第8話 ついに我らが蓮にも春が来ましたー!
リビングは、あっという間に大混乱になった。
可愛らしい女の子はマカロンを差し出し、
「蓮さん、あーん♪」
と笑顔で私に食べさせようとしてくる。
ライダース姿の美女は私のネクタイに指を引っ掛け、
「こっちでゆっくり飲みません?」
と、そのままソファへ連れて行こうとする。
その一方で――
本物の蓮は、私の顔のまま、見る見るうちに笑顔を失っていった。
いや。
笑顔どころか、額に青筋が浮かんでいる。
そして、一番楽しんでいたのは恒一だった。
あいつ、いつの間にかシャンパンまで開けている。
片手にグラス、もう片方にはスマホ。
動画を撮りながら大声で叫んだ。
「さあ皆さん、ご注目!」
「ついに我らが蓮にも春が来ましたー!」
「おめでとう!!」
「…………」
こいつ、完全に面白がってる。
その瞬間だった。
「――そこまでだ。」
蓮がソファのクッションを勢いよくつかみ、そのまま投げつける。
「わっ!」
私は反射的に身をひねった。
ひゅっ、と私の頬をかすめたクッションは――
「きゃっ!」
マカロンを持っていた女の子の顔へ、見事に命中した。
せっかく時間をかけて仕上げた人魚風メイクが、一瞬でぐしゃっと崩れる。
「えっ……」
「うそぉ……」
彼女は半泣きで鏡を取り出した。
「蓮! 何してるの!?」
私は慌ててティッシュを引き抜き、彼女へ差し出す。
そのまま蓮のそばへ歩み寄り、小声で言った。
「この人たち、全部あんたのために呼んだんだから!」
「彼女を見つけるためだよ!」
ところが蓮は鼻で笑う。
「俺の体を使って?」
「しかも、俺の金まで使って?」
蓮は鼻で笑うと、そのままローテーブルに片足を乗せた。
オーバーサイズのスウェットの襟元が肩からするりと滑り落ちる。
私の白い肩があらわになっても、本人はまるで気にする様子もない。
それどころか、わざと見せつけるように口角を吊り上げた。
「信じないなら――」
「今すぐこの体で裸になって、ベランダでガールズグループのダンスでも踊ってやろうか?」
「……っ!?」
ブッ――!!
恒一が口に含んでいたシャンパンを盛大に吹き出した。




