魔王様達に豚汁定食を、そして定食屋の店主はピーマンで逆襲する
私は今、二人の魔王様を目の前にしながら、豚汁定食を出しています。
……うん、冷静に考えておかしいですね。
うちはごく普通の定食屋です。
よく煮えた根菜と豚肉、だしの効いた豚汁。炊きたてのご飯に漬物、小鉢も添えて、いつも通りの献立。
それを目の前で食べているのが、ラストダンジョンの魔王バルゼオン様と、青白い顔でご飯をつつく北の魔王シュトラウス様という、魔族の頂点コンビなのですから。
あまりにも状況が非日常すぎて、私の脳が日常認定して処理し始めた気がします。いや、慣れって怖い。
「ふむ。この豚汁、まず出汁の深みが素晴らしい。味噌のまろやかな香りが口いっぱいに広がり、根菜の甘みが後を追うようにやってくる。豚肉もまた見事だ。柔らかく、しかし肉の旨味を失わぬ絶妙な火の通し方。これが豚汁という料理の完成形なのだろう。……敬意を表するぞ」
いや、どれだけ真剣な表情で豚汁を語ってるんですか!?
バルゼオン様は満足げに豚汁を啜り、ご飯をぱくぱくと口に運びます。
「……すごく、やさしい味です。豚汁が身体に染み込んでいくみたいで……。食べると、ほっとします。ご飯も……うん、やわらかい……」
シュトラウス様はか細い声で言いながら、ゆっくりと、ほんとにゆっくりと、ご飯を少しだけ食べては箸を止めています。……って、それほとんど減ってないじゃないですか!
――これは……もしや、食べきれないのでは!?
私は思わずシュトラウス様の器を覗き込みました。確かに、豚汁は多少減っているものの、ご飯は半分以上残っています。
これは……どうしたものでしょう。
魔王様がこんなに小食で大丈夫なんでしょうか?
案の定、バルゼオン様が横目でちらりと見て言いました。
「シュトラウス、もう少し食べろ。しっかり食べて、メルヴィのように丸くてころころと、愛嬌のある姿になれ」
「ちょっと!! バルゼオン様!!! 今、私を丸くてころころって言いましたよね!? 愛嬌って言えば許されるわけじゃないですからね!!!!」
「褒めているつもりだったが、不服なのか?」
「はい、不服です!!! そんなことを言うのでしたら、明日の定食はピーマン尽くしにします!!!」
その瞬間、バルゼオン様の箸がピタリと止まりました。
「ま、待て! なぜ急にピーマンが出てくる!? 我はそんな話はしていないぞ??」
「いいえ、これは褒め言葉に対する感謝ですよ!!! 以前残されていましたね? 今度は炒め物に肉詰め、メニュー全部にたっぷりピーマンを入れて差し上げます!!!!」
「いや、だからなぜピーマンの話になるのだ!? 今の発言は取り消す、許せ!」
あの魔王バルゼオン様が、こんなにも慌てる姿を見られる日が来るとは……!
その横でシュトラウス様が弱々しく微笑みました。
「……メルヴィさん、強いですね……」
「いえ、ピーマンの力です」
ピーマン、最強。
そんなやりとりをしながら、私はシュトラウス様の残ったご飯を優しくおにぎりにしました。ふっくら炊いたご飯を手のひらでそっと丸めて、ちいさな梅干しと海苔で包んだものです。
「無理せず、後でゆっくり召し上がってくださいね」
「……はい、ありがとうございます……」
穏やかな笑顔でおにぎりを受け取るシュトラウス様。
そして、冷静さを取り戻したバルゼオン様が静かに言いました。
「次に来るときは……ピーマン以外で頼む」
私は笑顔でしっかり頷きました。
「はい、善処します!」
バルゼオン様が微妙な表情で私を見ていましたが、まあ気にしないことにしましょう。
今日も定食屋は、平和なようなそうでもないような一日が過ぎていきます。
――うん、平和って何でしょうね?




