『猫のお話⑪ 「太郎とのり子とこたつ」』
十一月も終わりに近づくと、街の空気は肌を刺すような冷たさを帯び始めた。
どんよりとした灰色の空からは、雨粒に混ざって、白い小さな雪の欠片が風に舞いながらちらちらと落ちてくる。
本格的な冬の足音が、すぐそこまで近づいていた。
小谷家のリビングでは、年に一度の「一大イベント」が賑やかに繰り広げられていた。
押入れの奥から引っ張り出された大きな正方形の木のやぐら。その上に、分厚くてふかふかの臙脂色の布団が、バサリと広げられる。
「よいしょ、っと! 今年もついに出たわね、冬の魔王!」
のり子が歓声を上げながら、広げられたこたつ布団の上へダイブした。
「あはは、のり子、まだ電源を入れてないぞ」
お父さんが笑いながら、コードをコンセントに差し込み、手元のダイヤルをカチリと回した。
「でもね、こたつって入ると本当に動けなくなるから不思議よねえ。お父さんも去年、こたつで寝落ちして風邪ひきかけたじゃない」
お母さんが台所からお盆にみかんを山盛りにして運んできながら、呆れたように笑う。
「いやいや、あれは魔力だよ。こたつの引力には勝てん」
「私もー! 今年の冬は、こたつから一歩も出ないで暮らす!」
「宿題はどうするのよ」
「こたつでやるもん!」
そんな家族の楽しげなやり取りの足元を、するりと抜けていく影がひとつ。
ボスの太郎である。
赤く灯り始めたヒーターの光を見つけるや否や、太郎は迷うことなく頭から布団の隙間へと潜り込んだ。
「あ、見て! 太郎が一番乗り!」
のり子が布団を少しめくると、奥の方で丸くなり、すでに目を細めて「ふすー……」と満足げな鼻息を立てている太郎の姿があった。
「猫はこたつで丸くなる、って本当だったんだねえ」
「太郎、ご飯とおトイレ以外は出てこない気だな」
お父さんお母さん、そしてのり子の温かい笑い声が、こたつ布団越しに太郎の耳をくすぐった。
じんわりとお腹から温まる心地よさに、太郎は重い体を完全に脱力させ、夢の中へと落ちていった。
その夜、テレビの天気予報から、アナウンサーの真剣な声が流れてきた。
『明日は強い冬型の気圧配置となり、この地域でも明け方から昼過ぎにかけて、警報級の大雪となる恐れがあります。路面の凍結や積雪に十分ご注意ください』
「あらまあ、大雪だって」
「明日は車じゃなくて、少し早めに歩いて駅に向かった方が良さそうだな」
「わあ! 雪、いっぱい積もるかな!? 雪だるま作れるかも!」
無邪気に喜ぶのり子の声を遠くに聞きながら、太郎はこたつのぬくもりの奥深くで、ただただ丸くなっていた。
翌朝。
カーテンを開けると、窓の外は一面の銀世界だった。
しんしんと降り積もる雪が、屋根や電線、庭の木の枝を白く塗り替えている。
「いってきまーす!」
のり子は黄色い長靴を履き、分厚い手袋とマフラーで完全武装して、元気に玄関を飛び出していった。
キュッ、キュッと雪を踏みしめる嬉しそうな足音が、外から小さく響いてくる。
「気をつけて行くんですよ!」
「よし、私もそろそろ出るよ。滑らないように気をつけて歩かないとな」
お父さんも笑顔でコートの襟を立て、仕事へと向かった。
お母さんは二人を玄関で見送ると、ほっと息をついてリビングに戻ってきた。
リビングの真ん中では、こたつが静かに温もりを放っている。
太郎は、もちろん一歩も外に出ていなかった。
昨晩から体勢を何度か変えただけで、完全にこたつと一体化している。
「にゃむ……極楽、極楽……」
外がどれほど冷えていようと、雪がどれほど積もろうと、ここには温かい春がある。
これぞ飼い猫の特権、これぞボスの冬の過ごし方だ——太郎がそう確信していた、その時だった。
バサッ!
無情にも、頭上の分厚い布団が一気にめくられた。
「ヒャッ!?」
冷たい外気が一気に流れ込んできて、太郎は思わず背中の毛を逆立てた。
見上げると、そこには三角巾にエプロン姿、手には掃除機を構えたお母さんが立っていた。
「太郎ちゃん、ごめんね〜。今日はお部屋の大掃除だから、こたつを上げて掃除機をかけたいのよ。ちょっとどいててね」
「にゃ、にゃがーーん……!?」
お母さんは手際よく、座布団をどかし、こたつの敷布団を畳み、換気のために勝手口のガラス戸を少しだけ細めに開けた。
そして、容赦なく掃除機のスイッチを入れた。
ブオオオオオオン!という凄まじい轟音がリビングに響き渡る。
大嫌いな機械音と猛烈な風にパニックになった太郎は、リビングから廊下へと一目散に逃げ出した。
しかし、お母さんは掃除機をかけながらどんどん廊下の奥へと進んでくる。
(うわああっ! こっちに来るなーっ!)
逃げ場を失った太郎は、換気のために少しだけ開いていた勝手口の隙間を見つけると、吸い寄せられるように外へと飛び出してしまった。
バタン、と風でガラス戸が小さく閉まり、静寂が戻る。
しぶしぶ周囲を見回した太郎の鼻先に、ツンとした冷気が突き刺さった。
(……しまった、勢いで外に出ちまった……勘弁してくれよ……)
だが、家の中からはまだ凄まじい掃除機の音が響いている。今戻ればまたあの怪物と鉢合わせだ。
太郎はため息をつきながら、重い腰を上げて雪の積もる路地へと足を踏み出した。
「つ、冷たっ……!」
地面に足をつけた瞬間、冷気で肉球がキーンと痛んだ。
新雪は太郎の脚が半分埋まるほど積もっており、歩くたびにお腹の柔らかい毛が雪を擦る。
(さ、寒い……! なんだこの寒さは!)
家の中のこたつが温かすぎたせいで、外の冷たさが骨身にしみる。
昼前だというのに、太陽は厚い雪雲に覆われ、気温はほとんど氷点下に近い。
太郎が背中を丸め、植え込みの雪よけの下を歩いていると、路地の向こうからガサガサと物音がした。
現れたのは、弟分のしまねこを先頭にした、いつもの野良猫たちだった。
しかし、その姿はあまりにも痛々しかった。
全員が背中を限界まで丸め、毛をぼさぼさに逆立てて空気の層を作り、寒さに震えている。
耳は冷たさで赤くなり、足元は冷たい雪に濡れて泥まみれ。鼻水を垂らしながら、歯をガチガチと鳴らしている猫もいた。
「あっ……! 親分だ! 親分ーーッ!」
しまねこが太郎を見つけるなり、すがるような目で駆け寄ってきた。
後ろから、茶トラやキジトラ、灰色の猫たちもゾロゾロと集まってくる。
「親分……寒いよぉ……! 凍え死んじまうよ!」
「朝から雪宿りできる場所を探してるんだけど、どこも風が吹き込んできてちっとも暖かくねえんだ!」
「親分、頼むよ……! あの、のり子ちゃんに言ってくれよ!」
太郎は目を丸くした。
「……は? のり子に言ってどうするんだ?」
すると、しまねこが真剣そのものの顔で、必死に前足を合わせた。
「どうするって、親分! のり子ちゃんは『雪の魔法使い』だろ!? 夏にあんなに凄い雪を作り出して、俺たちに食わせてくれたじゃないか!」
「そうだそうだ! 雪を作れるなら、降ってる雪を止めることだってできるはずだ!」
「お願いだ親分、のり子ちゃんに魔法を使ってもらって、この大雪を止めてくれぇぇ〜〜!!」
「…………」
太郎は言葉を失った。
(おいおいおい……)
夏に庭先で開いた、あのかき氷屋さんのことだ。
あの時、のり子が機械のハンドルをぐるぐる回して氷を削っていたのを、猫たちはすっかり「人間が雪を生み出す魔法」だと信じ込んでしまっていたのだ。
(あれは魔法じゃねえ。かき氷機っていう、ただ氷を細かく削る人間の道具なんだよ……)
そう言ってやりたかったが、目の前でガタガタと震えている猫たちの必死な顔を見ていると、とてもそんな説明をする気にはなれなかった。そもそも「機械」だの「冷蔵庫」だのを説明したところで、猫たちに通じるはずもない。
しかし、冗談はさておき、事態は深刻だった。
ぬくぬくとこたつで寝ていた太郎は気づいていなかったが、外で生きる彼らにとって、この大雪は命に関わる大災害なのだ。
昼間ですらこの極寒だ。夜になり、気温がさらに下がれば、凍死する子猫や老猫が出てもおかしくない。
かつて「二度と仲間を死なせない」と誓ったボスの胸が、ズキリと痛んだ。
「……おい、お前ら。よく聞け」
太郎は低い、落ち着いた声で言った。
「のり子は今、学校だ。それに……天気の雪は、そう簡単に止められるもんじゃねえ」
「ええっ……そんなぁ……!」
絶望したように耳を垂らす猫たちに、太郎は力強く言葉を継いだ。
「だが、安心しろ。俺がなんとか寒さをしのげる方法を考えてやる。風邪ひかねえように、風の当たらない軒下に固まって待ってろ!」
「お、親分……!」
「すぐ戻る。絶対にその場から動くなよ!」
太郎はそう言い残すと、雪を蹴散らしながら、力強い足取りで走り出した。
太郎が向かったのは、三丁目にあるミケとおばあちゃんの家だった。
生け垣の隙間をくぐり、庭へと滑り込む。
庭の隅には雪が積もっていたが、南向きの広い縁側には、雲の切れ間から差し込んだ淡い陽光が柔らかく降り注いでいた。
ガラス戸の向こうで、何やらガサゴソと音がしている。
太郎が「にゃーん」と声をかけると、ガラス戸が少しだけ開き、中から三毛猫のミケがひょっこりと顔を出した。
首には、以前のり子からもらったあの鈴が、小さくチリンと揺れている。
「あら、太郎! こんな雪の中、どうしたの?」
「ミケか。おばあちゃんは元気にしてるか?」
「うん! 足腰もすっかり良くなって、今は縁側で大掃除と整理をしてるのよ。ほら、見て!」
ミケに招かれて縁側に上がると、そこには色とりどりの布の山ができていた。
冬物の着物や分厚い綿入りの丹前が広げられ、その横には、綺麗に畳まれたセーターやウールの服、ちゃんちゃんこなどがうず高く積まれている。
そして、その古着の山のど真ん中に、ミケがすっぽりと潜り込んで、顔だけをちょこんと出していた。
「ふふ、あったかいでしょ? これね、昔おじいちゃんが生きていた頃に着ていた服なんだって」
ミケがおばあちゃんの方を振り返りながら言った。
畳の上には、老眼鏡をかけたおばあちゃんが腰を下ろし、一枚一枚の服を優しく撫でながら仕分けをしていた。
「おじいさんの服も、ずっと取っておいたけれど……もう着る人もいないしねえ。思い出の何着かだけ残して、あとは思い切って処分しようかねえ、ミケ」
おばあちゃんが独り言のように呟き、目を細める。
ミケは太郎に向かって言った。
「おばあちゃん、物をとっても大切にする人だから、なかなか捨てられなかったみたいなの。でも、置く場所もなくなっちゃったから、処分しちゃうんだって。なんだかもったいないよね、こんなにフカフカで温かいのに」
その瞬間、太郎の頭の中で、パチンと火花が散った。
(……これだ!)
目の前にある、分厚いウールのセーター。綿がたっぷり入った半纏。手触りのいいフリースの端切れ。
(この古着を、あいつらの寝床に敷いたらどうだ……!?)
だが、ただ外に置くだけじゃ駄目だ。雪や雨が吹き込めば、布は水分を吸って氷のように冷たくなり、かえって体温を奪ってしまう。
(……そうだ、あの場所ならいける!)
太郎の頭に、雨や雪が絶対に吹き込まない神社の深い縁の下や、空き地のトタン屋根の下にある頑丈な木箱の影が浮かんだ。
あそこの乾いた地面にこの服を分厚く敷き詰めれば、底冷えする冷気を完全に遮断できる。何匹かで寄り添ってこの布にくるまれば、どんな大雪の夜だって絶対に乗り越えられるはずだ。
「おい、ミケ! この古着、おばあちゃんからもらえないか!?」
太郎が身を乗り出すと、ミケは目を丸くした。
「えっ? 太郎、これ欲しいの?」
「ああ! 外の野良たちが、大雪で凍え死にそうなんだ。神社の縁の下や乾いた寝床に敷いて、あいつらを温めてやりたいんだよ!」
太郎の真剣な訴えに、ミケはハッと息を呑み、それから嬉しそうに目を細めた。
「さすが太郎、いい考え! おじいちゃんの服も、役に立てたらきっと喜ぶわ!」
だが、ミケはすぐに小首をかしげて、少し困ったような顔をした。
「でも……おばあちゃんには、猫の言葉は通じないよ? どうやってお願いしよう……」
「……そうだな」
太郎が腕を組んで考え込もうとした時、ミケが自信満々に胸を張った。
「大丈夫! 私とおばあちゃんは、心と心で通じ合ってるんだから! 雰囲気で絶対にいけるわ。太郎、寒がってるみんなをここに連れてきて!」
しばらくして、太郎は寒さに震える野良猫たちを引き連れて、おばあちゃんの家の庭へと戻ってきた。
しまねこを始め、七、八匹の猫たちが、恐る恐る縁側の前に並ぶ。
縁側でお茶を飲もうとしていたおばあちゃんは、庭に突然現れた猫の集団を見て、目を丸くして驚いた。
「あらあらまあまあ! どうしたんだい、こんなにたくさん……! 雪で寒くて、お腹が空いたのかい?」
おばあちゃんは慌てて立ち上がると、台所からミケ用のカリカリの小袋と、煮干しを持ってきて、庭の小皿に少しずつ分けてくれた。
「はいはい、少ししかないけれど、お食べ。寒いからねえ」
優しいおばあちゃんの気遣いに、野良猫たちは「ご馳走だ……!」と目を輝かせ、夢中でカリカリを口に運んだ。
だが、ご飯を食べ終えた後も、猫たちは帰ろうとしなかった。
ミケが、縁側からツンツンと一匹の茶トラの背中をつつく。
茶トラは意を決したように、縁側に積まれていた、処分用の分厚い紺色のセーターの端を、そろりと口にくわえた。
そして、おばあちゃんの方をじっと見上げると、
「にゃ〜〜〜〜ん……」
と、これまで聞いたこともないような、甘くて、切なくて、丁寧な声で鳴いた。
続けて、ミケがおばあちゃんの足元に体をすり寄せ、セーターとおばあちゃんの顔を交互に見つめながら、
「にゃうん、にゃおん(おばあちゃん、これ、あの子たちにあげていい?)」
と、優しく鳴いた。
太郎もまた、ボスとしての威厳を込めて、深く、静かに頭を下げながら「にゃー」と鳴いた。
おばあちゃんは最初、きょとんとしてその様子を眺めていた。
セーターをくわえたまま、すがるような目で見つめてくる茶トラ。
足元で必死にお願いするように喉を鳴らすミケ。
そして、群れを率いて礼儀正しく佇む太郎。
やがて、おばあちゃんの顔が、ふわりとほどけた。
目尻に優しい皺が寄り、口元に温かい笑みがこぼれる。
「……そうかい。お前さんたち、寒くてたまらないんだね。この服を、お布団にしたいのかい?」
「にゃーん!」
ミケと茶トラが、同時に鳴いた。
おばあちゃんは「うん、うん」と何度も大きく頷いた。
「そうかい、そうかい! 捨ててしまうくらいなら、お前さんたちの役に立ってもらった方が、おじいさんもずっと喜ぶよ。ちょっと待っておくれね」
おばあちゃんは縁側にしゃがみ込むと、処分する予定だった古着の山から、一番暖かそうなウールのセーターや、綿がしっかり入ったちゃんちゃんこ、フリースの上着を次々と選び出し、猫たちが運びやすいように小さく丸めて紐で縛ってくれた。
「ほら、これもお持ち。これは風を通さないから暖かいよ。濡らさないように、雨の当たらない場所に敷くんだよ」
太郎は目を見張った。
(……すげえ。本当に、言葉が通じてやがる……!)
猫語など一言も喋っていないのに、おばあちゃんには、猫たちの切実な想いと使い道が、完全に伝わっていたのだ。
「ありがとな、おばあちゃん!」
「にゃおーん!(あったかいよ、ありがとう!)」
猫たちは歓喜の声を上げ、丸められた古着をひとつずつ口にくわえた。
重たいセーターを二匹で力を合わせて引っ張る若い猫たち。
おばあちゃんは、そんな猫たちの一匹一匹の頭を、優しく撫でて見送った。
「風邪をひくんじゃないよ。みんなで暖かくして、無事に冬を越すんだよ」
「よし、お前ら、運ぶぞ! 雪や風が吹き込まない、神社の縁の下とトタン小屋の奥だ! 濡らしたら台無しになるからな!」
太郎の号令のもと、古着をくわえた猫たちの行列が、雪の積もる路地を意気揚々と歩いていく。
その足取りは、先ほどまでの凍えるような重さとは打って変わり、希望に満ちて軽やかだった。
神社の奥深く、雪の届かない乾いた縁の下に、おじいちゃんの温かい古着が幾重にも敷き詰められ、猫たちが団子のように丸くなって寒さを凌ぐ光景が、太郎の目にはっきりと浮かんでいた。
夕方になり、ようやく雪はやんだ。
西の空が淡い橙色に染まり、積もった雪が夕日を反射してキラキラと輝いている。
太郎が小谷家の玄関の前にたどり着くと、ちょうど学校から帰ってきたのり子と鉢合わせになった。
のり子は長靴に雪をいっぱいつけ、鼻の頭を真っ赤にしながら、満面の笑みで太郎を出迎えた。
「あ、太郎! どこ行ってたのー? 雪、止んだよ! ねえねえ、今日の雪、凄かったよね!」
のり子はしゃがみ込み、太郎の頭をいつものようにくしゃくしゃと撫で回した。
太郎は「にゃーん」と低く鳴き、のり子の足元に体をすり寄せた。
「あのね、今日学校でね、みんなで大きな雪だるま作ったんだよ! でも手がすっごく冷たくなっちゃって……あ、そうだ! お母さん、もうお部屋の掃除終わったかな?」
のり子がガラリと玄関を開けると、家の中から出汁のいい匂いと、ぬくぬくとした暖かい空気が流れ出してきた。
リビングのドアを開けると、そこには綺麗に掃除され、再びセットされたこたつが、赤々と暖かな光を放っていた。
「わあーい! やっぱり冬はこたつだよねーーっ!!」
のり子はランドセルを放り出す勢いでこたつへ駆け込み、下半身をズボッと滑り込ませた。
「あ〜〜〜……生き返るぅ……! 極楽〜〜!」
太郎もまた、のり子の足の隙間を器用に縫って、こたつの中へと潜り込んだ。
赤外線の温もりが、冷え切っていた肉球とお腹の毛を、優しく包み込んでいく。
「太郎、あったかいね」
こたつ布団を少し持ち上げて、のり子が顔を覗かせてきた。
「お外のみんなは、大丈夫かな? 寒くないかな……」
心配そうに眉を下げるのり子に、太郎はこたつの中から、喉をゴロゴロと大きく鳴らしながら、力強くひと鳴きした。
「にゃーん(心配すんな。あいつらも今頃、最高にあったかい布団の中で丸くなってるさ)」
「ふふ、太郎がそう言うなら、安心だね」
のり子は満足そうに微笑むと、みかんの皮を剥き始めた。
外は厳しい冬の寒さが続いている。
けれど、小谷家のこたつの中も、神社の縁の下のおじいちゃんの古着の中も、
確かな温もりと、誰かを想う優しい心で、ぽかぽかと満たされていた。
おしまい




