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ラストダンジョン最寄りの村の定食屋ですが、魔王様が常連客になりました  作者: 松本雀


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定食屋と三つの悪い話(原因:魔王様)

「……というわけで、グリム様、おかわりをどうぞ!」


私はグリム様の空になったお茶碗を受け取り、キッチンに戻って新しく炊き立てのご飯をよそいました。白米はつやつやと輝いていて、我ながら本日も絶好調です。まあ、メンタルの方は先ほどバルゼオン様の『悪い話』予告のせいで微妙に不安定ですが、それはさておき。


グリム様のご飯をよそいながらチラリと視線を送ると、バルゼオン様はなぜか神妙な表情でじっと店内の天井を見つめています。


「あの……バルゼオン様?」


「うむ、メルヴィよ。まず一つ目の悪い話から始めよう」


私は軽く息を飲みました。とうとう来ましたか……悪い話三連発。いや、覚悟はもう決めましたけど。


バルゼオン様は不意に目を閉じ、厳かな声色で語り始めました。


「あれは遠い昔……そう、まだ世界が神々に支配されていた、神代と呼ばれる頃の話だ――」


「三日前ですよね!? なぜまた話を盛ろうとするんですか!!」


私がすかさずツッコむと、バルゼオン様は軽く咳払いして仕切り直します。


「そうとも言うな。三日前、南の魔王ジルヴァラクが主催した魔王会議での出来事だ。饗された会食は、まさに豪華絢爛という言葉そのものだった。見たこともないような食材と芸術品のような飾り付け……だが、その時我には深刻な禁断症状が出ていてな。無意識のうちに『メルヴィの定食が食べたい』と呟いてしまったのだ」


「それ絶対言っちゃダメな状況ですよね!?」


「ジルヴァラクはその一言を聞いた途端、机を激しく叩き『何だと!? オレ様が城をあげて用意したフルコースより、下等な定食が食べたいと言ったのか!? 許さん!!!』と絶叫したのだ」


「いやいやいや! バルゼオン様、それはジルヴァラク様が怒るのも当たり前ですよ! 料理を振る舞ってる本人の前で堂々と別の料理を所望しないでください!」


私が慌ててツッコむと、バルゼオン様は納得がいかない顔で首をかしげました。


「だが実際、お前の定食の方がうまいから仕方あるまい?」


「いや、褒めていただくのは嬉しいですけど、時と場所を考えてくださいよ! それで、結局どうなったんですか?」


「ジルヴァラクが、『ならばその定食とやらを作る者と料理対決だ!』と挑んできた」


「完全に巻き込まれ事故じゃないですか私!!!!」


思わず頭を抱えました。しかもまだ一つ目です。どうしてこの人はこんなにトラブルを呼ぶのが得意なんでしょうか。


そんな私を無視して、バルゼオン様は平然と指を二本目に移しました。


「次は二つ目の悪い話だ。常若の魔王と呼ばれる女性魔王のイルザベラがな、唐突に私に結婚を申し込んできたのだ」


「 結 婚 !? 」


私は動揺のあまりご飯をよそっていた手が止まりました。バルゼオン様は何でもないように続けます。


「そうだ。だが我にはお前がいるからな、『丸――いや、まるで女神のように美しいメルヴィが待っているのだ』と、丁重に断った」


「丸……? 今『丸い』って言いかけませんでしたか!? 私、微妙に傷つきましたよ!!!」


「気のせいだ」


「気のせいじゃないですよ!?」


バルゼオン様は無表情のまま、さらに続けました。


「そうしたらイルザベラが面白がってしまい、『ならばその美しいメルヴィとやらに直接会いに行くわ』と言い放ったのだ」


「えええっ!? なんで私に飛び火してくるんですか!?」


「さあな。彼女はとても好奇心旺盛で嫉妬深い魔王だからな。自分より美しい者を放っておけないのだろう」


「それ、明らかに私が狙われるパターンですよね!?」


私は完全に混乱しながら、グリム様の前にお茶碗を置きました。隣国の魔王様は豪快に茶碗を持つと、美味しそうに食事を再開しました。


「さて、最後の『悪い話』だが――」


「もうこれ以上は聞きたくないんですが!!!」


私の必死な抗議も虚しく、バルゼオン様は静かな笑みを浮かべて話を続けます。


「ダンジョン魔王ラヒラに、お前の店のおにぎりが大変美味な防御結界であると教えたところ、興味を持ってしまってな。近々調査に訪れることになった」


「防御結界!? うちの店のおにぎりは、ごくごく普通のおにぎりなんですけど!? なんでそんな余計な設定を付けちゃったんですか!!!」


「ラヒラはダンジョンを自在に生成する研究熱心な魔王だが、機嫌を損ねるとすぐ異空間送りにする悪癖がある」


「待ってくださいよ! 完全に死亡フラグじゃないですか!」


「気に入ってもらえるといいな」


「絶対気に入ってもらわないといけない状況じゃないですか!!!!」


三つの悪い話を淡々と語り終えたバルゼオン様は、優雅な仕草で湯呑みのお茶を啜りました。


「任せたぞ、メルヴィ」


「任されても困るんですけど!!! どう考えても全部バルゼオン様が悪いですよね!?」


どうしてこの方はいつも私を魔王レベルのトラブルに巻き込むんでしょうか。むしろここまで来ると、もう意図的なんじゃないですか?


バルゼオン様はまるで何も問題などなかったかのように、最後にこう付け加えました。


「安心しろ、我はお前を信じている。料理の腕も、美しさも、十分に魔王を超えているからな」


「それ全然慰めになってませんからー!!」


私はその場にがくりと膝をつきました。


こうして今日も、『ラストダンジョン最寄りの小さな定食屋』は、魔王様の自由すぎる発言によって未曾有の危機にさらされるのでした。

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