↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/204

第一部 灰の記憶 28 失われた力

祈りの力を失ったと報じられた人物は、かつて他人を動かす大きな権威も持っていました。

その失われ方を、直接見ていない者はどう扱うべきでしょうか。

挿絵(By みてみん)

]確認の知らせが来たのは、夕暮れの少し前だった。


新しい紙には、カール・ライスターが魔法を発現させられなくなったことについて、先の報告を受けて調べた経過が記されていた。


エリゼーは最初の一行を読み、すぐには次へ進まなかった。

「確認された」という言葉がある。

だが、何を、誰が、どう確かめたのか。


文書の後半へ目を移すと、複数の関係者から同じ趣旨の知らせが寄せられたことが分かった。

少なくとも、初めの報告が一人の聞き違いにすぎないとは考えにくい。

それでも、魔法を失った原因については書かれていなかった。


* * *


かつてエリゼーが祈祷の教習を受けたとき、指導者は一つの言葉を繰り返した。



「起きたことと、起きなかったことを、取り違えないように」


あのときは、魔法が発現したかどうかの確認についての教えだった。

だが今は、もっと難しくとらえていた。


一度発現しなかっただけなら、失ったとは言い切れない。

何度も発現しないことが確かめられれば、少なくとも以前の状態が続いていないとは言える。


その先の意味は、誰が決めるのだろう。


彼女は、教習で唱えた安全の祈りを思い出した。

教習室には、力を発現できる者も、できない者も座っていた。

言葉が終わったあと、誰かは息を吐き、誰かは何も起こらない掌を見つめた。


エリゼーは、自分の隣にいた学び手のことを覚えていた。

その人は魔法を使えなかったが、祈りをやめるつもりはないと言った。

あの人なら、高位聖職者が突然力を失ったと聞いて、何と答えるだろう。


恐ろしいと言うかもしれない。

あるいは、魔法がなくなっても祈りは残る、と言うかもしれない。

どちらの答えも、その人のものだ。

自分が勝手に決めてよいことではない。


だからこそ、力を失ったという一つの事実から、その人物の信仰や心の中まで推し量ることはできなかった。


* * *


エゴ・ウォロ・ウト・エンテラフィアス・セクリターテム・フイク・コルポリ・プラエベアト。


何度正確に唱えても、彼女には魔法が起こらなかった。

自分には初めからなかった力、それが、持っていた者の元から消える。

二つは同じ不発という結果ではないはずだった。


* * *


彼女は報告を閉じ、手の甲に浮いた細い筋を眺めた。

魔法を一度も発現させられない自分を、欠けた人間だと思った日もあった。


けれども今、すでにその力を持っていた者の不発を読んでも、勝ったような気持ちにはならない。

持っている者だけが神に愛され、持たない者は愛されない。


もしそう決めれば、祈りのない時間を生きてきた自分だけでなく、あの教習室で何も起こらなかった人々をも切り捨ててしまう。


彼女はその考えを拒みたいと思った。

信じたいからこそ、信じるための説明を急ぎたくはなかった。


新しい報告の中には、魔法による攻撃の命令が出された時刻についての記述もあった。

その命令と魔法の喪失を並べれば、見る者は何かの意味を考えたくなるだろう。


命令を下したから力を失ったのか。

力を失ったから命令についての記録が変わったのか。

あるいは、二つには何の関係もないのか。


エリゼーは、どの問いにも答えを与えなかった。

紙に書かれた時間の順番さえ、まだ一つに揃わない。

その状態で神の意志を語ることは、彼女にはできなかった。


それでも、名も知らぬ誰かが命令の先で傷つくかもしれないという事実は、文書の外に残っている。


彼女は机の下で指を握った。

幼い日に敵と呼ばれた人に助けられた、その手の感覚が戻ってきた。

何かを命じる声の、その先に、傷つく人の身体がある。


そう思った。


* * *


午後、届け物をした係の一人が、書類を受け取る手をいつもより強く握りしめていた。


「ライスター様ほどの方でも、祈りが届かなくなるのですか」

問いの調子は詰問ではなかった。

係は怯えていた。


「届かなくなったと、決まったわけではありません」

エリゼーは慎重に答えた。


「報告にあるのは、以前は発現していた魔法が、確認された場面で起こらなかったということです」


「それなら、また起きるのでしょうか」

「それも、まだ分かりません」


係はしばらく黙り、小さく頭を下げて戻っていった。


彼女は胸が痛んだ。

もっと安心させる言葉をかけられたはずだ。


しかし安心のために確かめていない未来を確定して語れば、その人はそれを信じた後に、次に何を信じればよいのだろう。


廊下で、祈り手たちの話す声がした。

何を語っているのか、言葉までは聞き取れない。


聖職者の力が失われたという知らせは、すでに教会の内部へ広がっているのかもしれなかった。

誰かが恐れることもあるだろう。

誰かが胸の内で安堵することもあるだろう。


どちらも、報告書には書かれていない。

エリゼーは、ジャック・ランスロの名を思い浮かべた。

祈りのことを尋ねるなら、話を聞ける人物の一人だ。


だが、いま尋ねるべきなのは、信仰の解釈より先に、何が確認されたかということだった。

仕事と疑問の境を見失いたくなかった。


* * *


夜になって、彼女は受領した三通の文書を順に置いた。


最初の報告。

次の報告。

確認を伝える新しい書類。


紙の重みは、どれもほとんど変わらない。

しかし、三通目が来たことで、一通目を読んだときと同じ場所には戻れなくなった。


何もなかったことにはできない。

それは、力を失った人物についてだけではなく、自分がその事実を知ってしまったことについても同じだった。


エリゼーは灯りを低くし、必要な受領の記録を残した。

記録の先には書かれていない意思を感じた。


告発しない。

しかし赦されない。


知りたいという気持ちと、知っているつもりになりたくない気持ちが、彼女の中でぶつかっていた。

カールの魔法喪失は複数の報告によって裏づけられていきますが、原因も神の判断も確定しません。エリゼーは現場の目撃者ではありません。


そしてランスロ先生も

お借りしてごめんなさい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。