第五部「交易都市編」第五幕「港、決断、出航前の乗船」 194 旅客係のまなざし
四人で来た客には、それぞれ四通りの受け答えがある。
クララ・メイエは、四人が部屋に入ったとき、最初に荷の少なさを見た。
それから、荷の持ち方を見た。
長い旅を終えた人の荷は、重さよりも結び目に疲れが出る。
使い慣れた紐をほどけなくなっている者がいて、反対に、何度も結び直して落ち着こうとする者もいる。
それを見て人物が分かると思ってはいけない。
クララは自分の仕事を始めるたび、その当たり前の戒めが胸にあった。
ヘルマンは先に道順と照会先を確かめた。
案内役だと名乗ったが、他人の返事まで引き受けるとは言わなかった。
エリゼーは慎重に言葉を選んだ。
何を運べるかより、説明に含まれないことを知りたい人なのだろうか。
ジュリアは紙の文言を一つずつ止めた。
ハインツは、荷の扱いと日々の動きについて尋ねた。
四人を「同じ連れの旅客」と記すことはできる。
けれど、それだけに限定して書けば
自分の本来の仕事は半分になってしまう、とクララは思った。
同じ条件が示されても、誰が何を引き受けるかは、それぞれ違う。
彼らが同じ船に乗りたいということ、それを押し上げていく情動は、その違いを消してよい理由にはならない。
「お一人ずつ、確かめたいことを聞きます」
クララが言うと、最初に反応したのはヘルマンだった。
「代表を一人決めたほうが、早いでしょうか」
「連絡先を一つ決めていただくことと、判断を一人に預けることは別です」
クララは言い慣れた返答をした。
それでも彼女は、言葉が事務の決まりに聞こえすぎたことに気づいた。
「何か不安があれば、無理に代表の方を通さなくても結構ですので、個々に伝えに来てください」
付け加えると、ジュリアがようやく息を抜いた。
ハインツが右腕をかばっていることには気づいた。
しかしクララは、先に手助けの話は始めなかった。
痛むのか、どこまで動かせるのか、同伴者に何を求めるのか。
それは、彼が自分で説明するまでは勝手に埋めてはいけない欄だった。
「荷についてお尋ねしたいことがあります」
とハインツが言ったとき、クララは正面から彼に向き直った。
「はい。お聞きします」
彼女の視線が腕ではなく顔に向いたことを、彼も見ていたようだった。
以前、よく似た四人連れが来たことがあった。
そのうち一人は黙っていたため、同行者の了承があれば十分だとクララは考えた。
後でその人が、一人だけ別の希望を持っていたと知った。
船はその希望をかなえることができなかった。
もっとも、早く話していても結果は変わらなかったかもしれない。
だが、話す機会を奪ったことだけは確かだった。
以来クララは、同じ問いを面倒だと思いながら、なおも繰り返す。
エリゼーは最後に
「言わないままでよいこともありますか」と尋ねた。
「安全や受入条件に関わらない個人的な事情なら、すべてをお話しいただく必要はありません」
クララはそう答えた。
言い切ってから、相手が何を伏せたいのかはあえて詮索しなかった。
必要な説明と必要のない告白を混同することは、客を守ることではない。
クララは質問に印を付けながら、自分が公平という言葉を頼りにしすぎていたことに気づいた。
全員に同じ紙を渡せば公平だと思える。
だが、文字の向こうを読める者と読めない者
急げる者と急げない者がいる。
彼女は読めない旅客にすべて口頭で伝えたこともあったし、読める人に一度の説明で済ませようとして後から呼び戻されたこともあった。
必要なのは人を決まった種類に分けることではなく、目の前の相手が理解を確かめようと出来る余地を残すことなのだ。
四人のうち誰も「自分たちはこういう者です」とまとめて名乗らなかった。
その控えめな不統一が、クララにはなぜか好ましかった。
しかし好ましさに任せてしまって扱いを一括に変えてしまうのも違う、と彼女はすぐ考え直した。
四人が席を立つころ、外では貨物を数える声が高くなっていた。
クララには次の仕事が待っていた。
相手の気持ちを長く考えている時間はない。
それでも彼女は、四人分の質問が別々の字で残った控えをしばらく眺めた。
整った表にまとめてしまえば、誰が何を尋ねたかは見えなくなる。
見やすい記録と、消してはいけない差異は、いつも同じ側から見られるわけではなかった。
旅客係クララ自身の仕事上の迷いを中心に据えました。四人を一括りにせず、個別の意思を確かめます。




