第65話:英雄は解決できない問題は保留する
前回、セアフスの冒険者組合施設を破壊したウードは魔王を倒した英雄シュウノと対峙する
山羊男から眼能を得たウードと英雄のシュウノは一騎打ちとなる…
「戦う前にいいか?オークのお前と山羊男はどんな関係だ?ギノを殺せと命令されたのか?」
シュウノに聞かれたウードは首をかしげて上下関係ではないと語る
「詳しくは伏せるが俺は集落を失って生きる当てが無くなりダチと一緒に山羊男に救いを求めた。だが奴は似た理由でたくさん来ても困ると言い仕事の関係なら持つと語った…」
「それで仕事に必要な支度も支援もして貰ってセアフスにきたって訳よ?仕事の内容はギノに会いたくないとのことだ。俺達にどうするかは任せるとよ。ギノを遠くに連れていくなり殺すなり俺達はやろうとしているって訳だ。」
その言葉に怒りをシュウノは滲ませる
「ギノさんを殺すために他の者を大勢殺したのか?恨みと仕事をセットで考えているってことか?」
「まあ…当たってはいるな。だが矛盾はないはすだ。俺が街に入ってギノを探せばどの道、冒険者共と戦う羽目になるからな…先に組合施設を攻撃しても理にかなっているはずだ。」
「お前は冒険者が死んだからって怒るのか?俺はまだカタギには手を挙げてねぇぞ?襲った兵士は相手したがよ。覚悟して業務をしてるなら文句は言えねえよな?だがオーバルとトレッチは俺を煽った…罰として奴らに頼った連中も殺す…」
シュウノは涙を手で拭い戦いの意思を固める
「ギノさんも似たようなことを言ってたよ…でも死んでも仕方ないって言えば人間の考え方を捨てているはずなんだ…もう犠牲を広げるための戦いは止めてくれ…」
「チッ…教えてくれねぇか…ギノを知っているようだから命乞いさせて吐かせるか…俺も殺し合いにはうんざりし始めたよ。どんなことでも続けば嫌になる。殺し合いでも食事でもゲームでもな…」
「だがなんでギノなんか俺達に任せたんだろうな?俺達にはラッキーだが奴の力があれば街ごと消せるはずだ…無関係な奴らは巻き込みたくないのか?魔人を消した時には奴隷を逃がしたらしいし…まあ顔も見たくない奴がギノなんだろう。お前もギノは守る価値はあると思うか?」
シュウノはノフィスとの戦いで使用した“護符の剣”をアイテムコンプで出現させ手に取る
「価値があるかどうかは関係ない。俺はお前の暴挙から命を守るために戦う!」
◆英雄VSオーク◆
シュウノは剣を構えてウードに駆け寄る
「近接戦に自信があるのか?俺の暴れっぷりをみていたくせに…」
ウードは警戒しつつも闘技の嗅視を発動する
スースーと規則正しく鼻呼吸と魔力の体内の流れが乱れないように整える…
「てめぇの匂いを視覚化して動きを見やすくする…タバコの煙をみるように動く場所の匂いも揺らぐ…闘技:嗅視、発動!」
倒壊した冒険者組合施設の通りで戦いが始まりウードが拳を振り回す
ブン!と振り回すがシュウノは土魔法を唱える
「固き石、万年の時の中で土に消えゆきて…土魔法:石雪解!」
シュウノはしゃがんで石畳の地面に手を置いて魔法を発動した
魔力が石畳に流れていき石が溶けだしてウードは滑って足が傾く
「何?こいつ…異能以外に魔法を…まあ1等だから魔法ぐらいは異能と併用するよな…」
その瞬間シュウノはウードを剣で切りつけて右足の太ももに大きな傷を入れる
「ザッ!」
「ぬぐ…だがこの程度はセアフスの近くの林で冒険者狩りで何度もおったぜ…」
しかし、ウードの足は電流が流れはじめる
「おい…雷魔法をその剣に纏わせていたのかよ…確かノフィス様を倒した剣…聞いたことがある…魔法金属の多くは過去に龍族が力を込めて資源として利用していたと…現代まで残っている魔法資源を加工したのが現代の魔法武器…」
シュウノは護符の剣にアイテムコンプで雷魔法:轟雷残響をまとわせていた
「轟雷残響は本来、雷を中距離から打ち込んで相手に10分ほど帯電させてしびれ続けさせる攻撃魔法だ…昔、パリウスさんからかけて貰ったストックだ…護符の剣は魔法を吸収しその効果を宿す剣。」
しかし、ウードの体表が歪んだ空間で一瞬、覆われそれが晴れるとしびれがあまり効いてないように見えた
「おい、若いの。しびれはもう心地いいぜ?俺はダメージに対してどんどん抵抗力が増す肉体だ…お前の攻撃は逆効果だ…」
だが先に仕掛けていた土魔法:石雪解が地面に広がりウードは沈み始める
「さらに土魔法:沼溺を重ねがけをする…溶けだした石畳はさらに沼になりお前は沈む!」
溶けた石が沼のように泥沼と化してウードが沈み始める
「しびれさせたのは時間稼ぎか…異能だよりでもなさそうだな…若造には見えない戦いだ…本当は年を食ってるのか?」
ウードは力ずくで沼から出ようとする…沼でも力があれば動けるのは同じで剛体を持つウードには干潟と変わらない…
だがシュウノはウードの顔にアイテムコンプから発射済みの矢を出して開放し静止状態から解放されて矢が飛んでいく…
ウードは左の山羊目を片腕で守りながらシュウノを見つめる
「やはりあの目はかばっているな…間違いなくあそこがあのオークの重要な場所って意味だ…」
苛立ったウードはシュウノを観察し
「奴が扱う魔法は土魔法…そして異能で道具やストックした魔法を好きなタイミングで出す…主人公すぎてムカつくぜ…」
ウードは瓦礫の持ち上げシュウノに砂利を投げるように投げつけるがアイテムコンプの結界を出して砂利を閉じ込めて制止させる
「噴水広場の台座を投げた時はアイテムコンプとやらで防がなかった…恐らく、大きなものや重たい物ほど止めるのが遅くなるってことか?でかいうちわで防いだからできないのもあるってことだな?」
「そして土魔法をストックから使わなかったのは自分で唱えた方が威力が高まるからと仮説を俺は立てる…魔法は意思を込めて発動するもの…他人からしてもらったのや後から使うでは威力に差がでると思われる…恐らくこの状況で今の判断で使った方が魔法の効果が高いのだろう…」
シュウノは瓦礫が閉じ込められた正方形の結界を指で地球儀を回すように向きをウードに変えて解放し瓦礫が飛ぶ方向をウードにして解放した
ウードに瓦礫が何個も命中するが気にせずタックルを仕掛ける
熊の突進のような迫力が迫るがシュウノはアイテムコンプで気球に縄梯子がついたようなアイテムをだす
「魔法道具:飛び縄梯子…魔法の風船で空に浮かぶ縄梯子…高いところにかけて使うが今回は頭上にかわす」
シュウノは梯子に捕まりウードの突進から上に飛び手を放して頭上に剣を突き立てる
「バシッ!」しかしウードの両肩から細い腕が生えて真剣白刃取りを行い頭に届かない…
「パキィン!」横にひねって護符の剣を折ってしまう…
シュウノはそのまま地面に降りたがウードは突進してUターンしてまた戻ってくる
「おい!埒が明かねぇぞ?逃げるなら逃げろ!殺せる手段が無いなら諦めろよ!」
シュウノは魔法武器:地響きの槌をアイテムコンプから出し、地面をたたいて波打たせる
波紋上に衝撃が広がりウードは転ぶのだったが転倒する前に足を生やして転ばないように体を支える
「分裂能力もだんだん慣れて来たぜ…魔力もだいぶ使って残り5割くらいかな…あの小僧は相変わらず俺の進路妨害だ…あいつはもう俺を殺す手段はねぇ…ただの遅延だ…」
足に力を込めてジャンプしてシュウノに飛びかかる
「死にやがれ!クソガキが!」
シュウノは地響きの槌を叩き込むが拳で掴み握り砕く
「無駄だ!俺は力押しでは負けない!」
シュウノの横腹に手を伸ばして握りつぶそうとした瞬間…手がはじかれた
「ブゥン…」カーテンのように魔力が何層も展開されて攻撃のゆく手を阻む
薄暗い半透明な結界がシュウノをまとった…
「何?これは魔障…ノフィス様が得意としていた強力な大結界…なぜこいつが…」
「ルナムに救われた…俺にかけてくれた…それをストックしていた…」
シュウノはウードの頭上にアイテムコンプを展開し液体を解放してウードにかけた
「バチャア!」液体は空気に触れると急速にタールのようにべたべたになっていく
「それは魔法植物の執着樹という植物の樹液だ…カミキリムシみたいな害虫が食い破るとその樹液が刺激により粘着質に変貌し捕えて害虫を身動きをさせない植物の樹液だ…」
ウードは不愉快そうな顔になり怒り狂う
「てめぇ!汚しやがって!もっときれいに戦えよ!」
ウードは動いてべたべたした樹液の中でもがいて振り払おうとするがシュウノは土魔法の準備を行う…
「俺は中級魔法までしかできない…しかも中級は数種類くらいしかないがこれを実践に使うのは初めてだ…土魔法:重失を使う。一定時間、対象を無重力のようにする魔法…」
「生まれし大地より、宙に放され…土魔法:重失!」
ウードが魔法をかけられフワフワと浮かび始める…
「おい!!身動き封じたか!だが魔法は込めた魔力分しか効果が続かないはずだ…時間稼ぎならよせ!結果に差はねぇよ!ちくしょう!ダサくて画にならねぇ!」
シュウノはノフィスとの戦いで使った“飛翔の槍”をアイテムコンプから出す
「飛翔の槍は魔力を与えた分、物体にぶつかるまでどこまでも飛んでいく…そして飛翔の槍に土魔法:追足をかける…」
「追足は引力のような力を2つの標的にかける…前者にまず目標として設定し、後者が追うように設定をする…」
「飛翔の槍を目標に設定…そしてお前に追う側としての設定を行い…」
シュウノはウードにバシュッと土魔法:追足をかけた…
シュウノは飛翔の槍を空に向けて構えた…
ウードは何をするか感づいた
「おい!小僧…やめろ!それは反則だろ!ちゃんと勝負しろ!」
シュウノは哀しみを浮かべた表情で空を眺める
「倒されたくないなら画面の外にいてくれ…お前を倒したい人はもう恐らくいない。誰の敵にもなるな…」
シュウノはビュンと槍を投げるのだった
「うあああああああああ!!!!!」
ウードはまるで空に落ちていくように飛翔の槍についていき見えなくなった…
「クジー!空にいるなら助けてくれー!」
ウードはどこまでも飛んでいき雲を突き抜けて時間をかけて斜めに星の外へ飛び出した…
飛翔の槍は魔力が切れてどこかに飛んでいくがウードは放り出され星の重力に引かれて周回し始めた…それは人工衛星のように…
「あああ…声がでない…空気がないからか?俺はまさか剛体で死ねないのか?体も凍り始めた…」
ウードは表面が凍り始めきりもみに体が回りながら惑星アグルスの周りをぐるぐると回り続けるのだった…
「ちくしょう…俺の負けかよ…納得いかねぇな…スターになるってこういう意味じゃねぇだろ…」
ウードは頭も凍り始め特技の頭の回転も止まってしまった…
◆妻の元へ帰ってきた英雄◆
アルシオンは公園で盗賊のクジから守るためセイルとルナムの近くにいた
セイルが多くを語らないアルシオンに腹を立てている
「あなたは何者なんですの?シュウノとどんな関係ですの?」
「悪いが護衛と無関係なことには答えない。あまり相手に要求ばかりするな。それとルナムくんだったか?その匂いを嗅いでサイコメトリーをしようとしたら私は帰る。今回のオークは1等冒険者でも殺せる程強い。だから彼が戦うのが適任だ。」
ルナムはアルシオンに畏れ似た何かを感じた
「何?私がしようとすることを当てた?初対面のはずだ…何者だ?」
二人が話しているとシュウノが帰ってきた
「オークは倒したのかね?追い払った盗賊は来なかったよ」
二人の妻は喜んで迎える
「まったく…私を他の男に預けおって…だがあまり義のために戦った者を悪く言ってはいかんな…お前は私の夫にふさわしい。」
「ルナムはおだまりなさい!シュウノ!よかった!帰って来てくれた…」
シュウノは妻を2人見られて恥ずかしながらも恥を捨ててアルシオンに礼を言う
「アルシオンさん…ありがとう…でも冒険者は大勢殺された…俺の子だけ優先したような話になったけど…」
「冒険者は危険を承知で戦いを仕事にしているが子供はそうではない…冒険者が100人死んだとしても赤子を優先するべきだと私はおもうがね。」
アルシオンはシュウノに心の痛みと人の在り方について話す
「昔話をしよう…私がローディグ王国での伝説になった話だ…かつて魔王サフィアムを下剋上で殺した龍人の2人組がいた。奴らは才能を見込まれ光魔龍に仕え、実力を認められ飲むと龍人になれる龍血を光魔龍から作って貰い龍人になった凄腕の戦士だった…」
「だが奴らは光魔龍の手元から離れ世界平和のためとぬかし当時の魔王を殺して魔人たちを畏怖させて従わせ世界征服を実行しようとした。光魔龍は動く体力は残っていない状況だった。力を貰って光魔龍を用済みと去り、自分たちが世界を平和にするとぬかした。」
「その二人は10人のエリート魔人を幹部に持ち攻撃を開始した…私が魔人たちを全て倒し、問い詰めた。“どう平和にするのか?”と」
「一人は力で悪党や独裁者を全て殺すと言った…もう一人は憎まれる存在がいれば世界の敵になりみんながまとまると言った…」
「二人とも詐欺師の人殺しだ。ヒーローショーで世界を騙そうとしていることを平和だと言っている。だから私が2人を殺した。アグルス神に問い合わせたら二人は死後に冥界の近くまで落ちたらしい。理想を掲げて暴れている者ほど生活は困っていない。奴らは城まで魔人に用意させ不自由なく暮らしていた。」
「君は間違いなくペテン師ではないよ。ちゃんと哀しみや人の苦しみに痛みを感じれる人間だ。」




