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ラストダンジョン最寄りの村の定食屋ですが、魔王様が常連客になりました  作者: 松本雀


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魔王様と隣国の魔王様に、豚肉の生姜焼き定食を

厨房に戻った私は、さっと袖をまくり、豚肉を手早くスライスしました。柔らかなロース肉に丁寧に小麦粉を薄くまぶし、食べた時にふわりと柔らかくなるよう下準備をします。


次に手に取ったのは、瑞々しい生姜。優しく皮を剥いてすりおろすと、ふわっと爽やかな香りが広がり、自然と口元が緩みます。その香りに誘われるように醤油や酒、みりん、砂糖を手早く合わせると、見るからに美味しそうな飴色のタレが出来上がりました。


「じっくりと、でも焦げないように……!」


熱したフライパンに豚肉を滑らせるように入れると、ジュッ!という心地よい音とともに香ばしい匂いが漂い始めます。ほどよく焼き上がった頃を見計らって、準備しておいた生姜ダレを回しかけると、香ばしいタレがフライパンの中でとろりと絡み、厨房は一瞬にして食欲を刺激する甘辛い香りに包まれました。


器に盛りつけるときは、たっぷりの千切りキャベツとくし切りにした真っ赤なトマトを載せて、彩りを鮮やかに。炊き立ての白米はふんわりと山盛り。小鉢には色鮮やかなほうれん草の胡麻和えときんぴらごぼう、しゃきっとした歯ざわりの漬け物も添えて。


「さあ、お待たせいたしました! 豚肉の生姜焼き定食、どうぞお召し上がりください!」


「……これを楽しみにしていたのだ。ふふ、やはり定食屋は良い」


「生姜焼きってのは初めて見るが、なかなか美味そうだな!」


グリム様が大きく頷いて豪快に箸を取ります。バルゼオン様もいそいそと箸を手にすると、一口静かに生姜焼きを口に運びました。


どうですか? どうなんですか?


私はそっとバルゼオン様の表情を伺います。すると赤い瞳がきらりと輝き、ほっと息をつくように頷きました。


「美味い!!!」


よかったぁ!


「まず、口に入れると生姜の爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。その後から、柔らかく焼かれた豚肉の甘みがふわりと広がっていく。甘辛いタレは絶妙な黄金比率だな。だが、何よりこの熱々の白米との相性が秀逸だ。真っ白で甘く炊き上げられた米の粒が、肉の旨味を引き立てる。新鮮な野菜も口をリセットしてくれて、次の一口への期待感を高めるという仕掛けか……まるで精巧に組まれた魔法陣のようだ。大変素晴らしい」


「うむ、美味いな! 生姜の香りと豚肉のジューシーさが実に見事に融合している。飯との相性も良くて、食べるほどに満足感が広がる。まさか定食屋の料理が、この俺の心を動かすとはな……恐れ入ったぞ!」


う、嬉しい!

二人とも、本当にありがとうございます!!


褒められた喜びと共に、私は自然とそわそわし始めました。


なにしろ、バルゼオン様とは三日ぶりの再会。たった三日間とはいえ、私の中ではかなり久しぶりな気分でいっぱいです。魔法冷蔵庫が新しくなったこと、妖精銀のお鍋セットを貰ったこと、商人さんとの珍妙なやり取りなど、お話したいことが山ほどあります。


バルゼオン様、早く聞いてくれないかなぁ……。


そわそわしながらちらちらと視線を送っていると、ふとグリム様がそれを察したのか面白そうに口元を緩めました。


「バルゼオン、ちょうど良い。メルヴィもお前に話があるようだぞ」


「も?」


私が思わず聞き返すと、バルゼオン様はなぜかさっきまでの和やかな表情を急に真顔に変えました。その表情は、まるで世界を終わらせる重大な発表でもするかのような深刻さを帯びています。


「……メルヴィよ、落ち着いて聞いてほしいのだ。我にはお前に伝えなければならないことがある」


えっ……ええっ!?ちょっと待ってくださいよ、急に何ですかその空気は!?


バルゼオン様は指を三本出し、順番に折りながら言いました。


「まず悪い話がある」


えっ、いきなり!?


「それからもっと悪い話もある」


いや……ちょっと待ってください!?


「そして最後に、とどめの悪い話がある」


「ちょっと! 私にとどめをささないでくださいよ!!!」


その場に膝をつきたくなる衝動を必死にこらえます。


「何で全部悪い話なんですかバルゼオン様!! しかも『悪い→もっと悪い→とどめに悪い』って順調に悪化してる!!!!」


私が全力でツッコむと、バルゼオン様は赤い瞳をしょんぼり伏せて肩を落とします。ちょっとちょっと、なんですかその傷ついた子犬のような目は! 悪いのはそっちでしょうが!!


「……怒らないと、約束したではないか」


「怒らないって言いましたけど! 限度ってものがありますからね!!! 」


最初に怒らないって言ったときは、せいぜい悪い話が一つくらいだと思ったんですよ!

三つもフルコースで用意されてるなんて、普通思わないでしょう!?


「と、とにかくですね、バルゼオン様! 一個くらい良い話を混ぜてくださいよ。選択肢全部が絶望的すぎますってば!」


「ふむ、メルヴィよ。お前はどの悪い話から聞きたい?」


バルゼオン様はいつの間にか立ち直って、再び真顔で問いかけてきました。

いやいやいや、立ち直り早すぎますって! こっちはまだ動揺してるんですけど!!


「わかりました……とりあえず、一番悪くない悪い話からお願いしますね?」


するとバルゼオン様は深刻な表情のまま、そっと口を開きました。


「――残念だが、どれも甲乙つけがたいほど悪い話なのだ」


「バルゼオン様っ!!!!」


今日も私は、ラストダンジョンの魔王様に振り回されながら、平和とは程遠い日々を送ることになりそうです。

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