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ラストダンジョン最寄りの村の定食屋ですが、魔王様が常連客になりました  作者: 松本雀


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七輪VS元勇者魔王! 〜秋の秋刀魚騒動、定食屋の乱〜

魔法冷蔵庫の扉をそっと開くと、冷えた空気がひんやりと頬を撫でました。中に並ぶのは、商人さんから仕入れたばかりの新鮮な秋刀魚たち。どれもこれも銀色に光り輝いて、ぷりぷりと身が引き締まっています。


勝負の行方を左右する大切な食材。

私は一匹一匹、慎重に取り出します。


ところが、私が秋刀魚を皿に並べる姿を見たジルヴァラク様は、眉をひそめて不安げに口を開きました。


「メルヴィ殿……まさか、魚をただ焼くだけで、オレ様の料理に勝つ気なのか?」


うわぁ、すごく心配されていますね。まるで手ぶらでダンジョンに乗り込んできた無謀な冒険者を見るような眼差しです。さすが元勇者様、眼光が鋭い!


「ふっ……ジルヴァラク様、甘いですね。これはただの焼き魚ではないのですよ!」


私は堂々と胸を張りながら、厨房の下に隠しておいた秘密兵器を取り出しました。それは先日やっと見つけ出した、私のとっておきの調理道具。


「これが今回の切り札――『七輪』です!」


ちょっと誇らしげに言うと、ジルヴァラク様を含めた魔王様たちの視線が一斉に私に注がれました。期待と不審が入り混じったような、なんとも言えない眼差しです。


静寂を破ったのは、バルゼオン様の自信満々な声でした。


「なるほど、その鈍器でジルヴァラクを一撃する作戦なのだな。武力による決着とは実に潔い」


「魔王様の中で、どれだけ暴力的な定食屋店主になってるんですか私!?」


料理勝負に物理攻撃を持ち込まないでくださいよ!

そんな方法で魔王様に勝てるのなら、私はとっくに戦士に転職していますからね!?


ちらりとジルヴァラク様を見ると、予想外の展開に完全に引きつった顔をしていました。


「メ、メルヴィ殿……七輪というのは、もしや凶暴な武器なのか?」


「違いますってば! あなた元勇者ですよね? 調理器具に怯えないでください!!」


なんですか、この料理勝負なのに妙な緊迫感に満ちた展開は!?

私はただ、秋刀魚を美味しく焼きたいだけなのに!


気を取り直して私は、七輪を丁寧に持ち上げて説明しました。


「ご心配なく。これは食材の旨味を最大限に引き出すための調理器具です。炭火の火力で食材をじわじわ焼くと、余分な水分が飛んで旨味が凝縮されます。特に秋刀魚なんて絶品ですよ! 魚の皮はパリッと、脂はじゅわっと、香ばしい匂いごと食べたいくらいで、なんならこれで米が無限に食べられます!!!」


勢いで説明したら自分が一番お腹すいてきました。

どうして私は料理勝負の最中に、自分に飯テロしているんですかね?


私の説明を聞いて、グリム様とアモルテ様は「なるほど……」と小さく頷きました。


「炭火か! 確かにそれなら味わい深い料理になるだろう」


「……へぇ。人間ちゃん、ちょっと見直したよ?」


お二人が納得したのに対し、バルゼオン様だけがなぜかしょんぼりしています。


「そうか……鈍器ではなかったのか」


「鈍器じゃないって言ってるでしょうが!!! 勘弁してくださいよ!?」


全くこの魔王様は油断も隙もありません。


説明が終わり、私は改めて秋刀魚を手に取りました。七輪で秋刀魚を焼くとなると、煙が大量に出てしまうので、このまま店内で焼くのはちょっと厳しいでしょう。


「あの、七輪で炭火焼きをすると、どうしても煙が出てしまいますので、調理は外で行わせていただきますね?」


私がそう告げると、バルゼオン様は再び元気いっぱいになりました。


「ふっ……外での決戦というわけか。まさに真剣勝負の様相だ」


「違いますってば!? バトルじゃありませんからね!? 普通の料理勝負ですよ!!!」


どうしてこの魔王様だけは、いつもこんなに楽しそうなんでしょうか。もうちょっと、真面目に審査員としての威厳を持ってもらえませんかね!


私は七輪を抱え、そそくさと店の外へ出ました。爽やかな秋の風が頬を撫で、気持ちを少し落ち着かせてくれます。


七輪の中に炭を置いて火をつけると、ゆっくりと赤い炎が立ち昇り、ほどよく火が回りました。


さぁ、ここからが勝負の本番です。


旬の秋刀魚をこの炭火でじっくり焼き上げ、最高に美味しい塩焼きを魔王様たちに召し上がっていただきましょう!


「メルヴィよ、本当に殴らぬのか? 我はまだ少し期待しているのだが……」


「ぜっっったい殴りませんから期待しないでください!!!!」

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