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ラストダンジョン最寄りの村の定食屋ですが、魔王様が常連客になりました  作者: 松本雀


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秋刀魚VS魔王様たち! 〜ラストダンジョン最寄りの定食屋、秋の陣〜

本来、こういった料理勝負というのは、二人の料理人が同時に調理を進め、同時に並べて試食に移るものです。


が、そこは『ラストダンジョン最寄りの村の定食屋』という小さな店の悲しい宿命。店のキッチンは本当に小さく、コンロもわずか二つしかありません。つまり、どんなに格好をつけようとしても、必ず順番待ちが発生するのです。


「……というわけで、先攻ジルヴァラク様の『クラーケンの香草バター揚げ』が完成したので、次は私が料理をする番になります」


審査員席に座っている魔王様たちに向かって、私は申し訳なさそうに頭を下げました。


グリム様は、獰猛な魔獣が獲物を睨みつけるような鋭い視線を私に向けます。


「ヒトよ……お前はいったい何を作るつもりだ?」


低く響く威圧的な声に、冷たい汗が一筋流れました。


ちょっと待ってください! どうして私、これから狩られる獲物みたいな扱いを受けてるんでしょうか?

この前「美味いな、ご飯おかわり」とか言って豪快に笑っていたグリム様はどこへ!?


慌てふためく私をよそに、アモルテ様も妖艶な笑みをヴェール越しに浮かべました。


「ふふ……定食屋の地味な料理で、この僕を満足させられるとでも思っているの?」


いつも軽いノリで「美味しいねメルヴィちゃん!」ってニコニコしてくれるアモルテ様が、今日は妙に色っぽい口調で辛辣なことを言っています。


料理勝負だから、公平に審査しないといけないのは分かります。

でもこんな本気の魔王オーラを二人揃って出されたら、こっちの心臓が持たないんですけど!!


そんな重苦しいプレッシャーの中、私の視線はちらりとバルゼオン様に向かいました。


すると、こちらの魔王様はなんだかもうキラッキラの瞳で、期待感たっぷりに私の方を見つめています。


いやいやいや、あなたはもうちょっと審査員としての威厳を見せてくださいよ!

なぜいつもの調子で、普通に料理が運ばれてくるのを楽しみに待ってるんですか!!!


心の中で激しくツッコミを入れながら、私は必死に平静を装いました。


「えっと、私は旬の秋刀魚を塩焼きにします!」


勇気を振り絞って宣言すると、グリム様の眼差しがさらに鋭くなりました。


「秋刀魚……だと?」


「はい! 秋刀魚は旬の今こそ最高に美味しいんですよ。これは雑貨屋のご主人が『肉より魚だ』って絶賛したほどで――」


私が一生懸命説明していると、先ほどまで艶っぽく意地悪そうだったアモルテ様が、ほんの一瞬だけヴェールの下で優しい笑みを浮かべたような気がしました。


ああ、そうですよね……お二人とも普段は好意的で優しいお客様ですものね。でも今日は審査員だから、公平に振る舞おうとしている。


少しだけホッとしましたが、グリム様の威圧的な視線に私は再び身体をこわばらせました。


「本当に……秋刀魚ごときで、この俺を満足させられるのだろうな?」


低く冷たい問いかけに、私は慌てて説明を続けます。


「さ、秋刀魚は見た目こそ地味かもしれませんが、シンプルな塩焼きが一番なんです! この銀色に輝く細長い身体には、まさに今しか味わえない脂がぎゅっと詰まっています。じっくり焼けば、表面はパリッと香ばしく、中はほろりと柔らかく仕上がります。滴り落ちる脂が火に落ちて、じゅわっと煙を立てれば、それだけでもう食欲をそそる香りが広がるんですよ……!」


ちらりとバルゼオン様を見ると、赤い瞳を爛々と輝かせて前のめりになっていました。


ちょっと! そこの審査員の中の人!!


ついさっきまで「イカフライ定食が食べたい」とおっしゃっていましたよね!?

もう秋刀魚に心が動いてるんですか。あまりにも食欲に正直すぎません???


内心呆れつつ、私は説明を締めくくりました。


「この秋刀魚には大根おろしとすだちを添えます。そこに醤油を軽く垂らせば、脂の甘さと塩味のバランスが絶妙になり、さらに美味しさが引き立つんですよ。旬の秋刀魚と、この組み合わせはもう最強です! なので、どうか……ご期待ください!!!」


私がそう言うと、グリム様は「ふん……」と小さく鼻を鳴らし、厳かに頷きました。


「ヒトよ……そこまで言うなら、その言葉が真実かどうか、我が確かめてやろうではないか」


いつもの豪快で笑顔満面なグリム様とはまるで別人です。

公平な審査員を演じてるって分かっていても、迫力がありすぎて動悸が激しくなります!


一方のアモルテ様は、ヴェール越しにふふっと小さく微笑んでいました。


……この方はこの方で、完全に楽しんでません?

私の慌てる姿を見て面白がってますよね!!!


そしてバルゼオン様はというと――。


「よし、メルヴィよ。我はもう我慢できぬ、その『さんまの塩焼き』とやらを早く我に食べさせるがよい」


だから、審査員としての自覚を持ってくださいよ魔王様!!

どうして一人だけそんなにお気楽なんですか!?

勝負ですよ勝負!!!


心の中では激しくツッコミを入れ続けていましたが、私は何とか表情を取り繕い、厨房に向かいました。


やってやろうじゃありませんか、旬の秋刀魚の底力を――!


魔王様たちの予想を遥かに超える絶品秋刀魚を焼き上げて、全員まとめて唸らせて差し上げますからね!

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