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ラストダンジョン最寄りの村の定食屋ですが、魔王様が常連客になりました  作者: 松本雀


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鮮度命! 呑気な行商人とせっかちな定食屋の、食材確保大作戦

ひんやりとした朝の空気に包まれた村の入口では、夜露が草の上できらりと光り、小さな宝石を散りばめたような美しい輝きを放っています。


朝もやの向こうにうっすらと坂道が浮かび上がる頃、私はすでに村の入り口で仁王立ちをしていました。


寝坊など許されません。だって今日は、生鮮食品を積んだ馬車が脱輪のアクシデントを乗り越えて、ようやく村にやって来る日なのですから。


「メルヴィ、そんなに焦らんでも馬車は逃げんぞう」


隣には、何故かいつも以上に早起きな村長。のんびりとした、いかにもおじいちゃんらしい口調に緊張感が削がれそうになりますが、私は拳を握って再び気合いを入れました。


「村長……今日は特別なんです。鮮度との戦いなんですよ!」


「ふむ、鮮度との戦いとは難儀な話じゃのう。まぁ、メルヴィの言うことはよく分からんが、頑張るのはいいことじゃ!」


にこにこと村長が頷いていると、坂の上からゆっくりとした馬の蹄の音が聞こえてきました。


「あ、商人さんが来ましたよ!」


「……メルヴィさん、いつもより早いねぇ。まだ朝ですよぉ~」


商人さんは、寝起きのような眠たげな目をしながら手綱を握っていました。


少し寝癖のついたふわっとした薄茶色の髪、ゆるりとした目元、どこか眠そうに半開きの口元。彼はいつ見ても、マイペースで呑気な雰囲気をまとった人でした。

けれど、馬車から荷物を降ろす時の手つきは意外なほど慎重かつ丁寧で『あぁ、この人は仕事になるとやっぱり商売人なんだなぁ』と妙に納得してしまうんですよね。


「おはようございます、商人さん! さあ早く食材を見せてください。鮮度が落ちちゃいますからね!!」


「あぁ、鮮度ねぇ……食材は新鮮が一番だよねぇ……。でも僕はちょっと寝不足だから鮮度落ち気味かなぁ……」


いや、商人さんの鮮度はどうでもいいんですってば!


彼がゆっくりと荷台を開けると、色とりどりの野菜や鮮度抜群のお肉、魚が目の前に広がりました。よし、どれもいい食材ですね! 私が思わず目を輝かせると、商人さんは頬を緩ませました。


「……やっぱりメルヴィさんって、食材を見る時が一番目が輝いてるよねぇ~」


そりゃそうですよ、生活がかかってるんですから!

しかも最近は、特別なお客様もいらっしゃるようになったし。


まずは、目に飛び込んできた艶やかな豚肉を手に取ります。脂身と赤身のバランスが実に良く、見るからに柔らかそうですね。


――バルゼオン様とグリム様には、豚の生姜焼き定食が良さそう!


「さ、まずは豚肉からお願いします」


「どうぞメルヴィさん。この子『トントン』っていうんだよぉ……」


「トントン!? 豚肉にあだ名つける必要ありますか!」


「あぁ……でもねぇ、あだ名つけると愛着湧くし、料理の時もテンション上がるでしょう?」


「逆に料理しにくくなるんですけど! 『トントンを包丁で切る』とか怖いことになっちゃいますよ!?」


「そこは『トントン拍子』に料理してほしいなぁ……」


「ダジャレは要りませんからね! とにかく次です、次!」


続いて、私の目は新鮮で霜降りの美しい牛肉に釘付けになりました。


――エヴァンス様とアモルテ様は、すき焼き定食ですね!


「商人さん、この牛肉、なるべく霜降りが多いところでお願いします」


「あぁ、この子……メルヴィさんに買われるって聞いて、モー嬉しいって言ってるよぉ」


「ちょっと! ダジャレが雑ですよ!? 絶対自分が言いたいだけですよね!?!? 」


「いやぁ、本当はステーキな恋をしたかったみたいなんだけどぉ、最後にメルヴィさんに出会えてモー安心だってぇ……」


ステーキな恋ってなんですか!!


商人さん、絶対ダジャレありきで喋ってますよね!

朝から体力を根こそぎ持って行かれるんですけど!!!


「ありがとうございます! 牛肉の気持ちはモー充分受け取りましたから!!」


次の食材に目を移します。新鮮で真っ白なお豆腐が、水の中で涼しげに揺れていました。


――シュトラウス様は湯豆腐定食ですね。


「お豆腐、絹ごしを下さい。崩れやすいので慎重にお願いしますね!」


「あぁ……豆腐って繊細な食材だよねぇ……僕も豆腐みたいにふわっと柔らかな人生を送りたいなぁ……」


「商人さんは今でも十分ふわふわしすぎですよ……これ以上柔らかくなったら、社会生活できませんって!」


「……でもふわっと柔らかければ、世の中のストレスから自由になれるかなぁって思うんだよねぇ……僕、豆腐になりたい……!」


いや待って、豆腐になるって何!?

食材に転職希望って前代未聞すぎますよ!


最後に、新鮮な白菜やネギ、春菊、しいたけなど野菜をたっぷりと選びます。魔王様たちが召し上がる料理ですから、彩りも栄養もバッチリ考えなくちゃ。


「あ、白菜もネギもしいたけも、たっぷりくださいね! 生姜も!!」


抱えきれないほどの食材を両手に抱え、私は満足げに頷きました。村のお客さんや魔王様たちが美味しそうに食べる姿を想像しているだけで、胸が温かくなります。今週の定食屋はきっと賑やかで、私はまた忙しく厨房を駆け回るのでしょう。


そう考えるだけで、忙しいはずなのになぜか心が躍るような気持ちが湧き上がってきます。


すべての食材を選び終えた私は、財布を取り出して商人さんに向き直りました。


「さ、会計をお願いします!」


商人さんは荷台にもたれかかりながら、眠たげにぼそぼそと話し始めました。


「10000ギルの銀貨10枚……でもなんだか眠くて数えるのも面倒なんだよねぇ……9枚……8枚……」


「値切ってないのに値段が下がってる!?」


「……面倒だから好きに持っていって良いよぉ……」


「ちょっと! 商人さん起きて!! もっと自分の商売を大切にして!!!」


「まぁ、細かいことは気にしないのが人生楽しむコツだよぉ……」


いや商売人が細かいこと気にしなかったら誰が気にするんですか!? コツ以前に破産するでしょう、まったくもう……!


結局私は慌てて銀貨10枚を商人さんの手に握らせました。放っておいたら値段がどこまでも下がっていきそうですからね!


大量の食材を腕いっぱいに抱え直し、村の中を足早に歩き始める私の背中に、商人さんの呑気な声が響きました。


「じゃあ、また来るねぇ、メルヴィさん……」


「はいはい、また待ってますからね!」


本当に、この商人さんには毎回振り回されっぱなしです。でもまあ、これも私の日常ってやつなんでしょうね。


とりあえず今週の定食はバッチリ準備できそうです! 魔王様たちが喜んでくれるといいんですけどねぇ。


「さて、次はフライパンを買いに行かなきゃ!」


そんなことを考えながら、私は朝の気持ちいい空気の中、小走りで定食屋へと戻ったのでした。

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