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ホワイトな異世界  作者: tomsugar


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81/82

81.最後の贈り物

私は、フェリーのデッキで海風を受けながら、ある街へ向かっていた。

入院中の、ある女性を訪ねるためだ。


港の周辺には、緑の美しい公園が広がり、軽食のスタンドやカフェ、雑貨店が並んでいた。

丘の上には、大きな病院のビルが見えた。私はそこへ向かう。


受付で病室の番号を聞き、静かな廊下を進む。

扉を開けると、ベッドの上に横たわる女性がいた。


「お久しぶりです」私は声をかけた。

「あら、お久しぶりね。お元気だったの?」

「えぇ、おかげさまで」


そこに横たわっていたのは、栗色の髪にモスグリーンの瞳をした、美しい女性だった。


「エマさん、モリス博士からの贈り物です」

私は花束を差し出した。


「まぁ、きれいな花束。チャールズは今どうしてるの?」

エマは、花束を胸に抱えながら尋ねた。


「五年前に自壊されました。その花束を、私に託して」


「そう」

エマはそれだけ言うと、静かに視線を落とした。

涙は流れなかった――彼女には、涙を流す機能がない。


代わりに、私の視界がぼやけていく。

彼女の輪郭が滲み、光の中に溶けていった。


やがて、ぼやけた輪郭の中から、彼女のかすかな声が響いた。


「あなたの大切なものを奪ってあげたわ。私の勝ちね。

この美しい白い世界に、あなたもリー・ヤオも必要ないのよ」


「いいえ、あなたの負けですよ。どす黒く染まってしまったのは、あなた自身です」


エマは、人間として病院に収容されていた。

路上で倒れていた彼女を、人々は人間だと思い、救急車を呼んだ。

人間の臓器をそのまま備えたロボットなど、他には存在しなかった。

だから、彼女が“エマ・ヘミングウェイ”であることに、病院関係者はしばらく気づかなかった。


エマは、花束を抱いたまま動かなくなった。


――それは、モリス博士が設計した、

彼女を静かに破壊するためのプログラムが仕込まれた、最後の“贈り物”だった。

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