ビーダーマイヤー・トリコロール、変死事件に巻き込まれた逃避令嬢 その7~レオポルトは変死事件の謎を解く~
フランツが顎に指を添え、難しい顔つきで
「もしカールが犯人で嘘をついてるとすると、二日前からヨハンナさんに見つからないように隠れ、昨夜、アルフォンスをこの家に呼び出し、上半身を脱がせ
『便槽の中に入れ』
と脅した。
ピストルかナイフを突きつけたんだろうな。
傷つけず死体を押し込むことは不可能だから。
でシャツはアルフォンスのまま、フロックコートとウェストコートを自分のと入れ替えて畳んで、抱えさせた。
ってなぜそんな不自然なことを?」
カールがびっくりしたように大声で
「はぁっ?!!
そんなバカなっ!
誰がそんなバカげたことをするんだっ!
排泄物が溜まった便槽?!に人が入る?なんて、とんでもない変態じゃなきゃ、思いつきもしないよっ!」
居間を歩くのをやめ立ち止まったレオポルトが両手を合わせて握りしめ
「じゃ、続きを聞いてくれ。
アルフォンスはカールの上着を着て、カールに成りすまして眠っているヨハンナさんを襲おうと思ったが、途中で気が変わった。
奇異で特殊な趣味嗜好による妄想が湧きあがり、アルフォンスをそそのかした。
それは何か?
おそらく、便槽の中で『覗き』をしようと考えた。
最近は彼女だけが使用しているので、排泄物は彼女のものだけ。
つまり、そういう変態的な趣味の持ち主にとって、便槽に潜むこと、そしてそこから覗きをすることは、最高の快感だと思えた。
今の状況は絶好のチャンスだ。
便槽が狭いので上着を脱いだが、便所に置いておくと、入ってきたヨハンナに気付かれてしまう。
だから足から便槽に入りながら、畳んだ上着を抱えて、穴の下へ降りた。
だが不幸なことに、便槽の狭さと三月のグラーツの寒さを甘く見過ぎたようだ。
アルフォンスは身動きできず、肺が圧迫され呼吸できなくなったせいか、もしくは寒さで凍死してしまった。
死因は検死を待たなければならないが。」
と話し終わると、一同は固唾をのみ、何ともいえない妙に張りつめた沈黙に包まれた。
うつむき、手で顔を覆って泣くヨハンナのすすり声だけが響いた。
数日後、フランツが受け取った憲兵からの報告により、アルフォンスの本性が明らかになった。
憲兵の調査で明らかになったのは、アルフォンスの友人たちがことごとくグラーツのならず者たちであること、ヨハンナをならず者から救った出来事も、アルフォンスと友人たちの自作自演だったこと、カールの誘拐とカールの宿からの金品の窃盗など、すべてはアルフォンスと仲間たちの仕業であるという事実だった。
アルフォンスは真面目な大学生という身分を隠れ蓑に、研究と称して裏社会に通じ、若くして犯罪組織の最上位に上り詰めた犯罪界の新星・カリスマ的存在だった。
厳格な父親の教育はアルフォンスの性格をゆがめ、奇妙な性的嗜好へと誘った。
それが高じた結果、前代未聞の、悪臭芬々たる事故死へとつながった。
フランツからその報告を聞いたレオポルトは
「アルフォンスが自由主義運動の指導者になりたがっていた、だって?
彼はビーダーマイヤー的な質素な暮らしをして育ったのに、変態的な趣味嗜好を持った青年になった。
フランス革命以前は、サド侯爵のような貴族だけの贅沢な占有品だった『悪徳』さえもが、今や市民にも平等に解放されたってことか。
結果がこれだなんて、トリコロールの理想も美しい面ばかりじゃないな。」
憂鬱そうにため息をついた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
この話は
「【1989】女性教諭が発見したトイレの遺体…不自然な格好で発見された男性の遺体は何故こんな状態に…?『福島便槽怪死事件』」
というサイトを参考にしました。
そして日本で、約十年おきに便槽で人が隠れてるのが見つかる事件があるという事実を知って、驚愕し、興味をそそられました。
まともな人なら排泄物のたまった場所なんて避けたいのが普通ですが、何の因果か、それに惹きつけられ、体ごと浸してまで覗き行為をしたいと思う人がいると聞いて、『人って多様だな~~~!』と感動しました。
悪臭や汚辱にまみれたいとか、食糞したいとかいう、ある種の自己犠牲的陶酔?マゾヒズム?な性的嗜好は『変態』のひと言で片付けてしまえば終わりですが、スキャンダラスな興味はそそられる、ということは、自分の中にも理解できる部分があるとも思えます。
ちょっとわかる・・・・という部分が?
自傷行為の変形?のような気がします。
『私はダメなやつだ!』→自己否定→自分を傷つけたい!→便槽に入る→臭い!汚い!→苦しめられてる!痛めつけられてる!辱められてる!=マゾヒズムの快感!
でしょうかねぇ。




