第18話 困らせるつもりだったのに
二人が向かったのは、この街でも指折りの会員制プライベートクラブだった。
館内は贅を尽くした造りで、天井には巨大なクリスタルシャンデリアが輝き、壁には名だたる芸術作品が飾られている。
行き交う客は財界人や著名人ばかり。
誰もが洗練された立ち居振る舞いで、この場所にふさわしい気品をまとっていた。
昼が近づいた頃。
奏多はまず美咲――いや、中身は蓮――をレストランへ案内し、本格的なフレンチのランチを楽しむことにした。
蓮は今日も相変わらず、センスの欠片もない服装だった。
だが、どれだけ野暮ったい格好をしていても、幼い頃から名家や財界人に囲まれて育った彼の所作までは隠せない。
ナイフとフォークの扱い。
姿勢。
グラスを持つ仕草。
どれも自然で、思わず見惚れるほど優雅だった。
「……しまった。」
それに気づいた蓮は、慌てて椅子の上でもぞもぞと体をくねらせる。
まるで落ち着きのない子どものように座り直し、
食事が始まると、わざとナイフとフォークをぶつけてカチャカチャと大きな音を立て始めた。
向かいに座る奏多は、そのあまりにもわざとらしい演技を見て、小さく笑う。
「ここのカトラリー、使いにくいのかな。」
「お箸を用意してもらおうか?」
「……。」
ナイフとフォークという"小道具"を失っても、蓮はまったくめげなかった。
ようやく料理を口へ運ぶと、
今度はわざと音を立てて食べ始める。
もぐもぐ。
ぱくぱく。
頬いっぱいに料理を詰め込み、夢中でかき込んでいく。
その豪快な食べっぷりに、
周囲で食事をしていた客たちは次々と視線を向けた。
驚く者。
眉をひそめる者。
思わず吹き出しそうになる者。
反応はさまざまだった。
食事が終わると、蓮の"いたずら"はさらにエスカレートする。
「ゴルフしたい!」
数分後には、
「ダンスホールにも行こう!」
そのまた次には、
「ワインの試飲もしてみたい!」
と、次から次へと行き先を指定する。
しかも選ぶのは、人目につきやすく、失敗すれば恥をかきそうな場所ばかり。
そんな蓮に対して、奏多は終始穏やかな笑みを崩さなかった。
まるで大切な恋人を優しく見守るように、
周囲の視線などまったく気にすることなく、「彼女」のわがままに付き合い続ける。
そしてダンスの時間。
男役しか踊れない蓮に合わせるように、
奏多は何のためらいもなく女性側のステップへ回った。
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