第16話 壁ドンのあとで振りました
私は腕を組んだまま、目の前の蓮の前を何度も行ったり来たりする。
すると、不意にひとつの考えが頭をよぎった。
私はぴたりと足を止め、そのまま蓮の目をまっすぐ見つめる。
「ねえ……もしかして、私のこと好きなの?」
ここ最近のあいつの言動を思い返せば、答えはもう見えていた。
あれだけ分かりやすい態度を取られて、それでも気づかないようじゃ、本物の鈍感だ。
蓮はごくりと唾を飲み込んだ。
視線を泳がせ、観念したように小さく息をつく。
「……まだ分からない?」
かすれた声が、やけに弱々しい。
「ずっと俺の体を使ってたんだろ?」
「……何も感じなかったのか?」
そう言い終えると、恥ずかしさに耐えきれなくなったのか、俯いてしまう。
耳までほんのり赤い。
私は思わず、その赤く染まった耳たぶを指先でつまんだ。
……かわいい。
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
今の私は、身長一八七センチの蓮の体。
その体格差をいいことに、一歩、また一歩と蓮との距離を詰めていく。
逃げ場を失った蓮の背中が、コツンと壁に当たった。
私は片手を壁につく。
自然と、きれいな壁ドンの形になる。
もう片方の手で、そっと蓮の顎を持ち上げた。
その瞬間。
蓮の顔が一気に真っ赤になった。
まるで熟れたトマトみたいだ。
私は、あの絶望的にダサい服装なんてもう気にも留めず、ゆっくりと顔を近づける。
蓮は恥ずかしいのか、それとも期待しているのか。
おとなしく目を閉じ、小さく唇を突き出した。
長いまつげが、扇のようにかすかに震えている。
私はさらに距離を詰める。
吐息が、彼の唇をやさしく撫でた。
きっと蓮は、このままキスされるんだと思ったはずだ。
だけど――
私は彼の唇をすっとかわし、そのまま耳元へ顔を寄せる。
そして、一文字ずつ噛みしめるように囁いた。
「でも――
私は、あなたのこと、好きじゃない。」
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