第38話:恐るべき存在に恐れる側
シュウノは噴水広場に座っていた
自分の人間関係や女性関係にかなり頭を痛め、誰にも言えないことに苛立ちを募らせていた
「ああ、ルナムと子供を作るか…セイルとできちゃった結婚になりそうだったのにカオスと言うほかない状況だよ…」
「道楽みたいな人生を送ったせいなのか?…このままルナムと子供できればどうなるんだ一体…」
そう悩んでいるとカタム領主の衛兵がシュウノの前に歩いてきた
「シュウノ殿ですね?2等以上の冒険者組合員にお知らせがあります。ぜひカタム領主の招待にご参加ください。場所はセアフスの要人用のノブリスホテルです。山羊男対策の説明会です。カタム領主が休憩の時間を削って今日から毎日、参加者に講演をしております。」
「招待って強制じゃないけど集まれってことですか?任務なら冒険者組合の施設に依頼すればいいのに…なんのことだろう?…一応、情報収集で行ってみるか…」
****セアフスの防波堤
カタム領主は会場の司会者席の高い台に立っていた
そして2等以上の猛者たちの90名近くの冒険者達が話の内容を聞くために集まっていた
「諸君…よく来てくれた。君たちは厳しい戦いに勝ち残った真のエリート達だと思ってこの場に呼んだ。」
「単刀直入に言おう。君たちはこの街に必要な人材だ。魔の山の魔人たちが山羊男という存在に大虐殺をされて滅んだのは噂で聞いているだろう?その山羊男はセアフスで生まれた謎の存在だ。秘密にしてもしかたないことだから明かそう。」
「山羊男は虐待されたペットの山羊が変身して生まれた存在らしい…話していて恥ずかしいが調査の結果なのだ。君達に説明しないと私も信用されないのでな…飼い主や近隣住民の証言もある。」
「その山羊男がここまでの脅威に成長した…セアフスを奴の気分次第で破壊されても困る。君たちもどこへ住んでも無駄なはずだ。奴の気分次第でそこも滅ぶ。つまり安全な場所はこの世にない。」
「冒険者組合員に権力者と不必要に関われば君たちが除名されるのはもちろん知っている…これから言うのは密約と報酬の話だ。」
「君たちは引退後を考えたことはあるかね?手足を失って先行きがない冒険者もたくさんいる。リスクを好奇心で無視しても若さが消えれば現実に苦しむだけだ。そこでだ…もし仮に山羊男が攻めてきてだ…その時に君たちがこの街にいて守るために戦えば報酬を出そう…」
「恐らく、奴と戦えばほぼ死ぬ…それでも生き延びれば私が貴族の地位やこの街の一等地や老後の保障になるものを用意しよう…どうだ?この街にいたいと思ったかね?どこに住んでもリスクが同じならセアフスが一番利益になるはずだ…」
「認めたくないがこの街の兵をかき集めてもこの場にいる君達が上回る強さを持つだろう…無理には言わない…嫌なら今日の話は忘れてくれ。」
「条件は山羊男がこの街を攻めて来てここにいる君たちがその時にこの街にいて戦うことと、自分から奴に絶対に関わらないことだ。宝くじよりマシだと思わんかね?」
シュウノは聞いて来て苦虫を嚙み潰したよう表情になる
我慢できずに手を挙げて質問をしてみた
「ロジ・ジョットが山羊男を倒すと言っていました。それは領主様が頼んだのですか?」
カタム領主は視線を移して
「ロジ・ジョット君は強力すぎる異能を持つ…それは国王陛下が管理するレベルの危険で強大な力だ。だから国王陛下に紹介した。幸い、彼は力に溺れず既存の社会を壊す思想がないまともな思考の若者だ。問題を起こさなければアルシオン伝説と肩を並べる男になるだろう。私が山羊男を消せと言ったわけでない。よろしいかね?」
オーク狩りに参加していたオーバルもその場に居てシュウノに続いて質問をする
「それはパリウスさんやロジャノさんと似たような立場に我々がなるという意味ですかい?レセプトに比べればだいぶしょぼいですが上を目指す側にはいいかもしれませんねえ。我々は権力が欲しくて冒険者にはなっていませんが衰える日は来ます。その時の備えはしなければいけません。」
「密約という響きは嫌ですが山羊男が来なかったら何もないのも嫌ですね。保険代わりにここに住んで山羊男が来なかったからプレゼントは無しではこの話も旨味がないでしょう?」
カタム領主は織り込み済みの表情で
「ふふ、そう言うと思ったよ。セアフスに30年住め。そうしたら没落貴族や脱税した富豪から没収した土地や財産を君たちの中の住んだ者たちに山分けだ。どうだ?話に色がついたかね?君たちも戦えない年なら戦闘員の教官にしてやる。素晴らしいだろう?冒険者組合には言わないで欲しいがそこまで君たちも真面目で馬鹿正直ではないだろう?」
その場の出席者たちはガヤガヤと話し始める
そんな中、オーバルと同じくオーク狩りに参加していたトレッチがシュウノに話しかける
「あんた、どう思う?あのうさん臭いおっさんの話は裏があるのかな?山羊男にビビりまくってるってことだよね?」
シュウノはメイリアの事を話す
「守秘義務で言っちゃだめだけどカタム領主は必要であれば何でもする。以前、山羊男が風見族に命じて自分を傷つけた理由でメイリアと兵士の死体を持ってこいとセアフスに来させた。風見族達に話を聞いたら遺体を没収して引き渡したんだ。褒美で守りを固めるのも似たような理由だよ…俺も山羊男がキレてセアフスに来ても困るからその時は俺も我慢したけどさ…」
トレッチは悩んだ様子で
「山羊男はキレたらどこを壊すかわからない…そしたらオーバルの言う通り、セアフスにいた方がいいのかしら?レセプトが一番でかいから山羊男が人類に敵意を抱いたらセアフスよりレセプトにいくわよね?そしたらここがマシかな?あのおっさんが腹黒いのを差し引いても得があるのはここかもね。街並みも奇麗でごちゃごちゃしてないし…」
オーバルはシュウノの近くに歩いて来て
「おお!兄さんも来たのかい?こういう話は真面目な人間には苦手だと思うが真面目なだけでは人間は生きれないからな。清濁併せ含むのが大人の通過儀礼だ。光と影、損と得。人間ならどちらかの立場にならなければならない。」
「星の裏側で大勢、餓死や戦死する人間がいたとしても俺達は助かる選択肢を取り続けないといけない。所詮、運が良くて強いものしか残らないのよ?」
「週刊誌の英雄のその後の記事で見たが魔王を倒してしばらく遊んでたんだろう?山羊男が魔の山の魔人を皆殺しにした時に魔人の奴隷にされていた者たちが山羊男に救われて解放されたと証言したらしいぜ?兄さんより山羊男が仕事したって訳だ。だから領主の話に乗る連中を悪く兄さんは言えないってわけだろ?」
シュウノは沈黙してオーバルの話を聞いているとトレッチがオーバルに方針を聞く
「あんたはどうすんの?オーバルはおっさんの口車に乗るわけ?乗るならヒーローじゃないわよね?」
オーバルは苦笑を浮かべて
「おいおい?冗談だろ?ヒーローはボランティアの気高いお方を誉めれば十分だろ?俺達は今までの働きですでにヒーローだ。年を取ればヒーローじゃないし世間も若い連中に注目するぜ?俺がその時はお前もおばちゃんだろうぜ。心は奇麗なままでいたいのかい?」
「言っとくが世界は奇麗な心じゃ何も変わらないぜ?例えヒーローが何百人いようと気休めだ。負け犬の方が絶対多い世界だ。なぜなら金持ちやヒーローが勝つ側でいる間は負け犬が大量に必要だからだ。教会や寺は世界中にあるが救われない連中は減らないだろ?逆に救われていたら宗教は流行らないと思うぜ?」
「兄さんも一握りの中にいるんだからそれくらい自覚あるよな?それすら無視するなら兄さんも敗者と痛みを無視する悪党だぜ?」
トレッチは何とも言えない顔で
「そうね。世間様はすぐ飽きるからね。あんたラブリーキャット・マニーちゃんって知ってる?8年前に活躍してたアイドルだけどこの前、週刊誌で見たけどボロボロでホームレス状態らしいわよ?」
「人を喜ばせる仕事したって飽きるのよ、大衆は。シュウノも魔王倒してもすぐみんなロジに目移りしたでしょ?みんなのためとか言って働いても空しいだけよ。みんな馬鹿で飽きっぽいんだから。」
「それに弱者は悪さするのよ?事件を起こす奴らなんか金持ちより知恵が無い貧乏人がほとんどよ。私たちが連中にできることはないわ。慈悲深い金持ちや神様が助ければいいのよ。」
シュウノは怒りを感じ始めたが清掃員を思い出して我慢する
「あなた達はなんで冒険者になったの?金や権力や老後の安心のためじゃないよね?」
そう二人に聞くと
「兄さんのいう通りだ。俺達も現役で自分の力を活かせる場所だと思うから活動をしている。決して弱者を見捨てるために組合員になったわけじゃない。」
「だが、いくら助けても無駄だと感じる日は来る。それは病人や怪我人が病院で溢れて医者が辞めてしまうのと同じことだ。未来のことくらい俺達も心配してもいいだろ?兄さんも強い側に生まれたならそれくらいわかるはずだぜ?」
「恵まれていることや降りてくるチャンスを活かそうぜ?登山家に健康でチャンスが恵まれているって不平等だと文句を言う奴らはいないだろう?俺達も行けるところまで登らないと損だぜ?」
トレッチはオーバルの話に同調を示し
「私も、この街に住もうかな?奇麗だしごちゃごちゃしてないし。後、私オーバルと結婚するの。あんたも式に来てご祝儀くれる?他の男は雑魚しかいないからオーバルが一番マシなのよ。」
オーバルは恥ずかしがり
「おい?兄さんに言うなよ?俺も照れるんだぜ?まったく、デリカシーがなくて困るぜ…兄さんも結婚の悩みとかあるかい?いざ、その時はこれまでの経験なんて役に立たないぜ。」
トレッチは心配事を言う
「子供も欲しいけど雑魚にならないか心配だわ。魔力を使える家系で魔法が使えない子供は家からも周囲からもつまはじきだからね。私達はどうかしら?特別になれって意味じゃないけど軟弱だとこの世じゃ生きていけないわ。配られたカードで戦える器量ぐらいないと厳しいからね。」
「私たちもシュウノも気を付けないとマリーちゃんみたいになるわよ?ヒーロー扱いされたくても守られる雑魚には誰もなりたくないでしょ?人間は弱くなるのが一番の汚点よ…自分から弱みを見せたり、甘んじるために自ら弱くなる連中は特に見苦しい。自分からわざと弱るならそのまま死ねばいいわよ。」
シュウノはただ現実と損得勘定を考えて生きる者達に圧倒されるのだった
「みんな、自分の利益や生活を考えるから余計な犠牲や敗者が増える…英雄なんてなんの意味もないのか?魔王ノフィスが勝っていたら今頃、どうなっていただろう…俺達の存在は無意味なのか?俺達も魔族と同じか?」
「でも俺は山羊男ともう一度会いたい…何としてでもキャベツは俺が止めないと俺の子まで死ぬ…」
カタム領主は閉会の話を始めた
「今日、話したことは漏らすことはお勧めしない。私と関わったとして組合員を除名された者達は秘密を守れない無能として用無しだ。冒険者組合には言わないでくれたまえ。私の話に乗る者は後で領主館に来なさい。誓約書と取り決めの書類を見せる。セアフスが没収した貴族や富豪の財産や土地の総額も教えてやる。秘密厳守だがな。」
閉会した後、シュウノは気分がかなり悪くなっていた
「キャベツの飼い主に会ってみようかな?でもカタム領主に頼まないといけないし…どうしよう…」
帰り道にオムツをセイルに頼まれたことを思い出し店に寄るシュウノが清掃員を路地で誰かと話しているのを見つけた
「あれ?またあの人、誰かと話してる…」
謎の人物は清掃員に大きな声を出していた
「ねぇ?困るからやめてよ。山羊男と戦いに行くってどういうこと?私は手を貸して欲しいと言ったけど勝手に戦うって意味じゃないのよ?」
清掃員は困った顔で
「気が変わり始めた…山羊男をこのまま野放したらこの太陽系は隔離宇宙に捨てられる…そうなれば私の目的地である『地球』に行けなくなる。だからダメ元で戦いますよ。私が勝てば丸く収まるし私が負けて死ねば別の太陽系の星に行ける。」
「現役が戦って駄目なら私が行くつもりでしたが今の時代の人間はまるで内面が育ってない。損得勘定ばかりで人間でいる価値すらない。だから私が先に死にますよ。彼らも昔の私と似ている部分もあるからなおさら歯がゆい。」
清掃員に謎の人物はすがるような声で
「今のあなたの『徳』だと死んでもグスティナ世界かプロパテ世界にしか行けないよ?私を見捨てても君の気持ちが後味悪いと思うわよ?グスティナ神は君も嫌いでしょ?あいつは人類が問題を起こすと平気で間引きをする。私がマシだと思うならお願いだから勝手に戦わないで?アルシオン…」
シュウノの耳に入り
「アルシオン?英雄と同じ名前か?無くは無いが…普通はつけないよね?伝説の英雄の名前なんて…」
清掃員はため息交じりに
「もう少し、待ちましょう。風見族が山羊男になびいているらしいですな。戦士と族長を含めて大勢、殺されたのに損得勘定で山羊男につくとは…まあローディグ王国が風見族を助けなかったからでもありますがね…あなたは私利私欲の利己主義の世界をどう思いますか?」
アルシオンの言葉に謎の人物は弁明する
「君もわかってるでしょ?それが一因で山羊男がでたって…。グスティナ神みたいに予防だと言って問題起こした人類をバンバン抹殺したらみんな嫌でしょ?私も人間の扱いには困ってるのよ。龍みたいに改善の余地が無い種族でも無いし…助けたいけど自滅してるのよ…」
清掃員はシュウノに気づき
「誰だ、聞いていたのかね?」
「す、すいません。声が聞こえてつい…あれ?また、話してた人がいなくなってる…」
清掃員はかなり不機嫌そうに
「君か…盗み聞きはするなよ?何か用かね?」
シュウノは申し訳なさそうに
「あの…何も無いですけど…すいません」
アルシオンと呼ばれた男はシュウノに聞いた
「君は会った時からずっと困った顔だ。冒険者は楽しくないのかね?強くて頼られて大衆からも権力者からも期待される仕事だろう?」
「それとも…今までが余興でしかなかったと後悔しているかね?大方、他の自分と似たような冒険者を見て客観視ができるようになったのではないのかね?身を持ち崩した者は何人も見て来た。所詮ただの強がりの愚か者だ。自分より強いものが出たらすぐに弱者の側になる。」
シュウノは何とも言えない顔で
「あなたは冒険者組合に詳しいんですか?言った通りの光景を見てきましたよ。自分の才能で利益を最大化する者が多くてですね…ロマンより老後の安心が良いらしいですよ?ゲームに飽きたガキと同じですよ、俺達は…。遊び終わったら金や立場の心配ですよ。」
アルシオンはシュウノに興味を持ち
「君はどうするつもりだね?連中と似たように金と権力を欲しがらないのか?魔王を倒して色々貰っただろうから君は老後の心配はないかもだがね。所詮君も連中と同じだろ?客観的に見れるだけでは自分の本質は変わらないからな。」
シュウノは最後の言葉に引っ掛かり
「客観視ができるだけでは本質は同じ?俺は違いますよ…山羊男でみんなが死ぬことは避けたいと思ってますよ…金や権力がもらえなくても…」
「同じだよ。君はすでにいっぱい貰ってるから心配しなくていいだけだ。彼らと同じだ。君ではどうせ山羊男に足元にも届かないだろう?その証拠にロジと一緒にやれと言われなかっただろう?君は力不足で自分は違うと理想だけ立派な愚か者だよ。他の冒険者と同じだ。」
「なぜなら山羊男に本気で対抗する気ならこの街にはいないはずだ。なのに、この街に居るのはしがらみがあって山羊男に本気になれないからだ。だから君の存在は山羊男に対して何の意味もない。この前のイテミスだったか?もし奴が生きていて山羊男を放ってこの街を襲ったとしても君や冒険者どもは死んでいただろう。山羊男に逆に救われているのではないか?そんな君が何ができるというのだ?」
シュウノは怒りだしてしまい声を荒げてしまう
「なんなんだ?戦えない人達でも俺達が先に戦って死ぬのは知っているだろう?それなのになんで悪く言われないといけないんだ?山羊男に手を打ちたいと思うことするら否定するのか?」
「別に構わないが自分を特別だと思っているなら一流ぶってる三流だ。所詮、君は強いカードを配れただけの中身のない若造だ。住民の多くは君より遥かに安い金で働いていて賢明に生きている。それに対して君は遊んでいても金が入るのだろう?そのままへらへら笑って山羊男に関わらない方が良いと思うぞ?はっきり言うが君は弱い。山羊男に殺されるだけだ。」
シュウノはもういいと叫んで話を切り上げる
「俺の何がわかるんだ?俺が弱いだなんて…確かにキャベツよりは弱いだろう…だけど他に手を打てる人がいるのか?指で数えるほどしかいないはずだ。勝手にやらせてもらう!」
「一つ忠告しておこう…この世界の山羊男はまだ“途中”だ。強い刺激を与え続ければ星を消すほどの力を持つ上に上限がない。そうなれば死人にすらなれない。この世の外には死者の世界がある。山羊男を強くしすぎれば神も人も死者にもなれず消える…」
そう言って清掃員は去っていった
「おい!どういう意味だ?星を消す?そんな馬鹿な…何を知っているんだー!」
清掃員は山羊男に関して最後に教えた
「奴らは神と似た理由で存在する。祈りや恵みを願う先が神ならば山羊男は見捨てられた痛みや強者の傲慢や支配に暴力、無関心からの犠牲や怒りの不満から生まれる…それは大きな蓄積だ。人間や神でも消せはしない。なぜなら神や人間の業そのものだからだ。山羊男を出したのは人間と神の責任だ…甘んじて滅びろ…」




