第2話 ライバルが私の下着を着始めた
スマホをひっつかみ、勢いよくドアを開けた。
その瞬間、私は目を疑った。
目の前にいた蓮が、「私」の細く白い指でシルクのネグリジェの裾をつまみ上げ、胸元をじっとのぞき込んでいた。
しかも――。
私の顔をした蓮が、真剣そのものの表情で服の中を確認している。
一気に血の気が引いた。
「蓮! 何やってるの!?」
ほとんど悲鳴だった。
蓮はゆっくり顔を上げる。
ほんのり頬を赤く染めた「私の顔」で、あまりにも当然のように言った。
「新しい体に慣れてるだけ。」
「……は?」
「自分の体なんだから、ちゃんと知っておかないとだろ?」
そう言いながら、蓮は私を頭のてっぺんから足先まで、じっくり眺めた。
そして、平然と続ける。
「君も俺の体、よく見ておけば?」
「好きなだけ見ていいよ。俺は気にしない。」
「…………」
何、この男。
羞恥心ってものがないの!?
思わず言葉を失った。
けれど、すぐに自分がここへ来た目的を思い出す。
私はニヤリと笑い、スマホを高く掲げた。
「へぇ?」
「いつも口では『私のことなんか嫌い』って言ってるくせに、裏では私の写真を見ながら、あんなことしてたんだ?」
これでどうだ。
絶対に動揺する。
そう思ったのに――。
蓮はまったく恥じる様子がなかった。
むしろ余裕たっぷりにベッドのヘッドボードへ背を預ける。
「その写真、結構よく撮れてるよな。」
「こういう時に使うには、ちょうどいい。」
「……っ」
私の顔から、私の知らない声が聞こえてくる。
気だるくて、妙に色っぽい。
いわゆる、お姉さんっぽい声。
自分の顔でそんな声を出されると、ものすごく違和感がある。
というか、全身に鳥肌が立った。
そして、さらに最悪なことが起きた。
蓮は私の下着を手に取ると、私の目の前で何のためらいもなく身につけ始めた。
「これで合ってる?」
妙に素直な顔で聞いてくる。
「こういうの、初めてだからさ。」
「…………」
止めたい。
今すぐ止めたい。
なのに、蓮はまるで気にする様子もなく、私を見てぽつりと言った。
「……それにしても。」
「君の体って、思ってたよりスタイルいいんだな。」
「…………」
何を言ってるの、この男。
「ちょ、ちょっと! やめて!」
慌てて止めようとした。
けれど。
私の体――つまり蓮の体が、なぜか勝手に小さく震えた。
「……美咲。」
蓮が、私の声でくすりと笑う。
「鼻血、出てる。」
「え?」
私は反射的に鼻へ手をやった。
指先が、ぬるりと濡れる。
恐る恐る見ると――。
赤い。
「……うそ。」
本当に鼻血だった。
「だ、誰のせいだと思ってるのよ!」
私は顔を真っ赤にして叫んだ。
「朝っぱらから、そんなことしてるからでしょ! 体に悪いんだから!」
全部、蓮のせい。
そういうことにしておく。
私は八つ当たり気味に言い放つと、百八十七センチもある大男の体を引きずるようにして、自分の部屋へ逃げ帰った。
ドアを閉める。
背中を預ける。
そして、そのままズルズルと床にしゃがみ込んだ。
「…………最悪。」
恥ずかしい。
死ぬほど恥ずかしい。
……お願いだから、誰にも見られてませんように。




