第6話 どうやら、美咲は俺の体をずいぶん気に入ったみたいだな
通話が切れたスマホの画面を見つめながら、私は思わずガハハと笑ってしまった。
……ところが。
笑い声が収まる前に、不意に首筋へ冷たいものが走る。
ぞくり、と背筋が粟立った。
嫌な予感がして、ゆっくり顔を上げる。
すると――
真正面から、蓮の甘く切れ長な瞳と目が合った。
いつの間にかあいつは部屋の入口にもたれかかり、私の体でこちらを見ていた。
シルクのキャミソールは肩から半分ずり落ち、妙に色っぽい。
「……部屋に入る前はノックくらいしてよ!」
私は慌てて椅子から飛び起きた。
腰に巻いていたバスタオルが危うく落ちそうになる。
「それと、その格好!」
「どこから持ってきたの!? 早く着替えて!」
蓮はまるで聞いていないかのように、ゆっくり部屋へ入ってくる。
裸足でペルシャ絨毯を踏む姿は、獲物を狙う大型の猫みたいに悠々としていた。
「自分の部屋に入るのに、ノックなんて必要か?」
言いかけたところで、彼の視線が私――いや、蓮の裸の胸元で止まる。
その目に浮かんだ光を見た瞬間、なぜか胸がざわついた。
「どうやら、美咲は俺の体をずいぶん気に入ったみたいだな。」
「ち、違う!」
私は慌ててスーツのジャケットをつかみ、胸元を隠す。
耳まで熱くなっているのが自分でも分かった。
「百点満点なら……」
「その性格の悪い口を減点して、ギリギリ六十点ってところ!」
「へぇ?」
蓮は口元をゆるく吊り上げる。
そして、わざとらしくキャミソールの肩紐へ指をかけた。
するり。
レースの肩紐が白い肩を滑り落ちる。
「じゃあ――これなら何点?」
「……っ!」
思わず喉がごくりと鳴った。
私は後ずさり、そのまま本棚へ背中をぶつける。
バランスを崩した本が何冊も床へ落ち、部屋に乾いた音が響いた。
気づけば蓮は、もう目の前まで来ていた。
ふわりと漂うのは、私がいつも使っているジャスミンのボディソープの香り。
その香りだけで、自分の心臓が妙に落ち着かなくなる。
蓮は細い指先で、私の喉仏をそっとなぞった。
かすかに触れるか触れないか、その程度なのに――
体中へ細かな電流が走ったような感覚が駆け巡る。
体が固まって、指一本動かせない。
蓮はくすっと笑う。
「秘書さん。」
「今、心拍数百二十くらいあるんじゃない?」
「人工呼吸でもしてあげようか?」
「い、いらないっ!」
私はようやく我に返り、蓮を突き飛ばすようにして部屋を飛び出した。
そのまま寝室へ駆け込み、勢いよくドアを閉める。
ガチャリ、と鍵をかける音が響いた。
それでも廊下の向こうからは、蓮が鼻歌を歌う声が聞こえてくる。
私は冷たいドアにもたれかかった。
手のひらはじっとりと汗ばんでいる。
「……もう、何なのよ。」
今まで気づかなかった。
私の体って、こんなに人を翻弄できるの……?




