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ラストダンジョン最寄りの村の定食屋ですが、魔王様が常連客になりました  作者: 松本雀


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魔王様、クッキーに期待する

そわそわ。

そわそわ。


目の前に、信じられないほど落ち着きのない魔王様がいます。


いつもなら、堂々としていて威厳に満ちているというのに、今日はなぜか挙動不審。定食を食べ終え、お茶を静かに飲みながらも、チラチラと私とアモルテ様を交互に見ています。


何でしょう、あの妙に期待に満ちた視線は。

まるで何かを待っているような……?


アモルテ様はというと、そんな魔王様にはお構いなしに、呑気な笑顔でお茶をすすっていました。


「……そういえばさぁ、昨日も言ったけど、僕、ラブリアスからクッキーをもらったんだよねぇ~」


――ピクリ。


バルゼオン様の肩がわずかに動きました。


「可愛くラッピングされてたし、とっても美味しかったし、ハート型で、すっごく愛が詰まってる感じだったよぉ。……確か、メルヴィちゃんと一緒に作ったって言ってたなぁ~~」


アモルテ様が、わざとらしく満面の笑みを浮かべながら語るたびに、バルゼオン様の目線が忙しなく泳ぎます。


「……」


私は、 その反応を見て全てを察しました。


つまり――。


『ラブリアスさんがアモルテ様にクッキーを贈った』

 ↓

『ならば、一緒に作った私は当然バルゼオン様にクッキーを贈るはず』

 ↓

『なのに、いつまで経っても出てこない』

 ↓

『……まさか、忘れている? いやいや、そんなはずは……』

 ↓

『まだか? まだか? まだなのか……!?』


という思考の流れである。


――魔王様、まさかの「待ち」の姿勢。


いや、言ってくださいよ!?!?


そんなにそわそわしているくらいなら、「我にクッキーはないのか?」って、自分で聞けばいいじゃないですか!!!


何を期待して待っているんですか!!??


「あの、バルゼオン様」


「ふむ?」


魔王様が、弾かれたように私の方へ視線を向けました。


「……先日いただいたお花のお礼に、クッキーを焼いてみました。良かったらお受け取りください」


私は棚の奥に隠していた箱を取り出し、そのまま静かにバルゼオン様の前へ置きました。


ぱちり。


バルゼオン様の瞳が見開かれました。


「……」


数秒の間、魔王様はじっと箱を見つめ、無言のまま手に取りました。

指先が、わずかに震えている気がするのは気のせいでしょうか。封を開けることなく、バルゼオン様はそれをしっかりと握りしめ――


「……ふふ、待っていた甲斐があったな」


満面の笑みになりました。


「……!!」


えっ、そんなに嬉しかったんですか?

これって私が想像してたよりもずっと重大なイベントだった……???


普段、魔王としての威厳に満ち溢れているバルゼオン様が、最高に機嫌が良さそうなのですが。


「バルゼオンってさぁ、顔に出るタイプだったんだねぇ~~~」


「黙れ」


アモルテ様が楽しそうに茶々を入れると、バルゼオン様は軽く睨み返しました。


嬉しそうに箱を撫でている魔王様を見て、私は心の中で思わず叫びました。


えっ、えっ、お礼のクッキーでこの笑顔!?

いや、可愛いからいいんですけど!!!!


「これは、ゆっくりと味わわせてもらうとしよう」


「……はい、ぜひ」


何だか、こちらまで照れくさくなってしまいます。


アモルテ様はニヤニヤと私とバルゼオン様を交互に見ていましたが、やがて満足げに頷きました。


「いやぁ、いいもの見させてもらったよぉ~。定食屋メルヴィ、愛の定食だけじゃなくて、恋のクッキーも絶品だねぇ~♡」


「私の定食とクッキーに、妙なキャッチフレーズをつけないでください!!!」


そんなツッコミもなんのその。アモルテ様は「ふふふ」と笑って湯呑みを傾けています。


そして、バルゼオン様もいつもの威厳を取り戻したようで、落ち着いた顔でお茶を飲み干しました。


――ただ、時折ちらりと手元の箱を確認して、微かに口角を上げる仕草は隠せていませんでしたが。


やっぱり魔王様、意外と顔に出るタイプでした。

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