第13話:カッコウは神と自然の産物なのか
シュウノはセアフスの冒険者組合が提供している訓練施設の運動場でトレーニングを始めていた。
「俺の『アイテムコンプ』の“練度”を少しでも高める…」
シュウノは目の前に四角い透明な結界で囲まれた水筒を空中に前触れもなく出現させた。
水筒を結界に手を入れて掴むと結界はパッと消えた。
「アイテムコンプは正方形の結界に包んだ物体や魔法のあらゆる経過や進行を止めて俺の持つ異空間に送りストックし俺の意志でいつでも現実に出現させれる能力。生物はハムスターまでのサイズまでなら可能。異空間の広さは一辺が約31.62mの1,000m²の面積に高さも同じの正方形分の体積。入室は本人のみ1分は可能で室内では物や自分を自由に宙に浮かせて移動できる。」
ランニングに始まり、筋肉トレーニングから魔力の流れを研ぎ澄ます瞑想も行う。
しかし、他のトレーニングをしている冒険者組合員たちの嫌な会話も聞こえてくる。
「シュウノだぜ?サインもらうか?…」
「馬鹿野郎。仲間のガールフレンドが山羊の魔物にやられたって話だぜ?魔王倒した後で惨めになってるのに、そんなこと聞いたら怒られるぜ。」
「噂だが、メイリアが目の前で殺されたのに黙って見てたらしいぜ?ほんとに魔王倒したのか、どっちがほんとだろうな。」
シュウノは清掃員を思い出しながら黙って基礎トレーニングでなまった感覚を取り戻そうとしている
「あいつらに怒ってもキャベツに勝てない。キャベツに怯えてあいつらにキレても、ロジの言う通り自分が情けなくなるだけだ。」
無心でトレーニングをしているとイグナがシュウノに会いに来る。
「シュウノ、ちゃんと励んでいるのね。少し話をしてもいいかしら?ティアニスも奥にいるから来なさいよ」
「どうしたんだ?何か仕事でもするのか?わかったよ」
トレーニングを切り上げ、イグナとティアニスが座っているテーブルにつき話を始める
イグナが早速、本題に入り
「シュウノ、私たちはしばらくチームを辞める」
「え?…なんでだ?理由を教えてくれ…」
ティアニスはキレ気味で声を荒げ
「イグナがですね。私たちを差し置いてカタム領主からロジの監視とを頼まれたのですよ」
「それで、イグナが私に相談してですね。二人でロジ・ジョットを監視することにしたのです」
さらにイグナが補足の説明をいれる
「ロジは普段から周囲にシュウノと一緒の仕事はやりたく無いとか、シュウノよりすごい手柄を取りたいとかよく話してるらしいわ。つまり、あなたを監視役に連れてきたら邪魔になる。」
「そこで、不本意だがロジに頼んでロジのチームを結成してもらい私たちが取り入ろうという作戦よ。」
ティアニスがシュウノに役割を分担すると言い出し釘を刺す
「ロジ・ジョットは仕事でセアフスを荒らす犯罪グループの首領の『フェジェ』って名前の犯罪者を追っています。私たちはロジを追うつもりです。」
「シュウノ?あなたはセアフスにとどまり、私たちがロジの監視を終えるまでこの街を守るのですよ?」
「お、俺のチームも解散ですか…」
シュウノは思わず声を漏らすがティアニスが蛇にらみをして
「俺のチーム?我々は私物ではない…誤解したら死ぬぞ?」
「それに終われば帰ると言ってるだろうが?好きでこんな仕事すると思うか?」
と声を凄めるからシュウノは怯える
イグナが話を締めくくり
「それでいいわね?私たちは2等だ。他人から命の心配されるのは4等までよ。常にシュウノと一緒に同じ依頼を受けているわけじゃない。」
「ロジについてはシュウノにも定期的に情報を送るわ。」
「ロジは強力な能力を当てたと言っていた。俺も手も足もできずに金縛りにされて完封されたよ。」
「昔は、“先輩みたいに活躍したいですよ。僕もたまには先輩の受けた依頼に呼んでくださいよ。高難易度ミッションの達成に貢献したってことで僕の等級UPをお願いしますよ”とか頼んでたのにな…」
「わかったよ。こっちも何かあったら連絡するよ。」
「貴重な“渡り鳥の手紙“(1枚当たり1000ルオン:日本円で10万円)を送るから送り先の刻印を付けさせてくれ。」
イグナから借りた手帳にシュウノは刻印のスタンプを押した。
(これで渡り鳥の手紙にも押して指定の形の鳥の形に折って投げると送り先の刻印の先に飛んでいく)
「じゃあこちらも同じ方法で送るから手紙は盗まれてもばれないように暗号化して送りなさいよ?」
「わかってるよ。何かあったらすぐ呼んでくれ。俺もそちらに向かう。」
(はぁ…ロジにリーダー交代か…チームまでロジに行っちゃうなんて…)
ティアニスが去り際に何か思いついたようにシュウノに言い出す
「そうですね…このままロジに頼んでもシュウノのスパイみたいに思われるかもですね。シュウノ、私たちがうまくロジに近づけるように芝居に付き合っていただけますか?」
「え?…芝居?それはどんな…」
シュウノは気が進まないながら芝居の打ち合わせを始めるのだった。
もう、楽しくハーレムチームでいた頃に二度と戻れないと痛感するのだった。
****善の存在を否定する者
セアフスの街の外のすぐ近くの林に廃村がある。
そこはある犯罪者グループのアジトに利用されていた。
ロジの任務のターゲットである『フェジェ』の根城であり、盗品や盗んだ金や襲う先やだます先の民家や金持ちの情報がまとめられていた。
そこに村長のごとく、タバコをふかしながら外で立ったまま部下に叱責を送る男が静かに怒りをみせている
「オレの金の卵を産む鶏である君たちに悲しいお知らせがあります。」
「今回はそれを聞いてもらうために班長とその下で働く部下の皆さまに一緒に来ていただきました。」
不気味に青白い肌に魔人の角はあるが歪に左右にずれがある容姿、『フェジェ』が廃村の集会広場で不満を露わにしている
30人ほどの集まりだが皆20代前後の年齢にも見える集団は不安に駆られて沈黙している
「オレの組織の班長は5人います。その中で“ハゼくん”という大まぬけが大失敗をしてくださいました。どうぞ貴重な時間を割いてまでご足労くださった皆様の前で何が起きたか言ってみて下さい。言え…言えぇえええ―――!!!」
ハゼと呼ばれた男が歩いてきてフェジェの隣に立って話し始めた
「あの、俺の部下が盗みに入った家の爺さんに見つかって焦って刺しちまって…自首したいって相談されて俺がジジイなんか気にすんなってフォローしたんですけど、そいつがしばらくして気を病んで自首しちまって…」
「憲兵(街の警察組織のこと)がそいつが吐いた情報から今月分の金品や稼ぎをまとめてた場所を抑えちまったんです…」
「ハゼくん。お前、何歳の時にオレが拾ってやったっけ?」
「…16で今は21です。5年の付き合いです…」
「うんうん…ハゼくんは、なんでオレの仲間になったっけ?」
「あんまり、仕事が続かなくて…転々としてる間に周りからすぐ辞める奴って思われてどこも仕事がなくて飢えちまって…盗みをしてたらフェジェさんの蔵に入っちまって…」
「そうだよね?オレはその時の君を許してあげたよね?さらに班長にして君の報酬もUPさせて部下を付けてあげたよね?」
「神様は何もしないのにオレは助けてあげたよね?つまりオレは神より優しいよね?」
ハゼは弁明しようと震える声を他の仲間の前で漏らした
「自分の部下が自首なんて…どう止めればいいんすか…?フェジェさんはどうしますか?」
フェジェは悩んだように上を向いて至極当然のよう答えた
「確かにいきなり自首したらなら無理だけどお前の自首した部下は罪悪感に悩んでて、しばらくお前にも相談したんだよね?自首する兆候があるなら殺せばよかったよね?どう?違う?」
ハゼも他の仲間も沈黙している
「黙ってたら反省にならないよねー。…そうだろ?そーだーろーがぁあああああ!!!」
突然の感情の緩急と怒号に困惑する周囲をよそにフェジェはハゼに怒らないから好きなこと言えと言い出す
「おい、オレのことどう思う?正直に言いなさい。悪口でも何でもいいぞ?嘘で褒められるより悪口の方がよっぽどうれしいよ、オレは。」
「俺は悪い奴です…フェジェさんは悪い奴を助けれる人だと思ってます…」
「神様見てますか?あなたよりオレの方が助けてるだってよ。役に立たない、か―みーさーまー」
「ハゼくん。人間も神様もゴミみたいな悪人しかいないよ。この世界の生き物はみんな悪の側のゴミ。ところでカッコウって鳥は知ってるかい?生まれたてのカッコウの雛が巣にいる他の鳥の雛を落として殺した上に親を騙しカッコウの雛を育てさせて巣を乗っ取る鳥がいるよね。あんなのが現代まで生き延びてるって神様がクズを応援してるって思わない?」
「ハゼくんがオレに怒られて、こんなに困ってるのに神様は助けないもんね。そこで見てる皆さまも君を助けたいと誰も声をあげないもんね。」
「今日はオレの隠し芸をお見せしましょう。さらにハゼくんが助かるチャンスをあげちゃいます。」
そういうとフェジェは異能を発動した。
「さて本日の演目に入る前にご来場の皆さまに特別にお見せします。それではご覧ください、オレの異能『+O2(プラスオーツー)』がこちらでございます。」
フェジェの周りに薄い青いモヤのような半透明な気体が漂い始めた
その気体はフェジェの近くに浮いている観葉植物のポトスの葉っぱの羽のハチドリの羽から発生していた
ハチドリが羽で気体をかき回すと長いシャボン玉を自由に操るようにモヤがうごいてアメーバのようにハゼを包む
「フェジェさん、助けてください!!」
「オレじゃなくてご観覧の皆様に言いなさい。そして神様に助けてってお祈りするのですよ?」
「これより、題して“神様&善人の存在の証明ゲーム”を開催いたします。ご来賓の皆様?同じ組織の仲間としてハゼ君を助けたければその中に入るのですよ?」
「よろしいですね?10秒はハゼくんを生かしますからね?それではスタートです!」
ボッ!と言う音が一瞬響き
「おい!助けろ!誰か…ぶぁああああああああ!!!」
ハゼは発火して動き回ったが倒れて動かなくなった
仲間は最後まで微動だに動かず汗をかいて見ていた
「やっぱり人間も神様も助けませんな。みんなクズだよ。こうなればオレと一緒に開き直るしかないよね?さて、本日の参加型ゲームは名残惜しくもこれにて閉幕です。」
「結果発表につきまして誠に残念でございますがハゼ君はカッコウに落とされた側でございました。ご観覧の皆さまの盛大な拍手と喝采の程を――」
「あれ?誰もしない?“しーん“として静かだねー寂しいねー。」
「頑張って盛り上げようとトークしたのに(ぐすん)・・・・・」
「…拍手をしろよぉおおおお―――――――!!!!!」
異能『+O2(プラスオーツー)』とは狙った範囲の物体に強制的かつ急速に酸素結合をする能力である。発火の原因は急速な有機物の酸化であった




