第15話 その一言は反則だった
蓮は、結局デートに行くことにした。
どうやら、会社の幹部たちが連名でこんな嘆願書を出したらしい。
【神宮寺社長、お二人で何をしようと構いません。ですが、どうかオフィスのドアだけは閉めてください! 社員の仕事がまったく進みません! お願いします~~!】
……まあ、私たちが会社で何をしていたのかは、あえて聞かないでほしい。
そして、待ちに待ったデート当日。
待ち合わせ場所に現れた蓮を見た瞬間、私は固まった。
すっぴん。
色鮮やかだけど、どう見ても垢抜けない服。
そして、頭にはちょこんと二つの三つ編み。
私は慌てて蓮の前に立ちはだかった。
「ちょっと待って。蓮、まさかその格好で行くつもり?」
「うん」
蓮は何が悪いのか分からないといった顔で頷いた。
「……本気?」
「本気」
「デートだよ?」
「知ってる」
「化粧するのは、デート相手に対する最低限の礼儀でしょ?」
私は呆れながら、蓮の服を指差した。
「それに、その服は着替えて。あと、その三つ編みもほどいて」
「なんで?」
「その格好でデートしたら、都会に遊びに来た田舎のおばちゃんだと思われるよ」
「都会に遊びに来た田舎のおばちゃん?」
蓮は眉をひそめた。
そして突然、両腕を広げて、その場でくるりと一回転する。
「何? 田舎者を馬鹿にしてるの?」
「えっ……」
予想外の方向から反撃されて、私は言葉に詰まった。
「いや、そういう意味じゃなくて……」
「じゃあ、何が悪いんだ?」
「いや、その……」
蓮、そこを真面目に追及しないで。
こっちが悪者みたいになってるじゃん。
すると蓮は、さらにもっともらしい顔で言った。
「それに、化粧なんて結局、素顔を偽ることだろ?」
「……は?」
「付き合い始めたあとも、家にいるときまで化粧するのか?」
そこで一度言葉を切って、蓮は平然と続けた。
「そういうことをするときまで、化粧するのか?」
「…………」
私は無言で蓮を見つめた。
「……それは、まずそこまで進めるかどうかが問題でしょ」
思わず白い目を向ける。
「その格好じゃ、私を一生独身にするつもり?」
すると蓮は、少しだけ目を逸らした。
「……本当に嫁の貰い手がなかったら」
そして、いかにも仕方ないと言わんばかりに、真面目な顔で言った。
「俺がもらってやるよ」
「…………」
一瞬、何を言われたのか分かったなかった。
けれど。
ほんのり赤く染まった蓮の耳が、その言葉がただの冗談じゃないことを、何より雄弁に物語っていた。
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