですが…」
「何よ?私は今、何もする気はないわよ…」
「あなたの両親が家を探して欲しいと俺に頼んでですね…カタム領主から家を教えてもらったのですよ。」
両親の話を振られてトレッチは怒りを浮かべるがなぜだと声を荒げて返す
「私は両親から離れて冒険者になってそれっきり。オーバルと結婚式をした時に両親が見に来て人畜とやらに山羊男にされて余計嫌いになったわよ。まさか私の居場所を教えてないわよね?」
しかし両親がもうすぐそこに来ていた
父親はハムスター耳の人畜で母親はリス耳の人畜である。人畜は若い外見に改造されている存在である。
「トレッチ、辛かったろう…ずっと傲慢なのも自分が傷つくだけだ。そこの彼が救ってくれたのだから正直にお礼をいいなさい。」
ドアをバァン!と激しく締めて外に出たトレッチは激昂するも何の用か言い出す
「慰めなんかいらないわよ!何で来たの?私よりマスコットみたいなケモミミ人間の若い親なんか見たくないわよ。」
しかし母親が重大な話があると切り出す
「この前、結婚式でひどいことをお父さんに言ったでしょう?お父さんが悲しそうに傷ついたからね。私達もやり直そうと思って励ましたのよ。」
気まずさを感じ取りシュウノは困惑の表情が浮かぶ
(俺がこの場にいていいのかな?なんだか気まずいな…)
どんどんトレッチは腹を立ててしまい険悪な空気が流れる
「やり直すってなによ?私に見合いでもしろとか言わないわよね?」
「トレッチ…母さんはね。妊娠したの。兄弟か姉妹がトレッチにできるわ。」
トレッチは顔が蒼白し理解が追い付かない表情で蕁麻疹がでる…
「な…うぶ…ゴハッ…」トレッチはバタリと倒れた…
未亡人は哀しみと怒り加え気色悪い状況と情報に耐えかねてゲロを吐いて失神した…
◆怒り狂う未亡人◆
シュウノはトレッチの父親と共にトレッチの家のベッドに寝かせた
「何も今日言わなくても…気絶するほどショックを受けてましたよ…」
しかし両親はかなり遠慮がない性格らしくずかずか物を言う…
「母親の私を毛嫌いしているから今日しかないかと思ってね。ごめんなさいね。うちの子を良くしてくれて。私も子がお腹にいるから日を改めてくるわ。」
「妻も子が身ごもってしまいましたからね。私も父親として気を引き締めないと。今度はトレッチみたいに優性論に傾倒しないように育てないとね。失敗を繰り返してはいけない。それが人間にできる唯一の改善と進歩だ。トレッチも無垢な妹か弟を見ると考えを改めるだろう。」
二人はシュウノに軽く頭を下げて去っていった
「あの二人、トレッチさんを吐かせた自覚があるのかな…」
シュウノもトレッチの家から出ていこうとすると呼び止められた
「待て…待ちなさいよ…待てえええええ!」
「ちょっと…落ち着いてくださいよ。トレッチさんの両親は帰りましたよ。お気持ちは想像できますがトレッチさんも言われる部分もありますよ。」
「違う…私もあの山羊をぶっ殺すのよ…殺してやるゥウウウ!!」
「でもあなたは私を前に助けてくれた…私も一つあなたに協力をするわ。あなたは山羊男を追ってるのよね?なら私も手伝うわ。オーバルの武器をあげるわ。」
しかしシュウノがオーバルは大剣使いで小回りが利かない武器はいらないと呟く
「気持ちは嬉しいですけど俺とオーバルさんは戦闘スタイルが違いますよ。俺は山羊男相手には大ぶりな武器は使うつもりはありません。」
「オーバルが冒険者組合の偉い連中からセアフス支部代表に就任した際に最高の武器として渡された最新の魔法武器もある。本人は小さくていつもの大剣が良いと言って使わなかったけどね。」
「その名は心願の剣という魔法武器。内容は他人や自分の異能をチャージした時間分他人でも効果を剣経由で使える。私の異能マシュマロテストはかけた物体を柔らかくする異能。だから心願の剣にチャージすれば硬い物でも簡単に切れるということよ。」
その説明を聞いてシュウノは顔に驚きを見せて食いつく
「それって俺が持っていた護符の剣の異能版ですか?護符の剣は剣にかけた魔法の効果を長持ちさせて帯させる能力がありましたが異能でもできるとは…」
「チャージには集中して込める必要もあるし込めている間は異能を込める側は丸腰になる。私が暇なときに込めてあげる。半日分はチャージして後で渡すわ。どう?大きさは片手剣サイズよ。」
「剣に異能の力をチャージできる時間は最大12時間らしいわ。例えば4時間、マシュマロテストをチャージしたら8時間分チャージの空きスロットができるわ。他の人の異能も空き時間に込められるけど同時には使えないらしい」
「異能も剣と相性がいいのを選んでチャージするのよ?剣術と関係がない異能をチャージしても意味があまりないからね。」
その話に英雄は心強さを感じるのだった
「トレッチさんが協力してくれるの?ありがとう。オーバルさんの武器は一応、全部貰っておくよ。山羊男を倒せる可能性は少しでも上げていきたいから…その心願の剣を見せて貰える?」
トレッチは武器をかけてある部屋に案内した
「あなたには50万ルオンのご祝儀を貰った上にオークから命を救ってもらった。私が協力できることがあるなら何でも言って…この部屋にある武器は好きに持って行って」
オーバルの武器のコレクションはちょっとした展示室のようだった…
「すごい…大剣以外もある…1等だからすごい道具を持っているのは珍しくはないが奇麗に置いてある。ありがたく使わせてもらいますよ。」
(トレッチさんも少しは考え方が変わったのかな…)
「強かろうと弱かろうと負ける時は負けて死ぬ…なら私はあの山羊にもそれを教えてやる…殺す…絶対に死んでもらう…あいつは死ねぇええええ!」
「落ち着いて…ここで叫ばなくても…」
シュウノは引き気味でトレッチをなだめようとするが怒りが鎮まらない
「ああ…?夫がバラバラにされて両親は若返って可愛いケモミミになって妊娠して私はどう思えばいいの?憎むしかないでしょ?そうでしょ?私って笑いもの?笑った奴も殺す。」
トレッチは心願の剣を手に取り鞘から抜いた
シンプルな飾りが少ない剣だった。刀身は美しい波のような模様が金属の表面に浮かんでいた
「どう?今日から込めるからまた来なさい。私より強い異能を持つ者が込めてもいいけどね。時間切れになったらいつでも協力するわ。一緒にあの山羊を殺しましょう。」
「また来ますよ。トレッチも今はお辛いでしょうから休んでください。」
「違う…強く望んでいる…私は誰よりも山羊男の死を望んでいる…ぶち殺してやるわ…全身に怒りと憎しみを刻んでうめき声をあげさせて殺してやる!」
(前より悪くなったかもな…何とか立ち直ってもらわないと俺も近づきにくいよ…)
「あなたコロッケは好き?コロッケは殺気とかいてコロッケなのかな?私は揚げ物が嫌いだけどオーバルはコロッケが好きだった…体に悪いからってたまにしか食べなかったけどね。」
シュウノは理解が追い付かない様子で首をかしげる
「え?何を言い出すんですか?コロッケって…」
ほくそ笑みながら鼻歌を歌いトレッチは憎悪と殺意を込めながら心願の剣を握るのだった…
~コロッケ(殺気)の歌~
私は~世界中の誰よりも~
あなたが死ぬのを見たい~♪
世界もお前が死ぬのを望む~♪
他の人がお前を殺しても嬉しい~♪
今すぐ死ね~お前はすぐに死ぬべき~♪
だがお前はあがくだろう~しぶとく残る~♪
だからもだえ苦しめ~
もだえ死ぬために~♪
お前の周りも全部殺す~全て根こそぎ~♪
お前を憎む者がお前の全てを殺すから~♪
ジャガイモは潰され死ぬ~
ひき肉はひかれて死ぬ~♪
死体をミンチにして混ぜる~♪
卵とパン粉で衣を着せて死に装束~♪
油がパチパチ拍手を送る~たぎる油で処刑~♪
サックサク~♪それは殺気~♪
殺す気持ちとかいて殺気~だからコロッケ~♪
お前を殺せば後には虚無だけ~♪
復讐は無報酬のボランティア~♪
コロッケは食べればお皿の上は無くなるから~♪
作詞・作曲:トレッチ
「そうだ…あなた首都にいるパリウスと知り合いよね?」
冷や汗を流しながらシュウノが身をこわばらせる…
「え?パリウスさんですか…どうしたんですか?」
「そいつに女がいないなら私が空いてるって言えええええええ!!」




