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休み飽きたその日

「さてと。さすがに休み飽きたし、久しぶりにギルドで面白そうな依頼でも探してみるかね」


シュウノは大きく背伸びをして、青く澄み渡ったセアフスの空を見上げた。


かつて世界を破滅へと導こうとした魔王ゼノンを討伐し、早3か月。

王国の中心であるレセプト城下町は連日のように有名人扱いされていたので人付き合いの面倒ごとを避けるためにほどほどに栄えた街セアフスへ移住したのは、我ながら名案だったとシュウノは自画自賛。


今日は本当に久しぶりとなる、大通りの噴水広場でハーレムチームと待ち合わせの予定。


のんびりと石畳の街並みを歩いていたシュウノだったが、街の領主の館の前を通りかかったところで、異様な人だかりに足を止めた。


「領主に合わせろ! 今日こそは引き下がらんぞ!」

「人間の垂れ流す生活排水のせいで、我々の住処がどれほど汚されているか分かっているのか!」

「都合の悪い時だけ耳を塞ぐ気か! お前たち人間も、あの残虐な魔族と同類なのか!?」


ぎらつく鱗と、ぬらぬらとした皮膚。そこにいたのは、領主館の門衛たちに詰め寄る半魚人の一団だった。

対する人間の衛兵たちも、完全に苛立ちを隠せずに剣の柄に手をかけている。


「おい、大人しく引き下がれ! これ以上勝手に騒ぎ立てるなら、騒乱罪で容赦なく捕まえるぞ!」


かなり険悪な空気が流れている。

野次馬の端からそっと気配を消して立ち去ろうとしたシュウノだったが――最前線で抗議していた半魚人の女性と、不運にもバッチリ目が合ってしまった。


彼女は一瞬だけ驚愕に目を見開くと、衛兵をかき分けるようにしてシュウノの前に歩み寄ってきた。


「……そこの貴方、もしや。魔王を倒した高名な一等冒険者、シュウノ殿では?」

「あ、いや、そうだけど……」

「……分かっています、英雄をこんな抗議活動に巻き込むのは筋違いだということも。ですが……」


ネリモと名乗った半魚人は濡れた漆黒の肌に、ウナギのような特徴が散見される女性だった。自嘲気味に、しかし縋るような視線をシュウノに向けた。


「人間の生活や産業が発展すればするほど、その排水が私たち半魚人の生活圏を脅かしているのだ。私たち『鱗清族」は、人類に比べてほぼ全ての分野で完全に負けている。水の中で生きられること以外、文化も文明も、魔法の技術すら今や人間に勝てる要素はない。だからこそ……こうして抗議するしか手段がないのです」


ネリモの言葉は重かった。

「シュウノ殿。貴殿ほどの英雄であれば、この街の重鎮達にも顔が利くはず。どうか、私たちの苦境を、一言だけでも領主に伝えてはいただけないでしょうか」


「いや、ええと、それは……」


シュウノは困惑した。

魔王討伐なら、剣を振るって魔法をぶつけて汗をかいて戦えば終わる。だが、これは「人間の生活や活動の公害」と「亜人の領域の環境破壊」という、どうしようもない社会問題だ。魔王を倒すほど単純な話ではない。


(正直……めちゃくちゃ面倒くさいな……)


シュウノの本音が顔を出す。せっかくの休日に、こんな解決の糸口も見えない重苦しい政治の話に首を突っ込みたくはなかった。それよりも、これから集まる美少女たちと「なんの冒険をする?」なんて話している方が、よほど有意義で楽しい時間に決まっている。


「分かった。事情は分かったよ。ネリモさん!」

「本当ですか……!?」

「うん。今度さ、偉い人に会う機会があったら、上手いこと言っておくからさ! 」

「すまないが、俺ちょっと先約あるから、この辺で!」


あからさまに話を濁し、シュウノは回れ右をして逃げるようにその場を走り去った。


「あ……、シュウノ殿!」


呼びかけるネリモの声が遠ざかる。

脱兎のごとく去っていく「世界の英雄」の背中を見送りながら、ネリモはぽつりと呟いた。


「……所詮は他人事、か。底が浅いというか、随分と軽薄な御方なのだな……英雄というのは」


その呟きがシュウノの耳に届くことはなかった。



【噴水広場の談笑】


「おーい、みんな! 待たせたな!」


ネリモたちからうまくかわしたシュウノは、セアフスの中央に位置する噴水広場へとたどり着いた。

上空を見上げれば、ギルドの依頼のためだろうか、鳥型亜人の戦士たちが大きな翼を広げて悠々と旋回している。


そんな活気ある広場の美しい噴水の縁に腰掛けていたのは、魔王を討伐した麗しき美女の仲間たちだった。

「遅いぞシュウノ! 英雄が遅刻なんていい身分だな!」


最初に声を張り上げたのは、腰に剣を帯びた剣士のメイリアだった。時間に厳しそうな彼女は、不満げに眉をひそめる。


「まったく、あんまり暇すぎてのんびり暮らしすぎるのも考えものだ。このままだと私の腕が鈍ってしまうじゃないか」


「あら、メイリアは相変わらず色気より剣ね」

赤を基調としたマントを纏う魔法使いのイグナは、からかうような視線をシュウノに送る。


「私は実力の話より、シュウノの『恋路』の方が気になるわ。いつまでそうやって、私たちを焦らしながらもったいぶるつもりかしら?」


「ちょっと、イグナ! 何をおかしなことを言っているのですか!」

不機嫌に反応したのは、清らかな聖職衣に身を包んだヒーラーのティアニスだった。浮気や不純な関係には人一倍厳しい彼女は、ジロリと鋭い目でシュウノを睨みつける。

「シュウノ、誰かと付き合うなら早くはっきりと宣言してけじめをつけなさい。言っておきますけど、もし私たちの目を盗んでこっそり交際したり浮気したりしたら……その時は、分かっていますね? 責任取って私の目の前で切腹してくださいよ?」


「……え、せ、切腹!? いやいや、冗談きついってティアニス、あはは……」


シュウノは引きつった笑いを浮かべた。

だが、ティアニスの目は一切笑っていない。

「嘘じゃねぇよ…。」

「え?……」


(プレッシャーと凄みがあるな……。いや、まさかバレてないよな? )

脳裏をよぎる冷や汗ものの記憶を、シュウノは全力で頭を振って消し去った。危ない、これ以上この話題を掘り下げられるのはハラハラして心が落ち着かない。


「あ、あはは! いやー、将来のことはまだ何も考えてないっていうかさ! それよりほら、せっかく久々に集まったんだから、なんかこう、隠しダンジョンとか裏ボスとか、そういう刺激的な情報はないわけ!?」


必死に話題をすり替えるシュウノに、イグナは呆れたように息を吐いた。


「裏ボスなんていらないし魔王だけで十分よ。まあ、魔王の部下だった幹部の残党なら、まだ世界のどこかに潜伏しているみたいだから、ギルドに行けばその関係の仕事くらいはあるでしょうね」


「えー、格下相手に無双してもあんまり面白くないだろ?」

シュウノは口を尖らせた。「そういえばさ、魔王の城にいたあの娘。 あの子、めちゃくちゃ可愛かったよなぁ。またどこかで会えないかな」


その瞬間、メイリアの顔がひきつった。


「……シュウノ。魔王の城にいたということは、間違いなく魔族の関係者だろう。そんな女に鼻の下を伸ばすとは、相変わらず不謹慎な男だな」

メイリアはため息をつき、自分の愛剣を寂しげに見つめた。

「まあ、世界が平和なのは結構なことだが……これでは私の剣術も、ただの無用の長物になってしまうな」


「シュウノ様! お久しぶりでございます!」


ギスギスし始めた空気を切り裂くように、上空からバサバサと羽音が響いた。

降り立ってきたのは、顔がオカメインコの特徴を持つ鳥型亜人の青年ー、よく一同の冒険の道中で伝言役などを務めていたピー太郎だった。


「お、ピー太郎じゃん。元気にしてたか?」


「もちろんです! 今日は最近、人間たちの間で販売され始めたという、あの『写真機カメラ』という精巧な風景の絵を写す道具を買いに、はるばる街まで出てきたのでございます!」


手に持った買ったばかりの箱の形をした写真機を自慢げに見せつけるピー太郎。


「いいでしょうこの写真機!かなり高かったのですよ?記念に一枚いかがでしょうか?」


ピー太郎は挨拶を済ませると、シュウノにもじもじと頼みたいことを相談を始めた。


「それとは別ですが…。 シュウノ様達には前にも我が一族が魔物に襲われた時に助けていただき、本当に感謝の念に堪えないのですが……また、大変なことが起こりそうなのです!」


「え? 何がだよ」


「我が森にある故郷シルバナの土地にある我らが信仰する大木の『神木』…それは特殊な魔力を含んでおり、魔法の道具の強力な素材に利用できるのです! その理由で魔族の残党どもが、また我が故郷を狙って不穏な動きを見せておりまして……! お願いですシュウノ様、どうか、魔王を倒した鬼神のごとき活躍で魔族どもを退治してくださいませ!」


ピー太郎の頼み事に、シュウノは「しょうがないな」と少し、折れた表情で快諾。

エンドコンテンツに魔王の幹部を倒すかと一同で盛り上がるのであった。



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