第3話 ライバルを彼氏候補に育てることにした
私は、犬猿の仲だった蓮と――体が入れ替わってしまった。
最初のうちは、私たちもそれほど深刻には考えていなかった。
きっと、そのうち元に戻る。
どうやって戻るのかなんて、さっぱり分からない。
それでもなぜか、妙な確信だけはあった。
「まあ、そのうち戻るでしょ」
「だろうな」
そんな感じで、二人とも妙に楽観的だった。
だからこそ。
元に戻るまでのこの期間を利用して――
私たちはお互いの体を、好き放題に「いじり倒す」ことにした。
浴室。
頭のてっぺんから冷たいシャワーを浴びた瞬間、私はビクッと身を震わせた。
「冷たっ……!」
鏡に映ったのは、赤みの残る男の体。
逞しい胸板には、朝からの出来事を思い出させるような、いくつかの意味深な引っかき傷まで残っている。
「…………」
一気に蘇る、今朝の惨劇。
思い出すだけで顔から火が出そうになる。
その時だった。
隣の部屋から、衣擦れの音が聞こえてきた。
「……?」
なぜか気になって、私はそっと壁に耳を寄せた。
すると――
「へぇ……美咲って、ここがこんなに敏感なんだ……」
聞こえてきたのは、私の声。
しかも、妙に甘ったるい。
「…………」
蓮。
あいつ、絶対に私の体を好き勝手いじってる。
そう思った瞬間。
私の中で、何かがプツンと切れた。
「……好きに見てるってわけね。」
だったら。
私だって見てやる。
むしろ、徹底的に見てやろうじゃない。
私はこの体――つまり、蓮の体を頭のてっぺんから足先まで、隅々まで観察した。
そして、思わず感心する。
……悔しいけど。
蓮の性格は最悪だ。
口も悪い。
だけど――
体だけは、本当に文句のつけようがない。
肩幅は広いのに、腰は細い。
全身のラインもきれいで、脚はモデルみたいに長い。
胸板はしっかりしていて、腹筋もきっちり割れている。
しかも――
「……お尻まで無駄にいい形してる。」
引き締まっているのに、妙に弾力がありそうだ。
そして、さらに目を疑ったのが――
「…………そこまで立派なの?」
思わず呆れる。
自己主張が激しすぎる。
……なるほど。
これなら、会社の飲み会や社員旅行で、女子社員がこっそり蓮の水着姿を撮っていたのも納得だ。
顔もいい。
スタイルもいい。
素材だけなら、完璧。
なのに。
「なんで中身だけ、こんなにポンコツなのよ……」
これだけのスペックを持っていながら、女心には驚くほど鈍い。
褒めても気づかない。
好意を向けられても気づかない。
そりゃ彼女もできないわ。
私はため息をつきながら、クローゼットを開けた。
そして――絶句した。
「…………何これ。」
蛍光ピンクのシャツ。
エレクトリックブルーのスーツ。
マスタードイエローのネクタイ。
クローゼットを埋め尽くす、目がチカチカするほど派手な服の数々を前に、私は思わず頭を抱えた。
「……このセンス、どうにかならないの?」
顔もいい。
スタイルもいい。
なのに、女心はまるで分かっていない。
こんな格好で、女の子が寄ってくると思ってるの?
私は大きくため息をついた。
決めた。
まずはこいつの服装を、根本から叩き直す。
そして――女の子を一人、見つけてやろう。
そうすれば、次に入れ替わった時には、こいつがまた寂しい男みたいに自分で慰める必要もなくなる。
「高橋執事!」
私は廊下に向かって声を張り上げた。
「お呼びでしょうか、坊ちゃま」
すぐに高橋執事が現れる。
私は勢いよくクローゼットを指差した。
「高橋執事、今すぐ坊ちゃ……じゃなくて、私のクローゼットにあるこのゴミ、全部捨てて!」
言ってから、しまったと思った。
今の私は蓮の体だ。
なのに、つい「坊ちゃま」と自分を他人扱いしてしまった。
「……私のクローゼットよ。全部!」
慌てて言い直す。
高橋執事は一瞬きょとんとしたものの、すぐにいつもの落ち着いた表情に戻った。
「かしこまりました」
私は腕を組み、改めてクローゼットを睨みつける。
今日から、こいつを生まれ変わらせる。
女心も分からない、派手好き男なんて卒業。
服装を変えて、彼女も作ってやる。
そうすれば――
次に体が入れ替わった時、また一人で寂しく自分を慰める羽目になることもないだろう。
……うん。
我ながら、完璧な計画だ。




