第12話:手柄と言う名の病
職人が漏らした「また魔王が出た…」という言葉にイテミスは満面の笑みを浮かべた
「それだ…その言葉が自然に発せられるのが聞きたかったぞ?」
「他の人間達にも口から口へと俺様の存在をそう伝えるのだ…」
「すぐに呼び名は大魔王に変わるだろうが今はそれで満足しよう…ふふふ」
魔人の一人を呼び出し上機嫌に命ずる
「その者たちを丁重にレセプト城下町の近くまで送ってやれ。」
「お前が山頂まで帰ったら前魔王を倒した平和ボケの英雄どもが住み着いたセアフスを愚民ごと砕き散らして俺様の話が本当だと人間の国王に知らしめてやるわ」
職人たちが魔人に連れられて立ち去った後に美酒で満ちたグラスを片手にイテミスはルナムの檻に足を運ぶ
「ルナムよ…お主の持っている先代魔王の遺産の『絶滅石器』はいつ俺様にくれる?」
「魔王ノフィスが己の成果を消して死ぬわけがなかろう?」
「絶滅石器は国を砂上の城に等しく消し去る魔法なのは知っている。例え相手が龍であっても…だ。」
「知らんな…?お前はどうせ風魔龍を食らって強くなったのだろう?なぜ、まだ望む?自信が無いから手当たり次第に他人の力が欲しいのか?」
ルナムは寝たまま呆れたように淡々とイテミスの卑しさを突き放す
「ルナムよ、俺様は自身の鍛錬も欠かさない。食うだけでは肥満な豚と変わらんからな。」
「過去に我が分身を絶滅石器の試験運用をこっそり見張らせたのだ。素晴らしい威力だったぞよ。」
「悔しいが、魔術においてはノフィスの才能には俺様は遠く及ばぬ…ずっと臣下にいた理由であり頭が上がらぬ苦境よ」
「そこである“賭け”をしてほしい。」と切り出しプロポーズのように賭けの取り決めを言い出す
「俺様が来年までにレセプトを制圧したら『絶滅石器』の術式を渡して欲しい。」
「それができなければ俺様は永遠に魔族の長は降りてみじめに最下位の魔人として下働きをしよう。」
「どうだ?その時はお主が族長だ…」
ルナムは鼻で笑い
「私が持っているか聞きだしたいのか?ふん…お前はレセプトの守りの要であるパリウスとロジャノの連携に大怪我をして魔王の城での闘いには静養中で来れなかったからな。」
「よかろう…さっさとレセプトを攻め落とすのだな。賭けには乗るがお前を好かん魔人は巻き込むなよ?それが条件だ。」
イテミスは目に笑みを浮かべて「心得た」と返し「お主の気が強くてよかったわ」と続け軽率に未来の成功を確信したように
「征服したレセプトを俺様とお主の婚姻の式場にし、姫として人間どもに祀り讃えさせてしんぜよう」
と高笑いしながら去ろうとした
その時だった。魔人の一人が報告にくる
「イテミス様、オーク族の使者が来ております。山羊男の報告でございます。」
イテミスは「チッ、せっかくの場の雰囲気を茶化す無価値で下卑た家畜め…」と悪態をつきその場をさるのだった。
ルナムは嫌な客が去った後のような気分で
「噂の山羊男と結婚した方がましかもな」そうボヤいてまた寝はじめる。
***魔の山の宮殿での懇願
薄い緑色の肌の3mほどのオーク族の使者が山頂の宮殿に困った顔でイテミスを待っていた。
「お久しぶりです。“若頭”、風見族の襲撃の後についての報告でございます。」
その瞬間、「ドッ!」
拳がぶつかる鈍い音が響き、イテミスは1mも体格が高い使者を殴り飛ばして山頂の庭から落としかけた。
「ぶぐ…」オークはかろうじてしがみついて落ちずにとどまっている。
「人間の職人の方がまだ俺様への敬意はあったぞ?“若頭”などと…うぬには俺が青二才に見えるか?」
「手加減しておいたから大変、慈悲深いと思え…お前はたしか『ウード』だったか?」
ウードはよじ登り、“申し訳ございません。”と詫びた。口の端から垂れた血を拭い
「魔王様、俺たちの上位種の“ロックオーク”の縄張りが山羊男に占拠されました。」
「ロックオーク達が引き裂かれるわ、食い殺されるわ、で…どっちが魔物の側なのか…」
「それで、ロックオークリーダーが命乞いにイテミス様の居場所と指導者だと吐いちまって…」
魔人たちが“ざわざわ”とうろたえ始めた
「ロックオークの集落は魔人でも1人じゃ落とせないぞ?風見族にロックオークを傷つけれる奴はほとんどいないはずだし…山羊男が1人で落としたってことか…おまけに奴らの肉質を食ったって…」
イテミスが“ふん…”と鼻をならして問う
「ではなぜ、お前が先に来ている?その話だと小汚い山羊男が先にここに来るのが自然な流れだろう?」
ウードは困った表情で窮状を話す
「イテミス様が助けに来るか試すって山羊男がロックオークの首長に言ったらしくて、ロックオーク達がイテミス様に助けを呼んでくれって脅しにきて…イテミス様が来ないと俺たちノーマルオークを道ずれに叩き殺すって馬鹿みたいなことを自分たちが危ないのに言ってきて…」
イテミスは「山羊のくせにこの俺様が助けに来るか試すだと…?」と馬鹿にされたと思ったのか苛立つが、配下たちの目線を気にした様子で
「シルバナを攻めるのにロックオークの首長に兵を貸すよう命じたのは俺様だからな。」
「よかろう。知恵足りぬ哀れなロックオークどもを魔王として救ってしんぜよう。」
「それにここで戦えば宮殿が風魔龍の暴風で壊れるからちょうどいい。」
と態度を取り繕いながらイテミスは心底、山羊男を侮蔑した様子で旅と戦の支度を始めるのだった
「者ども、誠に遺憾であるがあの不快で矮小な山羊男がこの世にいると他部族共の魔族への畏怖の念が傷つく。」
「これからその汚いゴミを俺様が善行として奇麗に消してやる。来年の今頃には誰も山羊男など覚えておるまいて。」
「見物したければロックオークの集落に各々でついてくるのだな。あまりにつまらん戦いになるだろうから余興として賭けで山羊男が勝つ方に賭けても咎めはせぬぞ?」
「いたぶり惨たらしく足の指先から順番に刻んで惨めな山羊の顔を最後に踏み潰してくれるわ」
そう言い終えると木の枝のような翼の骨組みがイテミスの背中から生え、膜の部分は神木の葉っぱでおおわれた。風の魔法が葉から勢いよく放出され、ジェット機のように飛んで行ったのだった。
***カタム領主への手土
その頃セアフスシティにて
風見族が魔族に襲われていた頃、カタム領主はイグナを呼び出していた。
「イグナ君、なぜ君だけよんだかわかるかね?」
「私が、カタム様への考えに似ているからですか?」と返すと
カタム領主は首を横に振った
「それは君が呼ばれた理由で呼ばれなかった者への理由は抜けている。問題は君の仲間の判断力が低いのと下々の命を預かる権力者を甘く見るからだ。特にティアニス君だ。あの感情任せヒステリーな態度…本当に彼女は神学校を卒業したのかね?全く…」
カタム領主は本題に入り
「イグナ君に頼みたいのはロジ・ジョット氏の仕事ぶりを監視して報告してもらいたい。」
「ちょうど、組合(冒険者組合:ギルドのこと)から私に彼が会いたがってると連絡があってね。」
「今、彼は私への手土産のつもりで危険度Bの任務にあたってるそうだ。それは私がこっそり彼を試すために組合に根回しして紹介した任務だ。」
「『フェジェ』という人間に生まれたのも恥ずかしいクズの代表選手の排除が任務だ。」
「もう数年前から奴はセアフスを荒らしてる。強盗や詐欺に窃盗といった組織犯罪を金に困った未成年を構成員に利用しては使い捨てにしているゴミ以下の鬼畜だよ。」
「悲しいことに我々の力が及ばず何年も逃げられていてね。」
イグナが何とも言えない顔で
「ロジが任務の取り組みの様子を見張り報告してほしいということですか?」
「ロジ・ジョットはシュウノと度々、任務や旅の道中で会った関係ですが彼は3等で“狙った対象を乾燥させる能力”を扱っていました。」
「かける相手が強いほど時間がかかり、C級の魔物を1時間以上かけて隠れながら脱水させる戦法で数をこなし、私たちが魔王を倒す少し前にようやく3等になった男ですよ?」
「イグナ君、その程度は私も部下を通して調べている。重要なのは彼の最近の働きだ。」
「このカタムも長く下働きからこの地位に至るまで組合とは関係があったがあのような破竹の勢いで手柄を立てた男は真実味が無いくらいだ。」
「山羊男や残った魔族に対抗するためにも強い一等は把握しなければならない。」
「やってくれるかね?」
イグナはカタム領主に条件付きで了承した。
「わかりました。その代わりシュウノやティアニスも必要なら呼びます。我々はチームです。」
「それでいいなら引き受けましょう。」
「そこは君の采配に任せるよ。ただしその仲間に邪魔はさせないでくれたまえよ?」
「気を付けた方がいい…フェジェは過去に捕まえに来た君たち組合の者でも3等を4人と2等を3人殺している」
「顔も見るのも反吐がでるが奴の資料もその封筒に入ってるから持っていきたまえ。」
イグナに封筒を渡し退席した後に秘書がカタムに駆け寄り“以前頼んだこと“の経過を告げる
「領主様…暗殺者の『ラッキーナンバー』の予約が取れました。」
「もう少しでセアフスに到着するそうです。」
「わかった…彼との面談の部屋の準備をしておけ…彼は罠を警戒して物が多かったり、退路が無い場所を嫌がる」
「報酬の300万ルオン(日本円で3億)を用意しておけ…今回の的は山羊男だ。危険だからいつもより高めで断らないように機嫌を取る」
「立場をわきまえず神を見下し戦いを挑む傲慢な狩人の巨人を毒針の一突きで殺した神の使徒のサソリ…」
「おとぎ話だがラッキーナンバーはまさにそれだ…権力者達の忠実なる武器だよ…」




