第58話:英雄と盗賊とオーク
今回の登場人物
山羊男:頭が山羊で体は人間の白い毛で覆われた怪物にして不満の化身。自分を不幸にする現象から対抗能力を生成し強くなり続ける存在
クジ:盗賊で山羊男の能力のコピーの浮遊を授かる
ウード:ノーマルオークで山羊男から能力のコピーの体力を授かる
用語
眼能:山羊男が与える能力のコピーのこと。貰うと山羊の目が対象の肉体に現れます。山羊目は山羊男の分身みたいなもんです。
シルバナの族長の館にて
山羊男のキャベツはマレロニーにかなり精神を害され気分が悪そうだった
チョウザメの特徴を持つ鱗清族のベルトラはその様子に怒りを見せる
「あんたは無敵の怪物なんでしょう?あんな狂人に言われたくらいで怖がるなんてしっかりしなさいよ。リボバルみたいに殺せばいいでしょう?」
「俺が気分次第で殺せばお前らにとっても危険で付き合いづらいはずだ…俺は人間と同じになりたくないから一定の規範を自分で守りたいと心がけている。だからお前らは俺に近づいたんだろう?お前の主張はお前の立場とずれているはずだ…」
「お前に質問だが相手を追跡する魔法はあるか?相手の場所がわかる手段があれば助かるのだが…この前、ウードとクジが来ただろう?あいつらに連絡するときにどこにいるかわからないと困る。郵便も奴らはアウトローだから届きにくいだろう?」
ベルトラは金があればできると言う
「魔法のコンパスがあるわよ。『記憶磁針』と言って相手の魔力を覚えさせて針にその方向を向かせるコンパスよ。1個10万ルオン(1000万円)もするらしいけどね。相手が魔力持ちでないと使えないし…」
「それを買ってこい…金が足りないなら呪詛の木以外も用意しよう…予備も含めて10個ほどあればいいかもな…そのうちの2個はクジとウードを覚えさせて来い…」
ベルトラは意外そうな顔で正論かつ誰でも思いつくことを言う
「あんたは自分で能力を編み出せるんでしょう?探索能力とかつくればいいでしょ?ウードもクジも悪党だから大金払って心配しなくても使い捨てにしてもいいんじゃない?」
「今のところ、それはできない…相手の攻撃や手段を受けないと俺の力は増えないようだ…何度かバロットの仲間に頼んで攻撃させてみたが実験の結果は何も起こらない。恐らく故意や作為ではできないのかもしれない。」
「おまけに俺は自傷行為にかなり抵抗がある方だ。自分をつねるのが限界だ…自分を傷つけるのはかなり恐怖に近い何かを感じる。自分の肉を毟るのが関の山だ。」
「不思議な話だ…イテミスと戦った時は内側も外側もボロボロになったのに傷はその日の内に治った…自分でつねって肉を毟っても治るのに自傷行為は大きくはできない…なぜだろうな…」
「クジは盗賊でウードはオークだがお前らと同じだ。助かる道を求めて俺に立ち寄った…お前がそれを否定するのならお前は俺の元から去れ…」
「あんた、いけ好かないわね?私はあんたに命をかけるって前に言ったわよね?貢献度や気持ち次第では扱いには差や優遇をしてほしいって意味よ。あんたが鱗清族ならよかったのに…」
「その場合だとお前らは俺に鱗清族のために人間共や他の亜人共を殺せと上から言われて使われていたか、イテミスみたいにお前らを率いて魔人のようなことをしていたかもな…俺が公平さに悩めるのはどの種族からも出身にしていないからだ…」
「所詮、俺はお前らに有益な力があるだけで俺自身にアイドルのように人を引き付ける魅力はない…」
ベルトラは奇妙な関係の山羊男に信頼を感じるのだった
「やっぱり人間や魔王よりあんたはマシで上よ…普通はカリスマとか勢いの良さで配下を感動させたりして手下をその気にさせて増やすのにあんたは公平感で相手と付き合おうとする…」
「上か下かは家畜の俺には関係ない…支配されるのは俺も嫌だからお前らもされたくないだろう?それよりケセマ村に実験用の山羊を買いに行ったバロットはまだ帰らないのか?」
「あんたは早いけどケセマ村は遠いのよ?おまけにあんたと同じ顔している山羊だっけ?白い山羊なんかどこでもいるけどそれを全部、買ってきてシルバナに連れてくるなんて時間がかかるわよ。」
「ケセマ村はあんたが悪党をいっぱい殺して奴隷にあげたんだっけ?ただで山羊を貰えばいいじゃない。金の無駄よ。」
「お前もただで俺の仕事をするのか?俺に何かを期待するなら早く記憶磁針を買ってこい…」
その話を聞いていた外の風見族の男が入ってきた
カワラバトの特徴を持つコベグという男だった
「すいません。俺に任せてくださいよ?ベルトラはパシリなんか嫌でしょ?俺の名前はコベグっていいます…アルガナ神にお願いしたいんです…図々しくて言いにくいですが…パシリでもなんでもやるから眼能をくださいよ。」
「普段はバロットがあなたの近くにいるから話しかけにくくて…俺、魔人をあなたがぶっ殺したのは見てましたよ。ボォン!って、音が出る爆撃が欲しいです!」
「風見族は飛べるから鬼に金棒ですよ…盗賊たちだけずるいですよ。人間のヒーローも最後はボォンってバックにやるショーがいっぱいですよ。わかりやすくてなんとなくかっこいいっすよね?」
「その件では後で話をするつもりだったが待ちきれない連中がいるらしい…いいだろう…クジとウードに記憶磁針を買ってきてコンパスに覚えさせて来い…」
「お前を奴らの伝言役をさせるがそれでいいならくれてやる…ベルトラ、金をコベグに渡して買いに行かせろ…」
コベグは、ほくそ笑んでベルトラに勝ち誇る
「ベルトラちゃん。パシリが嫌そうだから俺が先を越しちまったね。シルバナに来たなら文句を言ってないで従った方が得だぜ?」
「ふん、順番なんか私には関係ないわ…あんたも鳩なら先を飛ばずに後ろをついていくことね…」
キャベツは宗教に関する本を本棚から取り出し、さらに別の棚の小説の脚本の作り方の参考書を机に置いた
「ベルトラ…お前らの族長のクラスパに伝えろ。避難所の建設が終わったら魔法や眼能を試す演習場をうるさくてもシルバナやアルガナ村に届かない場所に作ってくれ…」
「アルガナ党員も土地の整備に協力するように伝えてこい…。今度の集会で力を使える場所はシルバナでは厳しく制限するとアルガナ党員には伝える。」
「本を読むから用が無いなら二人とも出ていけ…あまりしゃべるな…」
「まったく…あんたは女の扱いが悪いわね…男女平等ってあるけど優しく言われたいもんよ。あんたでも完璧ではないって意味かしら?」
「優しいとはなんだ?意味を教えろ…人間がペットを飼い安心感を感じる意味か?格下の立場に余裕を分けることか?」
「あんた、血も涙も流れてないっぽいわね。根性をたたき直してやりたいわ。あんたが鱗清族だったら付き合いたかったわよ…マレロニーと結婚とかしたら私は嫌だからね。」
「やめろ…マレロニーの結婚の話はやめてくれ…頼む…考えるだけでも恐ろしい…」
****雑魚のコンビのリベンジ
クジとウードはクジの浮遊の眼能により空を移動していた
「すげぇな…これだけ飛んでも疲れ知らずだ…右の手の平が不気味になっちまったがな。リボバルの旦那は呼ばなきゃよかったか?」
「俺達よりリボバルの旦那のほうが遥かに利用価値はあったのにぶっ殺すって…あいつは優劣じゃなくて内面を見てるのかもな…神でも悪魔でもない存在か?…俺達を不利にする気が全くねぇ…」
「手柄も無く、こんなとんでもねぇもんをポンとくれるなんて気前が良すぎるぜ…あの化け物はギブアンドテイクって言葉に反応したから利益ではなく公平な意味や関係を欲しがってるってことだよな?」
ウードは呆れ気味でクジを見つめる
「山羊男がいきなり殺しに来たら怖いからその時のためにお前がリボバルに金払って召喚魔法で俺達を逃がす契約だっただろうが?あいつが下手にペラペラしゃべって怒らせて真っ先に殺されたからビビったぜ…だからリボバルは呼ぶなって言ったんだ…いや呼んでよかったか?どう見てもクズ野郎だったしな…」
「どうやら支配や奴隷が大嫌いらしい…イテミスの傲慢な馬鹿より断然、山羊男がマシで立派だ…俺にも救世主がいたってわけだな…」
「俺も調子に乗りすぎて魔人やリボバルみたいに殺されねぇように注意しないとな…」
「決めたぜ、俺は山羊男にコバンザメみたいに末永く付き合うぜ…偉そうに他人を見下して命令しないから最高だ…もっと早く会ってりゃ弟も死なずにすんだのにな…」
「お前が浮遊なら…俺のは剛体と呼ぶか…さっさとギノって野郎を消して他の力ももらうぜ…」
クジは口を酸っぱくして手柄を独り占めするなと釘を刺す
「おい?共同作業って筋書だぞ?お前が一人で済ましたら俺がもらえないからな?そんなことしないと思うが、強くなったからって俺を脅すなよ?」
ウードに言うが笑顔で悪態を返す
「相変わらずクジは賭けには強いくせに、せこい野郎だぜ…俺がお前に力で脅したことねぇだろうが、見損なうなよ?だが確かに周りも不安になるかもな。怖がられるほど力を得るのも考え物だぜ、へへ」
「イテミスもこんな気分に毒されて傲慢になっちまったのか?俺を殴ったあの野郎が生きてりゃ俺がぶっ殺したい気分だぜ…」
ウードとクジはゲラゲラ談笑しながらセアフスの上空に近づくのだった
「俺をセアフスの近くの林に降ろせ…騒ぎを起こして冒険者共をおびき寄せる。クジはセアフスに潜ってギノの情報を調べろ。腕慣らしに2等以上からぶっ殺してやるぜ…」
「おい?そういやケセマ村に山羊男が後で行くって言ってたな。多分、リボバルの旦那を殺したからスディッキュ領主も死ぬかもな。そしたらよ?リボバルとスディッキュの金を盗みに行っちゃおうかな?」
「今はギノを探すのが先だぜ?金なら後にしろ。後、冒険者で筋骨隆々の大男がいたら知らせてくれ…クジも見てたからわかると思うが弟のユーリの仇だ。ぶっ殺すぜ。隣にいた女の冒険者もな…死体を粉々にしやがって…二人ともひき肉にして混ぜてやるぜ。」
「確かケセマ村の情報屋から聞いたがあいつらはセアフスでもトップ連中の冒険者だ。名前はオーバルとトレッチだったか?無計画に襲えばやべぇぞ?盗賊狩りをするのは冒険者共なら当たり前で盗賊なら常に冒険者の情報を仕入れるのは基本だからな。」
「へっ…レベル上げなら林でやるから心配いらねぇよ。今回は逆だがな。オークが人間の強者を殺してレベルアップするってことだよ…」
「物語や読み物にはならねぇがな。英雄物のストーリーのヒットタイトルのほとんどは定番の話だ。化け物を殺して男女が愛し合う…俺がそのくだらねぇ茶番を血の海に沈めてやるぜ…」
「戦いや殺し合いってのは普通は双方が不幸になるもんだ…俺が悲惨で残酷な現実ってもんを目の前にぶちまけて目を覚まさせてやるぜ。楽しい娯楽のような人生の連中は全員、不幸のどん底を与えて辛酸を舐めさせた上で叩き殺してやる。」




