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暴虐の山羊男 その名は

尋問室に、衛兵の怒号が響いていた。


「お前が飼っていたあの化け物について、知っていることを全て吐け! 目撃者は大勢いるんだぞ! 」

「貴様の小屋からあの怪物が出てきたという通報も上がっている!」


おっさんのギノは衛兵とのやり取りにうんざりしていた


「…だから、何度も言っただろう。俺は化け物なんて飼っちゃいない」


「では、噴水広場の事件と無関係だというのか!」


衛兵が声を荒げるが、ギノはこじつけだと言い切る。

そしてタバコ屋でばったり会った時のことを話し始めた。


「…ただの山羊だ。俺の小屋にいた、どこでもいる山羊だよ。俺が折った角の形も、目の色も毛の色も…タバコ屋で見た化け物の顔が同じだ。」


ギノは視線を宙に浮かせ、遠い記憶をなぞるように呟いた。


「あいつは間違いなく、『キャベツ』だ」


その瞬間、尋問室の空気が凍りついた。


「……は?」


衛兵が、あまりに拍子抜けするペットの名前を聞いてまるで理解不能な言語を聞かされたかのように動きを止めた。数秒の空白の後、衛兵の顔がひきつる。


「この非常事態に、ふざけた冗談を...」


街の代表のカタム領主は部屋の奥から様子を見ていた。

衛兵から報告を受けていた。


「あの男の身辺情報のレポートを見る限り、ただの小市民です。」


カタム領主は面倒そうな表情を浮かべながら


「理由はこの際、どうでもいいがあの男の小屋で虐待された山羊が怪物になったという話だろう?」

「魔王を倒した若造たちが委縮するような化け物だからまた来られても似た結果になるだろう。山羊男にこちらから刺激を与えるべきではない。」


衛兵は「それでは、どういたしましょうか」と尋ねると


「あの化け物が知能を持っているなら、間違いなくこの男を恨んでいるはずだ」

「また山羊男が来たらあの男を差し出す。それまでは健康を管理しながらストレスを与えないように待遇を与えて要人用の特別療養施設に軟禁しろ。」

「くれぐれも、感情任せの愚民どもの気晴らしでギノが襲われないよう厳重に見張れ。」


衛兵は「了解しました。」と言い領主と共に退席した。



***酒場とメイリオへの手向け


シュウノ達はメイリオが投げつけられて壁をぶち抜いた酒場の店内でメイリオの遺体を確認していた。

メイリオの美しい容姿は見る影もなく、頭の形は残っていたが顔はボロボロで誰かわからない。

壁にぶつかって四散した部分をティアニスが拾い集めてヒール魔法の一種で防腐措置をかけていた。


「メイリオはせめて葬儀の時は奇麗にしておかないと――」 

「後で、一緒にいたころみたいに形だけでも直してあげますからね」


シュウノは無力感で押しつぶされそうな気分で呆然と遺体を眺めていた。


イグナはかなり不安に駆られている。


「山羊男が帰ってきたらどうするの?」

「このまま策もなく戦えば、メイリオみたいに全員やられるわよ?」


シュウノは無言で酒場から出て噴水広場を見回していた。


「なぜこんなことに...」


広場の鳥型亜人の遺体を荷車に乗せていた右目に眼帯をした清掃員が目に留まった。


「この世界にも山羊男が出たのか…」


清掃員が漏らした独り言を聞き逃さず、シュウノは詰め寄る。。


「あんた、さっき山羊男が何と言った?何か知ってるのか?」


「初対面の年長者に『あんた』はないだろう?」


清掃員は少し苦々しい表情で咎める。


「山羊男が出て暴れたのかと独り言だよ」

「君は新聞で見たが魔王倒した英雄のチームのリーダーだったね。」

「山羊男と戦う気がないならチームを解散して、どこか遠くに隠れなさい」

「気合や根性で勝てる相手ではないのだろう?」


シュウノは少し苛立った様子で軽口を言うなと悪態をつく


「俺の仲間がやられたんだ」

「そんな風に説教はしないでくれ」


清掃員は態度の悪い若造だと思いながら無表情で返事をする。


「仕事の邪魔になるから噴水広場であまりうろちょろしないでくれ」

「他の遺体を荷車に乗せて後で石畳の地面から血を拭き取らなければならない」


そういうと、荷車を引いて別の方向の遺体がある場所へ移動していった。


酒場に荒い声が聞こえ目をやると衛兵が集まりティアニスが激しく口論していた。


「メイリオを渡せだと?ふざけるなよ?」


「ティアニス殿、カタム領主の決定です。妨害すると処罰が下りますよ。」


ティアニスは顔がかなり赤くなりさらに興奮している。


「はぁ?貴様らこそ私が処罰するぞ?」


イグナはティアニスに諦めろと諭す。

「ティアニス、今は山羊男を倒せない。おとなしくカタム領主の方針に従うべきだ。」

「死人のために住民を犠牲にできないだろう」


シュウノが近づき「どうしたんだ?」と不安そうに声を漏らす。


イグナは鳥型亜人達の住む森の町のシルバナが山羊男に占拠されたというのだ。

それでメイリオの遺体を持ってこいと鳥型亜人の『風見族』の使者が命令されて来たと言う。


「カタム領主は正しい。今、山羊男を倒す手段はシュウノや私たちにはないだろう?」


シュウノはイグナの問いに思わず「そうだけど」と言うが返答が思い浮かばない。

すると耐えかねたティアニスが大声で


「どいつもこいつも、勝手に言いやがって!!」

と理詰めに耐えかねて罵声を浴びせる。


シュウノは苦虫を嚙み潰したような表情で衛兵に頼みごとをする。


「遺体を持っていくなら領主とシルバナの使者に会わせてくれ」


「妨害をしないというのなら、領主様に取り次いでみましょう」


衛兵はメイリオの遺体を袋に入れて荷車に乗せて領主の館に向かうのをシュウノ達はついていくのだった。



領主の館と森の街のシルバナの使者


カタム領主はシュウノ達と話に応じて応接室に招いた。

鳥型亜人の使者は二人来ていた。

ピー太郎とミミズクの顔の特徴を持つ男だった。


ピー太郎は弱弱しく苦境を話し出す。


「シュウノ様…我々、『風見族』の街が、山羊男に占拠されてしまいました。」


ミミズク顔の鳥型亜人は「バロット」と名乗り故郷のシルバナの状況を伝える。


「ボクたちの街を守る戦士たちも挑んだ奴らは全滅したよー。ついでに族長も」

「キミたちも逆らえば皆殺しにされるかもねー。」


バロットはどこか他人事のように語る。

ピー太郎はさらに困った顔で申し訳なそうに要求を伝える。


「山羊男が…その、“自分を傷つけた人間の死体を持ってこい”と我々に命じたのです。」


バロットは「断ればまたセアフスに来るかもよー」と呑気そうに言う。


カタム領主は「どう思うね」とシュウノに目線を向ける。


「聞いた話だと奴はペットの山羊が化けて出たらしいぞ。名前は『キャベツ』というそうだ。」

「まことに、滑稽で泣けてくるだろう。」


シュウノが「キャベツって...」と思考が止まったかのような独り言を思わず漏らすとティアニスが激昂した。


「仲間の遺体を売って、そんなふざけた名前の化け物のご機嫌取りだと?」

「そんな風に助かる人間たちなど滅びればいいのよぉ!!」


カタム領主は冷静さを欠くティアニスに呆れつつ


「ならば、志願者たちで先にキャベツを倒しに行くといい。倒せるならこちらとしても遺体を渡さなくていい。」

「それに渡す遺体は、剣で小突いた衛兵の遺体もだからメイリオくんだけ特別扱いかね?」


ティアニスは「言いくるめようとしやがって」と悔し気な表情である。


イグナは「遺体を山羊男はどうする気なの?」と聞くがバロットは首をかしげる。


「さぁね?そういえばボクたちの族長も食われてたようなー...」


イグナは顔を青ざめて聞く気が無くなったかのように沈黙した。

隣にいたシュウノは耐えられなくなりピー太郎に声をかけた。


「ピー太郎…。シルバナで何があったか詳しく教えてくれ。」


「わかりました。山羊男がどのように我々にどれほど残虐無比な破壊行為を行ったか詳しく話しましょう。」


ピー太郎は口にするのもおぞましいと言いながら話し始めたのだった。

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