ビーダーマイヤー・トリコロール、変死事件に巻き込まれた逃避令嬢 その6~貴族令嬢は婚約者の生還に複雑な気持ちになる~
口髭憲兵に続いて居間に現れたのは、唇の切り傷と鼻から血を流し、瞼を腫らし、血の付いたシャツとズボン姿で寒さに震え、足を引きずるカールと、支えるように肩を組んだ憲兵だった。
フランツが立ち上がり譲ったソファにヨロヨロと倒れこむようにして座ったカールは手首を擦りながら、痛そうに唇の傷を舐め、警戒するような目つきで周囲を見渡した。
ヨハンナは痛々しいカールの姿にハッ!と息をのみ、両手で口を覆った。
カールを支えてきた憲兵が口髭憲兵に向かって敬礼し、
「カール・フォン・ヴァイセンホフさんです。
街をパトロールしていると、監禁小屋から逃げてきたとの訴えがありましたので、ひとまず婚約者のお宅にということで、ここにお連れしました。」
フランツが様子をうかがうと、目を輝かせてニンマリ口角を上げて笑うレオポルトが楽しそうに手をすり合わせて立ち上がった。
「そうか!
そういうことか!
では、僕の推理による今までの経緯をまとめましょう!
何か間違いがあれば訂正してください。
カールさん、あなたは二日前にアルフォンス・ブルックナーに誘拐され、監禁された。
そしてフロックコートとウェストコートを奪われた。
ここまではよろしいですか?」
カールは警戒した目つきのままレオポルトを睨みつけていたが、首をひねり
「いや、監禁されたのは確かだが、誰に誘拐されたかは分からない。
アルフォンス・ブルックナー?
誰だか知らないが、そいつが犯人なのか?」
質問されたレオポルトはフム!と唸り、手を後ろに組んで居間を歩き始めた。
「そうですか。
では僕の仮説では犯人はアルフォンス・ブルックナーだとします。
ヨハンナさんに目を付けたブルックナーはカールさんの上着を身に着けカールさんになりすまして、夜中にヨハンナさんの家に押し入り、危害を加えようとした。」
根も葉もない誹謗中傷に驚いたヨハンナは急いで立ち上がり、
「そんなことっ!絶対にありませんっ!
ブルックナーさんは立派な方ですっ!グラーツ大学法学部の優秀な学生ですものっ!
社会をより良くしようと努力してらっしゃるのにっ!
私を襲おうなんて考えてたわけないわっ!
それよりも、もっとありえそうなことは・・っ」
と叫び、キッ!とカールを睨みつけ、ひとさし指を突き付けた
「こ、この人がっ!ブルックナーさんを殺して、便槽に押し込んだんだわっ!
この人ならやりかねないわっ!
いつも、いつも、私をいじめて楽しんでるんだからっ!」
カールは充血した目を丸くして、口をあんぐり開け、アワアワと言葉にならない声を出した。
それを見たヨハンナがフンッ!と鼻息も荒く
「そんな演技をしても無駄よっ!お見通しなんだからっ!
あ、あんたが殺してブルックナーさんに自分の上着を着せ、自分は誘拐被害にあったように見せかけて、隠れ場所から出てきたんだわ!
私が、ブルックナーさんに恋してると思って、嫉妬に狂って殺したんだわ!
だ、だって、そうでないと、おかしいものっ!
ブルックナーさんがっ!なぜ、私の家の便槽で、死んでるなんて・・・・・なぜよっ!
ワケがわからないわっ!!
あんなに・・・いい人が・・・・」
力が抜けたようにソファに座り込んだヨハンナの言葉は涙声になっていた。
フランツが気の毒そうにいたわるような声で、カールに話しかけた。
「あなたはいつどこで誘拐されたんですか?」
カールが唇に触れ痛そうに顔をしかめて、血が付いた指を見てブルッ!と身震いし
「何日前かな?
昼間はヨハンナとここで過ごし、夜、宿に帰る途中、突然後ろから布袋をかぶせられ、後ろ手に縛られて歩かされた。
犯人が何人いたかはわからないが、二人はいたんじゃないかな?
蹴られたり、小突かれたりしたから。
どこかの物置小屋?に入れられ、ずっと袋をかぶせられて足と手首を縛られ、やつらの気分次第で蹴られたり殴られたりした。
くそっ!
忌々しいやつらだっ!
見つけ出して父上にやっつけてもらうからなっ!!
ギロチンか足切りの刑にしてやるっ!
上着?
いつ脱がされたのか気づかなかった。
寝てる間だろうな。
突然、足の縄をほどかれて、歩かされて、手首の縄をほどかれたから袋を取ってみると、街の真ん中だった。
で一番最初に見つけた憲兵に訴えたんだ。」
(その7へつづく)




