第62話:英雄と二人の妻と盗賊
前回、街の林で腕慣らしを終えたノーマルオークのウードは呪詛の実を伝言役の風見族のコベグから呪詛の実を二千個追加で支援を山羊男から受け、ついにセアフスの門を正面突破するのであった。その目的は冒険者組合に弟の敵討ちをすることと山羊男の飼い主のギノを探すことである
ウードは呪詛の実から得た魔力をブワっと力んで全身にみなぎらせた
「よし…魔力の放出も体調も良好…俺は魔術を使えないが魔法生物の端くれとして体機能の魔法を魔力消費により任意で使える…電気うなぎが電気を出したりする感じだ…今の俺は中から上の間の魔法使いの魔力量ってとこかな?」
「オークの魔法生物の能力は生殖…つまり自分を分裂させることだ…本来、負傷や死期が近いオークが自分を材料に子を残す死を伴う行為だが魔力量の増大と眼能の剛体の肉体強化によりコントロールがある程度可能だ…」
ウードの体がもこもこと動き背中にメリメリと手が生えた…
「手数を増やす…ククク…呪詛の実とやらも嘘じゃなかった…山羊男は神様だぜ…魔法と眼能のコンボといこうかい?山羊男にもこれはできないだろうぜ?俺の一芸だぜ…」
ウードは走りながら向かってくるセアフスの兵を殴り、グシャっと顔や頭を陥没させて殺していく
「紙人形かお前ら?俺は見逃すが向かってくるならどんどん殺すぜ?気を付けろよ?サービスを受けるなら注意事項を確認しないとな。」
街の兵が怯えて後退し弱音を漏らす
「だめだ…あいつは1等じゃないと戦えない…」
ウードは暴れながら露店で地図を欲しがった
「おいおばちゃん?地図を売ってくれねぇか?俺も少しはダチから金を貰ってるからそれくらいはあるぜ?俺は魔物だから店には入れんが通りすがりに頼むときはあるからな…売ってくれよ?」
おばちゃんは血まみれのオークをみて「ひああ…」とひっくり返った
「やっぱ街には俺は合わねぇな。オークは馬鹿で俺とは合わない。人間はオークを殺すから人間とは合わない。となると俺は暴れるしかないわけだ…救いがねぇとはこのことだが俺には山羊男がいた。」
「勝利の女神が日和見主義の八方美人なら俺が山羊男の手先になって勝利の女神も殺してやるよ。敗者が多数派の世界なんか全員敗者になればいいんだ。みんな不幸で幸せだろう?」
◆組合事務所にて◆
シュウノとオーバルが話していたら連絡員がオーバルに報告を始めた
「街に例のオークが侵入して暴れているそうです!ここに向かっているとのことです!」
オーバルはウキウキと大剣を自分の座る施設長の場所から取り出し背中に背負った
「よし…身の程知らずのオークを退治しようじゃねぇか?俺が代表としてどの程度が見てやる。」
シュウノは焦り
「まずい…未来視が近い未来を視ていたのか?家に帰らないといけないがここを見捨てるのもよくない…どうする?」
「兄さん?どうしたんだい?嫌そうな顔をしているな?参加しないのか?」
「参戦は義務ではないから構わない。体調やその時の事情も冒険者はあるからな。だが後で腰抜けだと言われないようにするんだぜ?」
シュウノはすまないと頭を下げ
「また戻る!今は外せないんだ…すまない!」
シュウノは組合事務所を出て行った
その様子を不気味に透明化魔法と浮遊のコンボで上空から見つめている男がいた
ウードと別行動をしていた盗賊のクジである
「ウードの野郎、派手にやりやがったな。まったくあいつらしくねぇ。だがこの状況を利用するぜ。ギノって男を探す上で冒険者共は邪魔になる…確かあいつは魔王退治の有名人のガキのシュウノだな…あいつの家にいっちゃおうかな?お宝とか貰うのもありだぜ…」
クジは透明化魔法をかけたままシュウノの真上を飛んで尾行するのだった
「俺の持つ透明化魔法と眼能の浮遊があればいけねぇ場所は海か地下ぐらいのはずだぜ…最高の組み合わせだろ?」
クジの思惑を知らずシュウノは急ぎ足で走りながら家に向かっていく
「未来視がこんなに近い未来だなんて…時期を聞いておくんだった…いや…俺が甘いんだろうな…」
◆シュウノの家で◆
シュウノは家に着くとセイルとルナムを確認した
ルナムは掃除をして玄関の近くにいた
「なんだ?もう帰ってきたのか?それでこの前の癇癪の気は済んだのか?」
「よかった…ルナム、セイルはいるのか?」
ルナムはシュウノの慌てぶりに疑念を抱きながら訪ねる
「どうした?偉く取り乱しているな…セイルなら豚のように昼寝をしておるぞ。」
シュウノは、ほっとして近くにより
「ああ…よかった…俺の妻たちも子も無事だ…」
しかしその瞬間、家がゆっくりと浮き上がった…
「バキバキ…」室内の者も無重力のように浮き始める
「な…なんだ?浮いてる…魔法か?」
ルナムが魔力を感じないと教える
「違う…魔人は魔法使い以上に魔力に敏感だが魔力は感じない…未知の力…山羊男か?」
「なに!?俺の家に来たのか?」
すると上からシュウノの足にカギづめロープが巻き付き窓から放り棄てられた
シュバっと放り出されシュウノだけ浮遊の範囲から放り出し家から離脱させ家は上に浮かんでいく…
「しまった!誰だ!」
シュウノは20m位から落ちて受け身をとった…
クジは窓の側にいて勝ち誇った顔でシュウノを見つめる
「家ごと貰うぜ?お前の女も人質だ…返してほしけりゃ後で手紙を送るぜ?追いかけたらこの家を落として女はただじゃすまないぜ?」
「お前…なんで…やめろ!」
シュウノは声を荒げて叫ぶがクジは鼻で笑う
「ククク、叫んだ方が負けだぜ…魔王を倒した割には内面が浅いな。ドミノみたいに倒れやすい
シュウノはアイテムコンプから魔法を取り出した
(俺の異能:アイテムコンプは俺の異空間にストックしたアイテムや魔法を好きな時に呼び出し使用する能力…)
透明な正方形に包まれた風の魔法を行使する
「風大魔法:鳥人飛空…扱える者が少ない希少な風の大魔法、風の魔法をまとい推進力を好きな方向に発生させ人間でも空を舞う上級魔法…ストックが3つしかないが今使う!」
シュウノは飛びクジのいる方向へ飛びながらアイテムコンプで矢を飛ばそうと思うがクジが死んだら落下するのでためらってしまい剣を構えて近づく
「今すぐ降ろせば許す!早く降ろせ!」
「おい?馬鹿野郎はお前だぜ?俺は浮遊を使えるしある程度物を動かせる…つまりお前は罠にかかった…」
シュウノが近づくと見えないべたべたした何かに当たり体表に砂と油のようなものが体にまとわりついた
バチャッ!「な?…この感触は…」
「鍵や壁を破る時に持ち歩いている火薬と家にあった植物油を混ぜたものに透明化魔法をかけて浮遊でさっきまいた訳よ?簡単な罠さ…超能力はずるいねぇ?だがお前らも異能で俺達を蹴散らしたはずだ…俺達は生きるために盗むがお前らは余興で俺達を蹴散らすよな?どっちも変わらんが社会はお前らを認める。社会もお前らも異常だとおもわんかい?」
「浮遊で風に飛ばないようにある程度場所を決めれるからな…最高だぜ?プレゼントのマッチをどうぞ!マッチ売りの盗賊って、とこかな?」
クジは大量のマッチをこすり投げつけて浮遊でシュウノに近づけて着火した
「ボフッ!」火薬と油が発火しシュウノは火だるまになり落下する
「ぐああ!」
「あばよ僕ちゃん?それくらいじゃ魔力持ちを殺せないのは知ってる。だが家はいただくぜ?」
シュウノは初級の水魔法の川衣のストックをアイテムコンプで出して発動し水を全身に覆い鎮火する
ジュン!「お前は許さねぇ!」
しかし、シュウノが慌てている間にクジは家に透明化魔法をかけて見つけにくくする
「馬鹿だねー!俺はもう部屋の中だぜ?下手に騒げばお前の女はどうなるか知らないぜ?あばよ。」
クジは浮いた家に侵入しルナムを見つける
「英雄さんの彼女かい?俺は彼女がいなくてね。悪党同士でできればいいが悪党に美女はあんまりいないね。まったくムカつくぜ?英雄さんだけなんでも手に入れて…」
「金目の物を教えろよ?そしたらお前らを安心できる場所に降ろしてやる。俺はカタギを殺さない主義だが暴れたら事故もあるから気を付けな?だがしばらくシュウノの脅しの道具になって貰うぜ?」
ルナムが山羊男に関係があると疑い軽蔑の目を向ける
「お主は山羊男に媚びへつらったのか?全く…助かるにしても、あやつに頭を下げるなら死ぬより悪い意味になるかもな」
「おい?勘がよすぎるな…だが山羊男は人間より負け犬に恵んでくれるぜ?俺達はどうせ負けて死ぬ側。夢を見て山羊男でも神でも手を差し伸べた方がマシだろう?お前は魔人だな?お前も強い側だったのに山羊男にぶっ殺されて生き残った負け犬って訳かい?」
「戦争に負けた蟻は巣を失って死ぬ…でもシュウノの坊やの家にいるってことはあいつに寄生して生活してるんだろう?なら俺と山羊男の関係と同じだろ?」
「私もお前も似ているが一つ違うのは山羊男は人間も魔人も滅ぼす側だということだ…あやつの側で安心できると思うな…」
「話は終わりだ。俺は救命ボートで沈む船を見る側に行くよ。お前はオワコンの英雄の側で落ちぶれな。一緒にセアフスの外までいくぜ?シュウノを脅す材料になってもらう。」
すると寝室でセイルの声が大声で聞こえる
「なんですの?浮いてる…お腹の子が危ない!!」
クジは苛立ちを浮かべた表情で呆れる…
「おいおい?どういうことだ?妊婦と魔人の女が家にいる…お前らシュウノとそういう関係か?あのスケベ野郎…ぶっ殺してやろうか?でも脅した方が苦しむだろうから2名の人質でラッキーかな?脅して搾り取って最後はどくされゴシップ紙の記者にネタを売ってやる。」
外にいたシュウノはティアニスから以前、かけて貰った回復魔法をアイテムコンプからだし火傷を治療しながら飛行して探していた
「くっそ…俺のせいだ…アルシオンの言うとおりにすぐに家に来ていれば…」
シュウノが焦りで途方に暮れていた時だった
家の透明化がとけゆっくり降下しはじめた…
「なに?どういうことだ?盗賊が手を抜くわけが無い…」
◆家の中で◆
クジがセイルを浮かべて文句を吐き捨てていた
「あんた、たしかセイル・ルトプッシだな?見つけたら賞金まででる貴族の家出娘…話じゃシュウノの英雄チームに金や街の移動などの手続きを手伝っと聞くが男女の仲になってたのか…それで魔人の女までいる…」
「豚野郎ども…生まれ先は人間ではなく豚がマシじゃねぇのか?」
「俺は赤子の時にスラムに捨てられて親も知らねぇがお前のガキもスラムに捨ててみたいね。それで盗賊にならずに済むか実験しようぜ?」
セイルは顔を真っ赤にして
「おだまりなさい!あなたに関係ないですわ!この卑しい盗人!」
クジはその発言に腹を立てる
「好きで盗賊になる奴は少ねぇよ。明日を生きる糧のために悪さして足を洗えなくなりそのまま死んでいく奴が大半さ?お前は貴族にも生まれて英雄からも金で養われている。それで卑しいなんか言われたくないね。」
「流産したくないなら俺に従いな?俺はガキが嫌いだ。昔を思い出すし母親も見たくねぇ…そうだ!お前、俺にそのガキくれよ?もしくはお前が虐待して悪ガキにしてみたらどうだ?」
セイルはクジの口調に恐怖を感じて口を閉じてしまう
「おい?犯罪者が怖いって顔だな?正しい反応だ…だが生意気言った分は少し手痛い目にあわせてやりたいね。俺が甘いって思われても嫌だからな。奇麗な世界に生きてたその顔に傷でもつけちまうか?」
「…俺は失敗はしたがセアフスを荒らしていた魔人フェジェと手下の人間の極悪チームから金を盗むために仲間と潜って騙し打ちで殺してる。フェジェが毒で死なずに仲間が殺され俺は逃げる羽目になったがよ…」
だがクジが喋りすぎていると後ろから誰かが忍び寄り…
「ガン!」クジが凄んでセイルを委縮させているとモップでクジは殴られて転がった…
「ぐあ!後ろか!シュウノは外で迷走してるはず…」
クジの後ろにいたのは清掃員だった…
アルシオンはシュウノの家にすでに居たのだった
「若造…そこまでにしておけ…子供まで危険にさらすな…盗賊はカタギや子供には手を挙げないポリシーはあるはずだ…それすら無いなら野盗や強盗と言え…」
「何だ!おっさんが家に?どうやって…元々いたのか?」
アルシオンは家を走ってクジに近寄るがクジは浮遊をアルシオンにかけようとする
右手をかざして眼能を試みるも…
「なに?浮かない…なんであのおっさんは…」
アルシオンは走ってクジをモップで殴り倒す…
「痛え!…クソ…異能持ちかよ!清掃員が異能ってなんだよ!」
「なんだ?あのおっさんの周りにボールか風船みたいなのが浮いてる…異能かよ、めんどくせぇ!」
清掃員の周りに風船のような球が浮いている…それはモニターのようにアルシオンが浮いている様子が球に映っていた…
「ゆっくり家を降ろせば痛めつけるのは止める…」
クジをモップでさらに殴ると風船のような球はパシッとはじけ飛ぶ
クジは浮かび上がって吹き飛ばされて壁にぶつかった
「ぐあっ!…なんだ…まさか、あのおっさんが食らった攻撃を俺が食らったって意味か?」
「君は無駄口が多い…戦闘中は隙を少なくするべきだ…早く家を降ろせ…警告を無視するなら足を落とす…」
アルシオンは魔法を唱え始め…
「…汝、豊かな土地、自由に駆けること我、憎し…呪魔法:針踏足…足を呪った…君は歩くたびに激痛が走る…」
クジの足に呪いの呪文がかかり邪な文字が張り付くようにまとわりついた
足を動かすと針でたくさん刺したような痛みがズキズキと走り悲鳴を上げる
「…あああ!おい?歩いてねぇのに痛ぇよ…早く解け!」
「君を捕まえる。君の徳はかなり低い。このままなら恐らく4つ下の星に落ちるかもな。今からでもやり直せば2つ下までには抑えられる…」
「何を言ってんだ?…足が痛てぇ…わかった…取引だ…降ろすから俺を見逃せ…どうだ?」
「早くしろ…君は見逃した方が不幸になると思うがね。せめて新しい命は君のようにならないように願うべきだ。」
クジは家を降下し始めた…
(大人しく捕まるかよ…このおっさんは何者だ?冒険者なのか?こんなに威厳があるのは初めてだ…ガキみたいな奴しかいないと思ったらとんでもねぇ…)
家はゆっくり下に降りて来て街の空き地に離陸した
「おい…降ろしたぞ?早く解きやがれ!痛いんだよ!」
「しばらく寝ていたまえ…君は今後、悪さするだろうから今回で打ち止めだ。」
クジは焦りでパニックになる
「ああ!騙すなよ!ちくしょう!」
その時、クジの右手の山羊目が不気味にギョロギョロと動き浮遊の眼能に変化が起きた
クジの足から歪んだ空間が広がりアルシオンがかけた呪いの魔法がゆらゆらと浮き始めた…
「なに?…俺の足から魔力が浮いてる?そうか…ウードは戦うほど体力が強くなるって言ってたから、俺の浮遊も危機を感じるほど強まるって訳か…魔力を浮かせて俺から離れさせれることもできるってことか?…ピンチで強まるって俺は主人公だぜ!」
クジは透明化魔法を自分にかけて窓から浮遊で脱出しビュンと勢いよく上昇していったのだった
「あばよ!もうおっさんには会いたくねぇ!本業に戻るぜ!」
アルシオンがクジの撤退に愚痴りつつその場を制すのだった…
「全く、山羊男の呪いに毒されたか…この調子では徳はもっと下がるだろうな…」
◆妻が2人の英雄と清掃員の苦言◆
シュウノは家に駆けよって入り急いでセイルとルナムの安否を確認する
「2人とも大丈夫か!?返事をしてくれ!」
「シュウノ!おそいですわよ!早く来てくださいまし!」
セイルはシュウノに抱き着くがルナムはアルシオンを不気味がっている
「全く、本気なのは伝わるが絵にならんな。子は無事だからよかったが私もセイルも無事だ…この男は何者だ?」
「ああ…よかった…2人も無事で…」
シュウノは思わず涙を浮かべるがアルシオンが無表情で見つめている
「君の子を心配して来てみたら未来視があたりかけていたね。確率が高い未来を視る力だから確実ではない。私は君の子を助けたが代わりに冒険者組合の方は私が助けなかったことになる。だから未来視はこれまで封印していたのだ。」
「これからどうするね?私はここまでしたから君の子を今日は見張ろう。さっきまで冒険者組合に情報確認に行っていただろう?助けにいかないのか?自分の子だけ助ければいいのなら君はここにいなさい。」
シュウノはアルシオンに頭を下げ
「本当にありがとう!あなたが見張ってくれるなら冒険者組合に行く!これ以上、山羊男の力で犠牲が出るのは嫌なんだ!俺はできることを出し惜しみして後悔したくない!」




