9話・通常運転………?
勇者はギルスを仲間に加えた!
誰でもそう見えるだろう。しかし、実際はギルスの方が勇者、もといクレイスよりも強く、入ってもらっているという状況なのだが、それを知るのはごくわずかだ。また町では勇者パーティーの男性陣の中で誰が一番の好みかという言い争いが起きていた。
「無口でぶっきらぼうな態度だけど仲間を絶対に守るって言うレッズさんが一番よ!」
「何言ってんの?やっぱりクレイス様でしょ!あの美しい碧眼に太陽のように輝く金髪!首位独占は絶対!」
「いやいや、僕はギルス様だと思うよ。硬くて何を考えているか分からないあの表情はともかく!仲間を守るレッズさんに聖女様の援護、賢者様の魔法を魔道具で支援して自らは一騎当千の活躍!まさに英雄!さらにはどんな人でもいいところを見つける、人を見る目がとてもあるのよ!ギルス様は僕に『貴女は人を思いやる心がある。その内たくさんの人が貴女を必要とする時が来る。まずは皆さんの相談に乗ってあげてみてください。いいことがあると思いますよ。』って言ったんだ。実際にお客さんの相談を聞いてみると、息子さんがどうとか、恋の相談とか多くて大変だったんだけど、出来るだけ答えていたらなんと、僕がやっている花屋の売り上げが伸びて、しかもここで売っている花がここ周辺の固有種だった上に品質がいいって言われてこの街で今、特産品としてあちこちで売れるようになったんだ!」
「…なんかとても長い話だったわね。でも、それが本当なら、商売の神様が人に化けているかもしれないわよね。」
「まさか、私は知ってる。彼は『死神』。生と死の世界を分け隔てる者なのよ。」
「「マジ!?」」
「正確にはジョブだけどね。」
「なーんだ。でも、確かにどこか恨みとか持ってそうだよね。触れてはいけない何か、みたいな?」
「あ、ありそうありそう!でも、本人に確認はしないでね?気を悪くされたくないから。」
…
………
…………
と、殆どその日はエンドレスになるらしい。因みにギルスが言った言葉は適当に言ったわけではなくて今まで何度も店の前を通り感じたことを言ったのだ。でも、それが彼女の幸福を呼んでくれたのはありがたいと心の中で『神様』という不確定要素に礼を言っていた。というより、実際に『祝福の儀』の時に神様に実際にあってはいるから実質不確定要素とは言えないのだが。
「勇者、お前はいつもこうやって女性から声をかけられているのか?」
ギルスは唐突にクレイスにそう質問する。
「そうだが。俺がモテることへの逆恨みか?」
「何故そうなる。正直に言って恋愛感情だったり幸福だったりは感じないからな。正直湧くのは奴らへの恨みと呪いだけだな。」
「そ、そうなるよな………。まあ、そんなのはいい。とにかく『死の森』に行くぞ。」
「了解した。『グレーターデーモン』が視界に入ったらすぐに殺しておく。やつだけは見つけたら殺す。手足バッサリ斬り落として『浄化』しきって塵も残さず消してやる…!」
ギルスは相変わらず通常運転だ。『グレーターデーモン』への恨みを重ね過ぎた結果、ミラと会えないという悲しみと相まってある種の精神崩壊を引き起こしているのだ。
「まあ、非常にご立腹なのはわかるが………。さすがに町中で怒るのはやめてくれ。」
「それは分かったが………。誰のせいだ、誰の?」
「俺ですマジで申し訳ございませんでした!」
「なら、宜しい。さあ、駆逐を始めるか?」
「分かりました。………遭遇したら、ですよ?」
「分かってる。」
すでに勇者とギルスの立場はギルスの方が上という形になってしまっている。それでもパーティーが解散していないのは勇者の統率力が高いのか聖女の言いなりになっているからか…。そのことについては誰もわからなかった。
勇者パーティーに依頼されたのは『死の森』の調査だった。勇者と言えども、雑用は任される。少なくとも、魔王を倒した後、報酬は出るとは言っても働かないと生きていけない。働くときにどうすればいいか、それを学んでおく必要があるという国の方針である。勿論、魔王を倒せると確定したとは言えないのだが。
「ギルスさん、あなたは『死の森』出身でしたよね?故郷とかには帰られないのですか?」
「すでに滅んだ。だから放浪の旅に出てる。まあ、文字通りの『冒険者』になってるな。」
「そうですか………。辛いことを思い出させてしまって申し訳ございませんでした。」
「そこまで辛くない。滅んだのはずいぶん前だ。今更そんなことで…、泣くかよ。」
辛くないというのは嘘だ。ギルスはすでにつらい過去に心を蝕まれていた。いつも、思い出すだけで発狂しそうになる過去。そんな過去を引きずって歩くことはやはり何年たっても難しいことだった。
(全く、女の前では泣くなって父さんに言われてたじゃないか。何で僕はここで泣いてるんだよ。というか、涙?流したのは何年振りか?ハハハ、存外、こういうのも悪くないのかもな。たまには泣くのもいいか。)
そんなギルスにリーンは精神治癒の魔法をかけた。
「【マインド・ヒーリング】…。ギルスさん、あなたは過去、たくさんのものを失って心が壊れてしまっています。少しだけ休息をとることも考えてくださいね?勇者様のパーティーに入っているんですから。」
「………了解した。」
心が楽になったギルスは僅かに余裕を取り戻した。そしてすぐに辺りを警戒した。
「周りに敵影なし。目的地まであと推定3分だ。強い魔物はそこまでいないはずだ。警戒は僕がするけど、奇襲には対処できない可能性もある。皆も警戒は怠らないようにしろ。」
「「「了解だ。(です)。」」」
「………。(黙って頷く)」
レッズはいつも通り無口だ。ここは通常運転と言ってもいいのかもしれない。実際は話したいがギャグを言ってしまって雰囲気が悪くなったとかそういうことがトラウマになりかけているだけで無口になったのだが、それを知るものは世界中どこを探しても本人しかいない。
そう考えていたギルスだったが、知っている気配を感知し武装を開始した。
「『グレーターデーモン』………。索敵範囲内に出現した。レベルは176。範囲即死魔法を使える個体らしい。一度結界を張って様子を見ていてくれ。存在を抹消してくる。」
「分かった(ギルスってマジでグレーターデーモンになるとこんな感じになるな。今日も通常運転だな)。」
「お気を付けて(ギルスさんって絶対に恨み持ってる魔物グレーターデーモンだよね?あ、これが通常運転というものかな?)。」
「………(通常運転過ぎてツッコミが沸かない………故に無言を貫く)。」
すでにパーティーからは通常運転という形で受け入れられているギルスの奇行は大きな利益と安全を産むため冒険者や勇者パーティーからは大きな支持を受けていたが、あまりにも残忍な殺し方をするためドン引きしてしまう。恨みのレベルが違うのだ、すでに。
「【ダッシュ】、【千刃剣】!【消えろ、目障りだ】!」
やはりギルスは30秒も経たずに帰ってきた。やはり、『グレーターデーモン』を倒す時はギルスに向かわせるのがいいなと勇者パーティー全員が思った。




