定食屋VS元勇者魔王!~味覚に魔王の壁あり~
ついにジルヴァラク様が完成させた『クラーケンの香草バター揚げ~溶け果実ソースがけ~』の審査が始まりました。
まず最初は西の魔王アモルテ様。
薄絹のヴェールを優雅に少しだけ上げると、スッと細い指先で、フォークに刺したクラーケン揚げを口元に運びます。
私はその美しい所作を見て、思わずごくりと息を呑みました。
アモルテ様は一口、また一口と優雅に咀嚼しては、色っぽく小さなため息をつきました。
「あぁ……すごく美味しいねぇ。クラーケンのぷりっとした食感が絶妙だし、香草の香りが豊かでとても贅沢。それにこの溶け果実のソース、甘酸っぱくて舌に残る余韻がとてもいいよ……?」
甘ったるい声色に、私はどきどきしながら思わず感心しました。
うわぁ、やっぱり美味しいんだ……!
味も見た目も良いし、レア食材でおもてなし感もあって凄い!!
そんな私の内心の感動をよそに、アモルテ様はちらりとジルヴァラク様に視線を送り、ヴェール越しに艶やかに微笑みました。
「ねぇ、ジルヴァラク……また今度、僕だけのために作ってほしいなぁ……?」
艶のある声で甘えられて、ジルヴァラク様は明らかに焦りました。先ほどまでの冷静な表情が一瞬で引きつっています。
「あ、いや、その……有難きお言葉だが……またの機会ということで……」
必死にかわそうとするジルヴァラク様ですが、アモルテ様は妖艶な笑みを崩しません。
それにしても、いつもはバルゼオン様に無理やり引きずられて入店したり、恋愛トークに話を咲かせたりと自由奔放なのに、今日はなんですか。その魔王然とした色気全開の余裕モードは!
アモルテ様、やれば出来るタイプだったんですね……。
私は内心舌を巻きつつ、同時にいつもとのギャップを感じて遠い目をしてしまいました。
アモルテ様の蠱惑的なおねだりにジルヴァラク様が動揺しまくったあと、審査はいよいよ魔獣王グリム様の番です。
グリム様は無言で皿の上の『クラーケンの香草バター揚げ~溶け果実ソースがけ~』をじっと睨んだかと思うと、しっかりとした手つきでクラーケンを口に運びました。
「……」
もぐ、もぐ、もぐ。
無言の咀嚼が続きます。
あああ……お願いですから、早く何か言ってください!
見ている私の胃まで痛くなってきましたよ!?
グリム様は数個のクラーケン揚げを噛みしめた後、ようやく口を開きました。
「……なるほど。クラーケンの肉の旨味は素晴らしいな。歯応えもよく、火の通り具合もちょうどいい。採取難易度の高い食材をここまで見事に仕上げた腕前、敬服に値する」
よ、よかった!
グリム様があんな真剣な顔して無言だったから、どうなることかと思いましたよ!
ジルヴァラク様の表情にも、ぱっと明るさが戻ったように見えます。
しかし、グリム様の言葉はそこで終わりませんでした。
「……ただ、個人的にはこの香草の匂いや、果実のソースの甘酸っぱさが好みではない。もっと素材の持ち味そのものを活かしたほうが、俺には合っていたかもしれん」
率直な意見に、ジルヴァラク様は再び表情を曇らせ、小さく肩を落としました。
「折角だからと手を加えすぎたか……素材の旨みをそのまま活かすべきだったな……」
私は、少ししょんぼりしたジルヴァラク様の後ろ姿を見つめながら、内心で料理人として共感を覚えました。
ジルヴァラク様、気を落とさないでくださいね。
確かに香草や甘酸っぱいソースって、男性には苦手な方が意外と多いんですよ。でも女性や、こういう味に慣れている人からは絶賛されることも多いですし。うん、万人に好まれる味って、本当に難しいんですよねぇ……。
料理人なら誰もが通る、『万人受けの味付け』の難しさ。
グリム様も決して悪気はないのでしょうが、食の好みがはっきり分かれる食材や味付けって、どうしても評価が難しくなっちゃいます。
ジルヴァラク様の悔しさが痛いほどわかる私は、厨房で調理に励んできた日々を思い返し、胸がきゅっと締め付けられました。
……クラーケン料理、本当に素晴らしい出来だと思いますよ!
元勇者様の料理スキル、私は本当に尊敬してますからね!!!
私は心の中で精一杯ジルヴァラク様にエールを送りながら、緊張感いっぱいの審査の続きを見守るのでした。




