10話・聖女に独り言を聞かれた!?
『グレーターデーモン』を討伐してギルスが戻った時、勇者パーティー全員が何か通じ合っているかのような動作をしていた。目配せをしたり、何となくギルスを見たり。
「何やってんだよ、目的地まであと2分だ。早く行こう。異常があるかもしれない場所だ。すぐに行っておかないと。」
「分かりました。あ、それとお帰りなさい。」
「よく戻ってきてくれた。さて、目的地へ行ってすぐに調査をするぞ。」
「ギルスさんってすごいね!魔法を使うのも一流、剣術………いや、鎌術?を使いこなして。ほんと、私いるのかな?」
「ただいま、とりあえずすぐに目的地へ。さて、また来たらすぐに木っ端微塵にしてやろう。」
「もう少し穏便にな!」
「(酷い…。私の言葉は全スルー。)」
「………行こうか?」
レッズがギルスに対して初めて話した。それが『行こうか』だったため僅かにつんのめるギルス。
「レッズ、話せたのか。」
「ああ…。突っ込み様が無くて話せなかった。」
「あんた、生真面目なタンクという印象からダジャレ爺さんに格下げされたんだが、僕の中で。」
「悪かった、だからその『ダジャレ爺さん』はやめろ。」
「………了解しました。………適当に『親父ギャグ大英雄』と呼称することにします。」
「………やめてくれ?俺のことなんだと思ってやがる。いい加減にシロップ漬け………あ。」
「………『ダジャレ大魔王』に格下げだな。」
結局この他愛もない話は5分ほどで終わった。
「さて、目的地に着いたわけだが、フィーラ、魔力感知は使えるジョブか?」
「うん。一応。」
「だったらこれと同じような反応の魔力はあるか確認してみろ。」
そう言って出したのはいつか倒した『グレーターデーモン』の角である。
「この角に含まれている魔力の残骸は魔族特有のものだ。故に反応があれば魔族が来たかを確認できるはずだ。」
「なんでわかるの?」
「そもそもこの世界だけの可能性はあるが魔力は人の体を動かすのにも使われる。食事をするのは魔力とエネルギー、つまり肉体のことだな。それらを得るためなんだ。動物が動くたびに魔力が消費され、放出される。故に疲労は起きる。それは魔族も同じ。残骸に含まれている魔力『ガキンッ!ブスッ!ズドドドドド!』は動くたびに漏れ出す。………コイツみたいにね?」
ギルスは話し中に『レッサーデーモン』を羽ペンで滅多刺しにして倒していた。それを見た勇者パーティー全員が何かを恐れる目をしていたため、ギルスは少し焦った。まあいい、そう考え、そのまま話を続行………しようとは思ったものの話すことが概ね終わっていたためここで終わらせることにした。
「あ、暗くなってきたな。近くに崖があるんだが、あそこ周辺には魔物が嫌う『ヒレイネ』という花があるんだ。そこで野宿をしよう。【テレポート】は使用不可エリアに入ってるから使えない。」
「使用不可エリアってなんだ?」
「何らかの要因で一定の魔法が使えなくなるって言う場所のことだ。ちなみに転移魔法のみだから結界などを張っておくなどもできる。ちなみに、『ヒレイネ』の花のにおいを好む魔物は存在しないし、魔物からしたら、レベル1000あっても逃げ出すレベルの悪臭らしい。人にとっては安らぎを与えてくれる爽やかな匂いなんだ。まあ、行ってみよう。」
『死の森』は、実は転移魔法使用不可エリアなのだ。いや、10ⅿ程度ならできるが実際燃費が悪いこともあり誰も使うことが無い。
「そうだ、ちょっとばかし猪とか狩ってくる。流石に食事なしは厳しいからな。」
「ありがたい。俺は鍋。」
「私は…その、しゃぶしゃぶで…。」
「私も鍋!」
「俺は焼く。」
クレイスとフィーラが鍋、リーンがしゃぶしゃぶ、レッズは焼いて食べることになった。ギルスは目星をつけておいた個体を速やかに回収し、すぐに解体を始めた。内臓などは食べても問題はないらしいが、腹を壊して戦闘不能というのは何とも情けない。故に全て捨てることにした。
「鍋はえっと、【メイキング】、【ファイア】、で、オッケーっと。水は【ウォーター】で作って…。これで後は…東方では出汁を使うが無いから時間保存してあった鳥の骨で出汁を取って…。まあ、これでいいか。後は煮立たせて…。………準備できた。一応鍋は2つ作ったから鍋としゃぶしゃぶでやっておいてくれ。それとレッズ、猪の肉には臭みがあるから焼いても辛いが、大丈夫か?」
「何度も食った。久しぶりにあの臭いを嗅ぎたくなった感じだ。」
「なるほどな。取り敢えず適当に薬味を使って焼いておくから適当に食っておいてくれ。」
石を斬り、そのまま石焼にした。一人焼肉は辛いかもな、とギルスは思ったが、一人がよさそうだったためギルスも一人で食べることにした。因みにギルスは胡椒をかけて焼いただけの簡単なものだった。新鮮で生でも食べられそうなものだったが、手を加えて食べて正解だったと思うギルスであった。
ギルスは目を覚ました。とは言っても、日本で言うと深夜の3時に当たる時間でほとんどすべての人間が眠っている時間だ。魔物でも、夜行性のものは『ブラッドバット』や『シャドウリザード』ほどしか確認されていない。ゴブリンが夜襲をかけてくることはあっても、やはり昼に比べて僅かに指揮は低下する。
張っていたテントを抜け出し、独り崖へ向かった。
一歩一歩歩くごとに僅かに心が晴れてくる。『いつもの』ミラとの会話を楽しむからだ。とは言っても、実際は一人で一方的に話しかけるだけなのだが。
今まで自殺に至らなかったのも、この時間があったからだ。実際、ミラが魔物として出てきたら隠れて『テイミング』してレベルを上げて進化させて元に戻そうとするのだが、流石にそれをすれば『復讐』ができなくなってしまうということに気付いた上にそんなことはあり得ないとすぐに割り切った。
5分ほど歩き、崖まで来た。青々とした木々に草原のようになった地面。ギルスはその草の上に座り、ゆっくりと話し始めた。
「ミラ、お兄ちゃんはダメだな。また怒っちゃったよ。ほんと、情けないよな。いつも誰かに助けてもらってるって言うのにさ。お前が死んでから、人を信じられなくなっちゃってよ。とは言っても、悪いことばかりじゃないんだ。勇者様のパーティーに入ったんだ。ミラ、勇者様に憧れてたろ?『勇者様のお嫁さんになりたい!』とか言ってたね。彼はとてもいい人なんだ。多少傲慢なところはあるけど、実はとても仲間思いで、まあ、聖女様の言いなりになっている感じもするけど、そのやり取りも楽しくて………。まあ、正直ミラのタイプの人じゃないかもね。ハハハ。」
ギルスはそこで話を止めた。話す内容に困ったわけではない。ただ、誰かに尾行されていることに気付いたからだ。そして、その犯人は見なくてもわかった。
「なんだ、リーン。君来てたんだ。まあ、話ならいくらでも聞くよ。取り敢えず座りなよ。椅子とかないから草の上に直に座ることになるけど。」
「は、はい……。」
ギルスとしては話を止めることになってしまったため少し不機嫌にはなったが、パーティーメンバーとの話も大切だと思い、話し中にごめん、とミラに心の中で謝った。
そして、リーンと何気に二人で話すことが初めてだと気付きギルスは僅かに緊張したが、それよりも『何故来たか』という疑問と好きに話せなかった悲しみのせいで消え入るような声でリーンに話しかけた。
「………みは………。」
「?」
「君は、何故ここまでついてきたの?」
リーンは先ほど話していた時とは全く声のトーンが違う上に本気で悲しんでいることを察して少し心を痛めたが、付いて来た目的を伝えるためにも、その心情を無視した。
「実は、ギルスさんと私たちってどこかに壁があるような感じがしていたんです。それも、ギルスさんのことを何も知らないという事が関係していると思い、いつかお聞きしたいと思っていたんです。ギルスさんの『過去』の話を。」
ギルスはあまり話していなかったうえに、心を抉られるような苦しみの元凶となる出来事について鮮明に思い出した。鮮明過ぎて胃から何かが出そうになったが、それを飲み込むとすぐに返事をした。
「はぁ、まあ、いつかは話さないといけないと思ってたし、別に話してもいいよ。でも、これについては他言無用。誰にも話さないようにお願いしたいんだ。」
「分かりました。」
「とは言っても、気分が悪くなるようなこともあるかもしれないから、やめてほしかったらすぐに言ってほしい。」
「……はい。」
ギルスは『あの日』のことを鮮明に思い出した。
「まずは僕が四歳くらいの頃に遡る。僕の家は四人家族で、僕には一個下の妹がいたんだ。名前をミラって言うんだけどね。そのミラが病気になっちゃったんだ。原因不明の、不治の病に。当時僕は幼かったけど、ミラが苦しんでいるのを見ていられなくて、街で働くことにしていたんだ。初めは掃除だの死体処理だのをやらされていたんだけど、それでも僕はめげずにやっていたんだ。働き始めて2年くらい経った頃、とある貴族が全ての病を治すことができるって言う薬を手に入れたって言う話を聞いてね。それを貰いたくて貴族の家に押しかけて自分を雇ってほしいといったんだ。その時にはすでに両親は死んでたから僕しか働き手がいなくてね。生活費込みで稼ぐためにはそうするしかなかったんだ。」
そこで少しギルスは息継ぎをした。一気に話過ぎたと少し反省しながらも話を続ける。
「その貴族は薬を渡してくれることにはなったけど条件があったんだ。それが、『金100㎏』を取ってこいというものだったんだ。始めは無理だと思ったけど、ある程度目は良かったから金を意外と集められたんだ。でも、100㎏には程遠かった。しかも、そのわずか一ヶ月後、本当に金100㎏持ってった人がいて、薬を持ってっちゃったんだ。これでミラの病気を治す薬が無いとあきらめた。でも、それだけでは終われない。だからせめて、その病気を楽にしたかったからこんなブレスレットを買ったんだ。」
ギルスはローブからペンダントを取り出した。
「ミスリルペンダント。これを手に入れるにはそれから4年もかかってね。『祝福の儀』も終わってて色々できるようになったんだ。その一つが【エンチャント】。僕のジョブは特殊で、たくさんのジョブの力を使えるんだ。『ジョブ自由変更』、それが僕の祝福。性別限定ジョブ以外にはなれるんだ。本当に、これは反則だと思ったよ。………で、その力を得た僕がやったのは当時少なかった魔力を極限まで込めて『病魔耐性EX』を付けてミラに渡した。ミラはとても喜んでくれた。」
ギルスはとてもその話を楽しそうにしていた。リーンは時々その顔に見惚れていたが、すぐに顔を戻した。
しかし、その顔はすぐに悪魔のような残酷さを秘めた。目は悲しみで染まり、とても見ていられないような顔になった。
「でも、それからたった2年。僕は夕食用に動物を狩っていたんだ。その時空が真っ赤に染まって村からは悲鳴が上がった。急いで村に戻るとそこは地獄だった。僕と同い年の友人がみんな死んでたんだ。一緒に狩りに行ったアレフ以外。そして、『グレーターデーモン』が、ミラを………………目の前で、喰ったんだ。」
あの時に悲しみは忘れない。ギルスはずっと悔やみ続けた。何であの時、ミラを救えなかったのかと。でも、話はそこで終わらない。
「あの後、僕はどこか壊れちゃってね。泣きたいくらい悲しくて、死にたいくらい苦しくて、でも何もできなくて。泣けなくなってたんだ。泣くってことを忘れちゃったのかもしれない。どうしようもないよね。ハハハ…。」
渇いた笑いを浮かべ、心にぽっかりと穴が開いたことを伝えるギルス。
「それで壊れた僕は『グレーターデーモン』に復讐すべく冒険者になった。盗賊に化けた魔物を一掃して、ヴァイパードッグを引きずりながら街を歩き回って。この後のことはギルドマスターのヴェードリッヒさんに聞けばわかるよ。実際、『農民』でも、固有能力持ちって感じで登録した僕はすぐに有名になった。良くも悪くも。結局、登録してからAランク冒険者にスカウトされたんだけど、そこで報酬持ち逃げされた上に色々と面倒なことになっちゃってね。一年くらい遭難してた。『死の森往復事件』って言う感じになってるのかな?その正体は僕で、結局森を4,5回往復してギルドに戻ってみたら僕は死んだって言う噂が流れてて説得が大変だったよ。まあ、そっからは特に何もなくいきなり勇者パーティーに入れって言われて今に至るって感じだね。結構長々と話してごめん。」
「あ、いえ、大丈夫です。それに、大丈夫ですか?顔が真っ青ですよ。」
「えっ?あ、これはいつも通りだから気にしないで。」
少し顔が赤く染まっているリーンにギルスは心配されて僅かに驚く。顔についてはいつも通りだと思っていたためか、青くなっていると言われて少し凹んだ。
「はあ、これで僕が前にあったことは全部話したってことになるけど。他には何かある?」
「え、いや、別に他には…。」
「そう言えば、前から思ってたんだけど君、ミラに似てるんだよね。あ、ちょっと待ってて。」
ギルスはリーンにペンダントを付けた。
「え?ちょっと!」
「ハハハ、ミラの時と同じ反応してる。何というか、久しぶりにミラと話しているみたいだ。」
ギルスは満面の笑みを浮かべてリーンを見る。リーンはそんなギルスを見て何かがドクッ!ドクッ!と大きく動いている感覚を覚えた。ドキドキという感覚でもある。
実はリーン、本当は始めからギルスに一目惚れしていた。しかし、ギルスの奇行によってそれをしばらく忘れていたのだ。
顔を赤くして、少しの間顔を下に向け、ギルスから目をそらした。
ギルスはそんなリーンを見ながら、照れているミラを思い出した。でも、その思い出とリンクしていなくともリーンが魅力的な異性だと言う認識を示した。
ギルスには恋愛感情が欠如している。故に異性に関しての感情は全て違和感としか感じる事ができなかった。だが、他人からの行為に対しては鈍感ではあるもののある程度は気付けるようにはなっている。
「さて、明日も早い。早く寝ないと隈ができるよ。あと、昔母さんが言ってたんだけど、寝不足は肌の天敵、だってさ。まあ、こんな時間になったのは僕のせいでもあるけど。早く寝なよ。」
「…少し。」
「えっ?」
「もう少しだけ、そばに居させてください。」
リーンはか細い声を出してギルスを引き留めた。
「分かったよ。」
(リーンって、何で僕なんかと一緒に居たがるんだ?勇者の方が美形だろ。僕よりあっちの方と居たがるだろ普通。いや、あの表情を見るに…いや、そんなことはないはずだ。何かしら変化があったら一度突き放すことを言ってみるか。)
「ギルス君には、夢はありますか?」
「夢………………か………。まあ、僕は温かい家庭を築ければそれだけで満足だよ。幸せな家族でありたい。あの時の僕が感じていた幸せ、それを再び感じる事ができれば………………。なんてね?温かい家庭と温かいご飯!それさえあれば文句なし!君は?」
「私は素敵な男性と出会えることですね。聖女でも、一応は女の子なんですよ?少しくらい理想を持っても良いじゃないですか!」
「なるほど…。(あれ?何で僕を凝視しながら言ってるんだ?なんかマジ怖いんですけど。)」
ギルスは予定通りにすることにした。
「リーン、確かに僕は、君はとってもいい人と会えると思う。」
「はい!」
「……僕以外の、ね。」
「えっ?」
リーンの目が一気に開く。
「君はちょっと分かりやす過ぎるよ。ちょっと鈍感な僕でも気付けるくらいに。違ったら普通に謝るけどさ。僕と居てもただ悲しいことが繰り返されるだけ。ある意味疫病神だし、僕。だから、………………」
『僕のことは諦めて』と言おうとしたとき、リーンは叫んだ。
「諦められますか!!好きな人がいるのに諦めますか!たった一人の、世界でたった一人の好きな人が、目の前にいるんですよ!?それなのに諦められますか!」
「僕は怖いんだ。大切な人ができたら、いつか会えなくなる日が来る。そうなったら、僕は………。」
(結局、いつも僕は逃げてばかりだ。女性一人の願いを聞き入れる事ができないなんて。)
「ギルスさん!私は、あなたが好きです!」
リーンから『逃げること』へのトドメの言葉が発せられた。
(怖い、失ったら、また一人になっちゃう。僕は一人になりたくない。でも、仲間が、友達が、恋人となった人が死んだら、分かれたら………。僕は、俺は何もできないじゃねぇか!俺はリーンが好きだ!それでいいだろ!何でそんなことすら言えねぇんだよこのヘタレが!って、自分を怒っても何も出ねぇんだよな。リーンは僕を想って言っているんだ。それにきちんと答えるのが筋ってものだという事はわかっている。でも、安直な気持ちで決めても取り返しのつかないことになるだけだ。『未来』………。『夢』………。そうか、何で僕は『過去』に囚われていたんだよ。もう過去は変えられない。でも、………。)
ギルスは悩みに悩んだ。思考を加速までさせたのに結局、その返答をするのに30秒もかかってしまった。
「ありがとう。じゃあ………全ての戦いが終わった後の幸せな世界で、結婚しよう。あと、1………いや、2年でそれを成し遂げないとね。」
「はい、旦那様!」
(旦那様って…。まだ付き合ってすらいないじゃん。気が早すぎるよ、リーン。)
「まだ、旦那様はやめて。何というか、気が早すぎるよ、リーン。」
「フフッ、じゃあ、何て呼びます?」
「僕は『リーンさん』って呼ぶから『ギルス君』とでも呼んでほしいかな。」
「分かりました、ギルス君。」
(じゃあ、帰ろうか。)
ギルスが微笑むと、リーンは輝いて見える笑みを浮かべてその左手を取った。




