第21話:勇者の後に続け
ピー太郎はメイリアの元へ飛んで報告していた
「メイリア様?イグナ様とティアニス様達をお望み通り、見てきましたがどうやらロジ・ジョット氏と危険な任務をこなしておりました。シュウノ様はもう不在でした。」
「ロジとイグナ達が?シュウノは帰ったのか?そうか。すまなかった。私はどこか遠くへ行くがどこがいいと思う?」
ピー太郎は考えが思いつき
「メイリア様?ロジ・ジョットに会ってみてはいかがでしょうか?ロジ・ジョットはかなり強力な異能をお持ちらしく遠くから聞いておりました。」
「風魔法:風噂で特定の空気の振動を受け取りやすくして彼の話を聞いておりました。彼の力は望みを叶える域に達して現実離れした様子らしいですよ?ひょっとしたらメイリア様も人間に戻せるかも…」
メイリアは驚きと混乱が入り混じった表情で
「ロジなら過去に何度か会ったから知ってるがお調子者のシュウノの後輩だ。そいつが今やイグナ達が注目するほどの異能を持ち一緒にいるということか…嘘じゃないかもな。でも顔見知りは会いづらいな…」
ピー太郎はメイリアに会うように勧める
「メイリア様、今は可能性に背を向けて逃げても今の姿のままですよ?どんなことでも望みがあるなら向かうべきです。山羊男にそんな姿にされたまま一生、他の人たちから隠れる気ですか?」
「そうだ!私がロジ・ジョット氏に会う手引きをしましょう。セアフスの外で彼が一人であなたに会いに来るよう段取りを組みます。どうですか?山羊男にはあなたには逃げられたと恐ろしいですが報告します。私が怒られるのをかばうために一緒にシルバナに行くのも嫌でしょう?いかがでしょうか?」
「そうだな…シュウノに会うわけにもいかないし…私は有名人で死人扱いだから街に入りにくいし、銀行も使えないし…先も無いからな。すがってみるか…」
メイリアは山羊の耳を不安にピクピク震わせながらピー太郎とセアフスに向かうのだった
****セアフスに帰ったかつての英雄
ロジにセアフスに帰らされたシュウノは落ち込みながら自宅へ向かっていた
「はぁ…ロジにまたやられたよ…俺って負けた気分が最近多いな…なんでだ?」
とぼとぼと帰り際に以前遭遇した半魚人の鱗清族の一団を発見した
以前、人間の排水で自分たちの生活区域が汚れてると抗議活動をしていた一団である
「あれ?あの人たちはたしか…?思い出した。山羊男が噴水広場に出る前にいた団体だ。どうしたんだろう?移動してるな。どこへ向かってるんだろう?」
すると以前、声をかけられたうなぎの特徴を持つ鱗清族のネリモが近づいてきた
「シュウノ殿?お久しぶりですね。この前の件の我々の窮状はカタム領主に申してくれましたか?」
シュウノは後ろめたさを感じながら
「あ…すみません…色々、急に起きて言ってませんでした…ごめんなさい…」
「そうか…いやどの道もういい。我々は故郷を捨て移動を開始する。人間には降参だ。この街にはもう関わらないし抗議もしない。シュウノ殿は忘れてくれ。これにて」
シュウノは驚いた様子でネリモに尋ねる
「どういうことですか?…立ち去るって…魔王を倒したのに故郷を捨てるって…」
ネリモは魔王はとは別問題といい
「シュウノ殿、暴力や戦乱以外でも人が住めなくなるということだ。我々は人間に勝てないからな。あなた方は魔族と戦えたが我々は人間とは戦えない。抗議も無駄なら負けて去る以外はないだろう?我々のいた水域も次期にこの国の領土だと主張すればいい」
シュウノは“すみません”と声を漏らし見送るのだった
「俺ってなんの役にたったんだ?魔王ノフィスを倒したのになんでこんな気分になるんだ?」
シュウノは心が空しくなるのを感じた。自分の存在がなんなのかわからなくなるのだった。
****家に帰宅して弱みを見せるかつての英雄
シュウノは自宅でセイルと一緒に過ごして気を紛らわしていた
「俺、山羊男は戦うべきなのかな?完全にのけ者だよ…」
「キャベツは人間に攻撃されてキレて、風見族に攻撃されてキレて、次は魔族に攻撃されてキレてるらしいんだよ…」
「あいつは最初は怯えてたんだ。確かに放置したら世界が危険だけど自分からは悪さしなかったキャベツを攻撃して余計、あいつを危険にしてる気がして…」
「キャベツはこの世の者からは完全に別の存在かもしれない。死んだメイリアすら生き返らせたんだよ?山羊頭の怪人が人間を生き返らせたって話してる俺のほうが頭がおかしいように見えるかもしれないけど…メイリアが山羊耳になって帰ってきたんだ…」
話を聞いて困惑しながらセイルは紅茶をシュウノに出して叱責する
「わたくしも見てないから感想に困りますが…」
「シュウノが怖いか戦う意思が無いならこの家にずっといるべきですわ?」
「でも、わたくしに最初に勇ましく山羊男と戦うから邪魔しないでと言った言葉はでまかせですの?」
「最初に手を出したのが誰だとしてもわたくしと子が山羊男に殺されても納得するのですか?」
シュウノはそれは違うと言葉が重くなる
「まともな理由や筋が通った理屈で大勢が殺されても困る。山羊男をあんな風にしたのが人間なのならどうするかも誰かが尻ぬぐいをしなきゃいけない。それにメイリアをあんな風にする奴を放っておいたらどうなるか…」
「誰かが手を打つべきだ。俺にできることがあるなら善悪は別として身をささげて死ぬとしても戦って止める。」
セイルは微笑を浮かべエールを送り
「あなたがその気ならわたくしも常にあなたに労を尽くしますわ。忘れないでくださいまし、あなたが腰抜けだろうと勇ましかろうとわたくしは側におりますわ。」
「ありがとう。ロジがどんなに強い力あって周囲がロジを持ち上げようと関係ない。俺ができることをやるだけだ。」
シュウノは気を取り直して勝てる保証もないキャベツと戦う気を取り戻すのだった。もはや英雄としてではなく自分の意志と個人の矜持に近いものだった
****ラッキーナンバーの到着
セアフスの領主館にて
カタム領主はラッキーナンバーと呼ばれる男と依頼の会話をしていた
待合室は退路もあり、物も置いてない罠の気配が無いことが保証された、この日の彼のために用意された部屋だった。そしてカタム領主以外に誰もいない、まるで何かの召喚の儀式のような準備をしたようだった
「ようやく、会えたね?表向きの名はトーマス・ディスタントで2等の冒険者組合員だがその実態は本名不明のラッキーナンバーという通り名で権力者たちに重宝される遠方からの暗殺を専門とする最高のアサシン。」
「絶対に既存の権力者には逆らわず的にはしないことをポリシーに掲げるが、どの権力者も固定客にしない孤高の存在。」
そう呼ばれた男は小柄の眼鏡をかけた旅行者のような格好だった
「褒めるために呼んだわけではないでしょう?私になんの御用で?」
カタム領主はシルバナの資料を広げた
「シルバナとは昔から密約があってね。隣の国の情報を族長から調べて貰ったり街の開発のための材木を売って貰ったりと親しかったが山羊男というふざけた怪物がめちゃくちゃにしたのだよ。これ以上の暴挙は無しにしたい。」
「…山羊って冗談ですか?と言いたいですが噂は広まってますからね。聞いてはいましたがまさか私に依頼で来るとは、呆れた時代ですな」
ラッキーナンバーは過去にピー太郎が撮った山羊男の写真をカタムから貰い見つめていた
カタム領主は「まったくだ」と言いながら新聞を広げ新聞の記事について訊ねる
「エグニグ・ゾード…ここ数年、魔法使いと異能者こそ真の権力者を持つ側だと過激な思想と主張を繰り返し財力でその手の危険なカルト団体を立ち上げて冒険者組合からも除名された元一等冒険者のエグニグ氏が落ち目の貴族のシューク家と結婚を金で買おうとした話があったな。誰が頼んだかは知らんが君はエグニグ氏を抹殺しただろう?3日まえに自宅のトイレで心臓を射抜かれてたそうだが。」
「守秘義務で答えられませんな?聞かないでください。」
「あまり、気を悪くしないでくれ。私は褒めたいのだよ。我々にとっての膿を取り除いてくれる頼もしい味方だ。昔から組合員は力を持ったくらいで生意気な態度をとる無礼者ばかりだ。きみのような謙虚な者が真に必要だというのに」
ラッキーナンバーは依頼の内容を確認し
「話は戻しますがシルバナにいる山羊男を仕留めればいいのですね?何か条件はありますか?」
「おお!受けてくれるかね?そうだな。心臓と肺と頭を狙って欲しい。できれば3個所急所を当てれば確実だろう?できるかね?報酬は300万ルオンだ(日本円で3億円)」
ラッキーナンバーは首をかしげて
「えらく念入りですな?それに報酬も1件でそこまで貰ったこともなかったですが…わかりました。手を尽くしましょう。報酬はいつも通り成功の後にいただきます。終わる前に貰っても私が確実に任務完了の保証はできませんからね。」
カタム領主は安心した様子で
「君が失敗すればすぐ我々にはニュースになる。今まで報酬を貰わなかったのは無かったのだろう?」
「私は報酬も欲しいですが報酬よりも存在意義がほしいのですよ。それがあなた方の需要です。」
そうラッキーナンバーは返事をした
カタム領主は賛辞を送り続け「謙虚な男だ」と言葉を添えてラッキーナンバーを見送るのだった
「これで処方箋は打った。ロジ・ジョットは役目は無いだろうが使えるカードは常に手元に置かないとな。ラッキーナンバーとは頼んだ日が吉日になる意味での名だ。依頼人にとってな。フフフ。」
秘書が「終わりましたか」と部屋に入ってきて伝える
「イグナ様が帰還して報告に来ました。ロジ・ジョット氏が任務を終えた模様です。フェジェを始末したそうですよ。」
カタム領主はほくそ笑み
「そうか、では応接室に向かおう。ロジ・ジョットという男がどこまで使えるか値踏みするとするかね。」
そう秘書に言いながらロジ・ジョットに会いに向かうのだった




