そわそわする魔王様と、妙に静かな西の魔王様に餃子定食を
餃子の餡を皮で包んでいると、何だか心が落ち着きます。
生地の縁に水をつけ、餡をそっと乗せて、指先でふちを折り込んで……ひだを寄せるたびに、何だか気持ちまで整っていく気がするから不思議です。
包んでは並べ、包んでは並べ。トレイの上に次々と餃子の小さな三日月ができていきます。
「……よし、30個目」
熱したフライパンに油を引き、餃子を静かに並べると、香ばしい匂いがふわりと広がり食欲を誘います。
焦げ目が付いたらそこに水を少々注ぎ、素早く蓋を閉めて、ジュワッ……!と蒸し焼きにします。程なくして湯気の隙間から覗く餃子は、ツヤツヤと輝いています。
黄金色に焼き上がった餃子を皿に盛り付けて、横には白い湯気を立てるご飯と、 わかめと豆腐の味噌汁。小鉢には、さっぱりとしたきゅうりの胡麻和え。さらに漬物を添えて……うん、今日も完璧!
「お待たせしました。餃子定食です」
お盆をカウンターに置くと、バルゼオン様が静かに箸を取り、餃子をひとつ酢醤油に付けて口に運びました。
「……美味い!!!」
うん、よかった。
餃子はやっぱり焼きたてが一番。
「…………もぐもぐ」
あれ? 何だか妙ですね。
いつもなら――
『……噛みしめた瞬間、立ちのぼる香りがまず旨い。中の具材はジューシーで、豚肉と野菜の旨みが巧みに凝縮されている。皮は薄くとも力強く、焦げ目の香ばしさが余韻として残り、一口、また一口と手が止まらない……この餃子、あまりに静かに、だが確実に、我に爪痕を残してくる』
このような魔王様のありがたい食レポが始まるのですが、今日は静かに食事をしています。
いや、こちらが普通なのですが……。
私、何かやらかしてしまったのでしょうか?
隣に座るアモルテ様も、今日は何だか違和感があります。
普段なら 「愛の魔王である僕のために、真心と愛のこもった味付けにしてね、メルヴィちゃん!」 とか言い出すのに、妙に静かだったし。
「美味しいねぇ」
それだけ言って、 静かにもぐもぐと咀嚼しています。
……ちょっと待ってください?
あのアモルテ様が普通に食事している???
えっ、怖い。めちゃくちゃ普通に食事してるのが、逆に怖い!!!!
『あぁ、なんて情熱的なんだろう……口に入れた途端に、パリッと焼けた皮が軽やかなダンスを始めたよ!さらに噛んだ瞬間、中からジュワッと熱々の肉汁が溢れ出して、僕の心を熱烈に包み込んでくれる!……餃子って恋に似ているね。噛めば噛むほど、口の中で愛が深まっていく気がするよ~♡』
以前だったら、こんな感じで愛に絡めた不思議な食レポをしていたのに……!
いや、これは絶対におかしい。
バルゼオン様を見ると、箸を持ったまま妙にそわそわしています。
ちらりと私を見たと思ったら、次にアモルテ様を見る。またすぐ私を見て、またアモルテ様を見る。交互に視線を送ってくる。
……なんでしょうか、この挙動不審な魔王様は。
とりあえず、何か飲み物でもあれば落ち着いていただけるかと思い、いつものマイ湯呑みにお茶を注ぎました。
「どうぞ、お茶です」
「ふむ……ああ、すまない」
バルゼオン様は無言でそれを受け取り、お茶を一口。そしてまた視線を左右に彷徨わせます。
アモルテ様も、黙ったままお茶をすすっています。
この静けさ……不気味すぎる!!!
――餃子は確かに美味しく焼けたのに。
私の仕事は完璧なはずです。
なのに、胃の奥がざわざわして仕方ない。
間違いありません。
これは確実に、今日これから何かとんでもないことが起きる前兆です。今日は絶対、何かある……!
「……覚悟を決めましょう」
私は、お茶を啜る二人の魔王様を見つめながら そう決意するのでした。




