8話・勇者との出会い
2020年7月23日20時53分、文の一部の修正を行いました。
本文の内容に変化はありません。
勇者とは、魔王討伐の最終兵器と言われている人間で、すべてのジョブの中でも最高のステータスの伸び率を持っている。また、固有スキルを持つことでも知られ、その威力は天災級とも、神秘的なものとも言われている。
ギルスが知りえる情報はこれだけだが、実際、この程度しか情報が無いといっても過言ではない。能力はその人しか持ち合わせていないし、それを教えるほど教会や国は甘くない。魔王へ情報を与えてしまう可能性もあるからだ。
(さて、僕をスカウトしに来る必要はあるかないか…。レベルの暴力でステータスはほとんどはレベル200台の魔物と同等になっているわけだし…。勇者パーティーのステータスを見て考えよう。)
そう結論付けると、ギルスは久しぶりに布一枚ではあるが布団を敷いて寝た。貧乏らしいが、1年間ほぼ警戒し続けていたギルスにとっては高級なベッドのようにも感じる事ができた。
「ん、あぁあ。…………こんな寝たのは久しぶりだぁ。大体一年ぶりかな?まあいいや、食料調達して…。あ、先ギルドに行かないと。お金用意してくれるんだっけ?」
サキュバスからヴェードリッヒを救ったことにより、ギルスは多くのお金を手に入れる事ができた。正直、ギルスは断ろうとはしていたが、どうしてもという彼の願いに折れたのだった。総額、金貨300枚、日本円にして300万円という大金だ。それに加え、国からも報酬が入る手筈になっているらしい。四天王を討伐したことはギルスが考えていた以上に大きな功績だった。
しかし、それをギルスは勇者に丸投げした。勇者には、それ相応の武具を手に入れてほしいうえに、知識はもちろん、兵学や野草などの知識なども手に入れておかないと野宿をした時に魔物の大群に襲われたときに対処できないためだ。
ギルドへ着くまでのことは何も特筆するようなことが無かったため割愛する。
「おおギルス、来たか。さあ、早く部屋へ入れ。」
「分かった。」
いつも通りのタメ口で話しかけるギルス。部屋の中にヴェードリッヒ以外の反応が無いかを確認すると、その部屋の扉を開ける。
「おはよう、昨日ぶりだな、ギルマス。」
「そうだな。あの地獄のような昨日はもう終わったと考えるととても清々しい。それにうちのメンバーから勇者パーティーへ入る者が現れると考えると、尚更な。」
ヴェードリッヒの言葉にギルスは苦笑する。
「まだ入るとは決めてねぇよ。僕は勇者を見て、その実力を見て決める。勝手に見定めさせてもらう。僕より強かったら、または見放せないような馬鹿だったら教育してやろうかとな。」
「ほう…。人類最強と言われる勇者を見定めるとは…大きく出たな。」
「それくらいじゃないと僕は認めない。圧倒的な強さを持ってこそ、魔王を討伐できるんだ。仲間との連携、能力把握、それらすべてを知らないと勝てっこないってことはわかる。楽観視しすぎる勇者は愚者だ。それに付いて行かざるを得なかった仲間を心底哀れに思うなんて場合もあるかもしれないしな。そんなのは御免だが。」
「まあ、確かにお前なら勇者を超えているかもな…。そうだ、ここに来た目的はこれだろ?」
そう言うと、ヴェードリッヒは袋の小包を3つ置いた。
「ここに金貨300枚が入っている。さあ、持って行ってくれ。それと、国王からも報酬があるようだが…………。」
「それはご遠慮させていただく。それらは全て、勇者へ渡すんだ。」
「何故だ?」
「勇者には、今の状態では魔王に勝てないかもしれないし、それをカバーするにはまずは得意武器の把握、武器の作成だ。防具を最優先で、身体も死なない程度に鍛えていく必要もあるしな。とにかくそれらには金が要る。だから、それらは勇者に渡すんだ。」
「まあ、納得はいかないが、そう伝えておく。さて、勇者が来るのは今から3時間後だ。少なくともギルドは依頼受注のシステムまでは修復できているから、Aランクまでなら受けられる。何なら見せてやれ、お前の実力を。」
「了解した。では、僕はこれで…………。」
ギルスはそう言って退室した。
ヴェードリッヒは小さくつぶやいた。
「ギルス、良い奴ほど別れは早い。仲間を作れず、孤独に狩りを続けてきたあいつが、どれだけやれるか、見守ってやらないとな。」
3時間後、4人の冒険者がギルスの前に立っていた。
「お前がギルスだな。俺は勇者のクレイス。後ろにいるのは聖女のリーンに女賢者のフィーラ、タンクのレッズだ。お前はソロの大鎌使いって話だったからすぐ分かったぜ。なあ、俺らと魔王を倒しに行かねぇか?」
クレイスはギルスに気軽に話しかけた。しかし、そうしてきた人間はギルスにとってマイナスにしか傾いたことが無い。
「僕は確かにギルスだ。情報を渡すのは嫌いだがレベルは186。ジョブは『農民』で固有能力は『死神の申し子』だ。さて、君らは魔王を倒すと言っていたが、この状態では勝てる気がしない。まずは君らの力を見せてもらいたい。一度、僕が依頼を受けるから戦ってみて。それを見て判断する。」
その時のギルスとクレイスのステータスの差がこれだ。
ギルス LV186
体力 5256
魔力 7313(+2000)
攻撃力 5921(+9999)
防御力 6001(+1000)
移動力 3509(+500)
精神力 5510(+∞or0)
スタミナ 6013(+1000)
装備品
大魔族の呪詛皮ローブ(体力、攻撃力以外の全ステータス上昇)
大魔族の呪詛皮バッグ(空間魔法付き・あらゆる物を仕舞える)
大魔族の呪詛牙ペンダント(闇魔法無効)
死神の大鎌(攻撃力9999上昇、即死魔法付与)
想い出のミスリルペンダント「ローブ内に着用」(病魔耐性EX)
状態
精神崩壊(すでに精神が壊れているために精神が壊れなくなっている)
精神崩壊による精神干渉系魔法無効
復讐者(殺害対象確認時、精神状態に関わらず殺害する。)
クレイス LV46
体力 723(+300)
魔力 1801(+200)
攻撃力 2301(+1000)
防御力 1023(+500)
移動力 1101(+100)
精神力 1049(+100)
スタミナ 1193(+200)
装備品
勇者の秘剣(ステータス上昇・小)
勇者の服(勇者の成長速度上昇)
絆(聖女、女賢者によるバフ効果が増加する)
どう見てもギルスがバカにしてもおかしくない。
その言葉を聞いてイライラしたのか、クレイスは憤慨した。
「何だよ、勇者の俺に敬語も無しかよ、舐めてるのか?あ?」
「待ってください、勇者様。」
聖女と言われていたリーンがクレイスに話しかけた。
「彼の言っていることは本当です。農民でありながらすべてのステータス、装備品が勇者様を上回っています。それに、彼を敵に回したら必ずこのパーティーは壊滅します。」
「う…………。分かった。まずは俺らの力を見せてやる。依頼を受注しろ。」
「全く、僕をスカウトする必要はないだろうに。」
「そうは言えません。ギルスさん、貴方は何かしら嘘をついていますね?」
「噓?何にも?嘘なんてついていない。ただ、僕には……………………復讐したい魔物がいるだけだ。」
「………復讐…?」
そう言ってギルスはリーンの姿を見る。聖女らしいというより、シスターらしい、の方が正しいような白い服に杖を抱えている。そして、ギルスはあることに気付いた。
(ミラに、似てる。)
このたった一つのことだけが、ギルスを動かす理由となった。
「………さて、僕の話はどうでもいい。まずはエルダートレントからやろうか。」
『死の森』へ再度来ることになった。ギルスにとっては古郷そのものだが、ここで手に入るものはどれも一級品だらけだ。ギルスはそんなものばかりを見て育っていたが、それ故か、素材の良さを発揮しているだけで、心がこもっていない作品を見ることが多かった。いつしか、職人の心がこもっているかどうかを見る事ができるようになっていた。
今回の依頼のトレントもその素材の一つである。
「やぁ!」
木のような身体に人の顔面を植え付けたような姿をしているトレントに飛びかかるクレイス。
「まず減点、相手は的ではないんだ。そう飛び掛かれば串刺しにされて終わるだけだ。コイツの魔力を確認して居れば根元を切ればいいとわかるだろうに。」
「うるせぇ!フィーラ!【ブースト】を!」
「【ブースト】!」
「ソラァ!」
ギルスはその戦いを見てため息をついた。
「弱すぎる…。これじゃあレッサーデーモンすら倒せない…………!」
「はぁ…はぁ…よっしゃ!勝ったぜぇ!」
「お疲れ様、じゃあ、後の39体は僕がやるよ。」
「は?39?」
「何も、敵が一体だけなんて言っていない。寧ろここは最悪な位置取りだ。まあ…。」
ギルスは眼を細くしてこう言った。
「ここらの魔物を皆殺しにするにはちょうどいい。」
「「「「ギャァァァ!」」」」
「うおぁ!」
「ゆ、勇者様!」
「ギルスさん、危険です!逃げましょう。」
「何を言っているんですか?こいつらはただの…………経験値ですよ。」
右手に炎の魔力を溜めて放つ。
「【インフェルノ】」
トレントが5体燃えて死んだ。
「【インフェルノ】!【インフェルノ】!【インフェルノ】ォォォォォォォォォ!ハハハハハ!脆い脆い!キャハハハハハハハハハ!」
2体、8体、5体、計15体死んだ。
「ラァッ!【生死反転セシ大鎌】!」
19体のトレントが一瞬にして枯れて死んだ。
「相変わらず雑魚でしかないな。で?いつまでそこに突っ立ってるんだ?エルダートレント。」
そう言うと、一本の大樹に顔が浮かび上がった。
「よくも我が同胞を…………笑止千万!八つ裂きにしてくれる!」
「下らない…。処理!処理!処理!処理!ッラァ!」
鎌を振り回し、枝を何十本ずつか切り落とす。
「アアアアア!?おのれ…!なかなかやりおる…!」
「悪いがここでおしまいだ。雷の大蛇よ…!敵をなぎ倒せ!【ライトニング・サーペント】!」
青白い大蛇がエルダートレントと巻き、締め上げ、焼き尽くす。光の速さで飛ぶその大蛇は最期を迎える者のみ見るとされる。
「討伐完了、素材の収拾完了、勇者、帰るぞ。誰か僕の手を繋げ。」
「何故だ?」
「体の接触が無いと転移魔法は安定しない。だからだよ。これから歩いて帰れば何日かかると思っている。嫌ならいいが、さっさと帰りたいんでな。」
「ああ、分かったよ。」
ギルスは転移魔法を発動させる準備をした。
「後は一言唱えるだけだ。さて、早く行こう。報酬を受け取りたい。」
「分かってる。」
ギルスの手をリーンがとり、クレイス、フィーラ、レッズが順に手を繋ぐ。
「【テレポート】」
その瞬間、ギルスたちは森から消えた。
無事、ギルスたちは依頼を終え、それぞれが宿としている場所へ帰ろうとしている時、小綺麗な衣装をまとった貴族らしき冒険者に遭遇した。
「勇者様、おでもパーティーに入れてください!おではタンクです!これでもこの町一番の力持ちなんでっせ!」
「却下だ。もうパーティーは定員オーバーだ。悪いが帰ってくれ。」
「勇者、早く帰れ。」
「?…何故だ。」
ギルスはクレイスにこう告げた。
「コイツ、『グレーターデーモン』だ。今から魔法をかけるからすぐにそうしたら逃げてくれ。下手したらお前は殺される。」
「一応見ておくが、分かった。」
「行くぞ…、【看破】!」
ギルスは魔法を使いその正体を見破った。
赤黒い角に黒い蝙蝠のような翼、赤い鱗に牛のような2本の角。それはまさに、グレーターデーモンを表すものだった。
「よくも俺の正体を見破れたじゃないの。吾輩、感激感激。誠に喜ばし候…。」
「言葉が支離滅裂だぞ。候は話し言葉じゃねぇっつーの。だからお前はいつまでも『レッサーデーモン』なんだよ。」
「!…き、貴様ぁぁ!よくも私を愚弄したなぁぁぁ!死すべし!【ダークネス・ボー…………!」
「小手試しだ、【スプラッタ】」
出血状態にして体力を削る魔法をギルスは使う。グレーターデーモンは魔法耐性が高い。この程度の魔法では通用しない。ギルスはそれを知っている。
「その程度の魔法、私には効かない。これで終いだ。【デッドエ………】」
「【知ってるよ】【目障りだ、消え失せろ】」
ドロップ品の赤黒い角を落として消えていった。
「勇者、終わったから来い。」
「あ、ああ…………。」
クレイスは力なくギルスに近づいた。
「俺、力不足だったのに貴方のことを馬鹿にした。申し訳ありませんでした。もっと強くなってから出直してきます。」
「仕方ない。条件があるがお前のパーティーに入ってやる。」
「はぁ、そうですよn…………、って、え?」
「つい3日前に会ったばかりで、次会う前に死なれたら寝覚めが悪いったらありゃしない。だからだ。復讐ついでにお前に助力してやる。まあ、せいぜい僕を使いこなせるように励めよ。」
ギルスは勇者についてこう考えた。
(自分の力を知って、相手の力量を見て判断できるか。まだ少しだけ見所がある。死ぬには惜しい人間だ。鍛えてやるか。後で少し協力はしてもらうが。)
自分のためというところだけはブレないギルスであった。




