第14話 オフィスでキスなんて聞いてない!
いつの間にか、蓮が私のすぐ隣まで来ていた。
腕を組みながら、まるで面白い見世物でも眺めるような顔でこちらを見ている。
私は勢いよく振り返る。
その声には、はっきりとした脅しが混じっていた。
「……どうするの?」
「約束する? しない?」
蓮は横目で私をちらりと見ただけだった。
相変わらず余裕たっぷりの表情で、肩をすくめる。
「続けろよ。」
「どこまでやれるのか、見届けてやる。」
「……っ。」
私は思わず奥歯を噛み締めた。
でも――
それ以上、手が動かない。
今は蓮の体とはいえ、中身は私だ。
こんな大勢の前で、本当に"脱ぐ"なんて度胸はさすがになかった。
私はオフィスの真ん中で立ち尽くす。
進むことも、
引くこともできない。
完全に身動きが取れなくなっていた。
そんな私を見て、蓮は楽しそうに口元を緩める。
まるで獲物を追い詰めた悪魔だ。
そして次の瞬間――
彼はいきなり私との距離を詰めた。
「……え?」
気づけば、その両手は私のベルトにかかっている。
カチッ。
乾いた音とともに、ベルトのバックルが外れた。
「……っ!!」
オフィス中から息をのむ気配が広がる。
女性社員たちは思わず両手を握りしめ、
固唾をのんで成り行きを見守っていた。
私は頭の中が真っ白になった。
まさか、こいつ……
本気なの!?
ところが蓮の手は止まらない。
そのままファスナーへ手を伸ばすと、
ゆっくりと引き下ろす。
さらに、わざと私の腹部を指先でなぞった。
ひんやりとした指先が肌に触れた瞬間、
ぞくり、と電流のような感覚が全身を駆け抜ける。
「っ……!」
思わず息をのみ、体がびくっと跳ねた。
私は反射的に後ろへ下がろうとした。
その拍子に蓮の足元がぐらりと揺らぐ。
「危ない!」
私はとっさに腕を伸ばして彼を支えようとした。
ところが――
蓮は逆に私の腕をぐいっと引っ張った。
「うわっ!」
二人の体勢が一気に崩れる。
まるで糸の切れた凧みたいに、
二人そろって床へ倒れ込んだ。
倒れる瞬間、
私は反射的に体をひねる。
その結果――
私が下。
蓮が上。
ぴたりと重なるような体勢になってしまった。
そして。
混乱のあまり避ける暇もなく、
二人の唇は、そのまま重なった。
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