定食屋の店主、クッキーの形に意義あり
――こんなに喜ばれるなら、もうちょっと可愛い形にしても良かったかな。丸だけじゃなくて、星とか、花とか……せめて一つくらいハートとか。
そんな風に、内心ひっそり反省する私をよそ目に、バルゼオン様はいそいそと箱を開き、中からクッキーを取り出しました。その表情はどこか誇らしげで、まるでダンジョンで伝説の宝物を見つけた冒険者のような表情でした。
「見るがいい、アモルテ。我のクッキーもハート形だ」
「えっ!?」
私は思わずバルゼオン様の手元を覗き込みましたが、そこにあるのは、どう見ても普通の丸いクッキーでした。
どこが!? どの部分がハート型???
完全なる円!
真ん丸!!
転がったらコロコロと転がるフォルム!!!
どこからどう見ても、これは丸ですよ!!!!
「……バルゼオン、これは確かにハート形だね!」
隣のアモルテ様まで、にこやかに同意しています。
「ちょっと待ってください!? どうして丸がハートになるんですか! もう一度よく見て下さい!!!」
私は必死に主張しましたが、バルゼオン様はまるで気にせず、じっとクッキーを眺めながら、しみじみと頷きました。
「角度によっては、丸にも見えるな」
「角度を変えても丸ですよ!!!!」
むしろ、どこをどう見たらハートに見えるんですか!
「メルヴィちゃん、愛がこもったものは、自然とハート形になるんだよ……!」
「なりません!!!!」
何ですかその強引な理屈は!?
とんでもない誤解を招くと思ったから、慎重に丸型を選んだのに。
……あっ。
ここで私はふと思い出しました。
確か、前にミックスフライ定食で、アモルテ様に愛情とハートを求められたとき……
『エビフライは尻尾が。アジフライは開いた形が。そして、コロッケは――丸い形がハートに見えなくも……?』
なんて言ってしまった記憶がある……!
あの時バルゼオン様は、神妙な顔をしつつも、「ふむ……確かに」とか呟いていた。
まさか……まさか、あの一言が原因!?!?
「前にメルヴィが言っていた」
「いやいやいや、確かに言いましたけど!!!」
「ならば、これはハート形だ」
「理論がめちゃくちゃです!!!!」
何ですか、その無理矢理なこじつけは!?
「バルゼオン、クッキーがハート型ということは……メルヴィちゃんは君に愛をこめて作ったということだねぇ」
「ふむ……」
「待ってください!!!!」
どこまで話が暴走するんですか!?
勝手に愛の証明みたいにしないでくださいよ!!!!
「クッキーはハート形だった。よって、これは愛」
「……愛」
「違います!!!!」
「違わないねぇ」
もう嫌だ……この魔王様たち、どうにかして……!
私が過去の自分を呪う間にも、バルゼオン様は満足げにクッキーをじっと見つめ、アモルテ様はうっとりと微笑んでいます。
もう何を言っても無駄な気がする。
「メルヴィ、今後もハート形のクッキーを頼む」
「頼まれません!!!!」
私は両手で顔を覆いながら、全力で心に誓いました。
――次からは、絶対に、曖昧なことは言わない。
絶対にです!!!!




