四人と四体
馬車は崩れた外壁を抜け、人気のない路地裏で静かに止まった。
「ここまでです!」
御者が手綱を引く。
二頭の馬は荒い息を吐きながらも、その場にしっかりと立っていた。
「ご苦労だった」
アーヴェルが荷台から降りる。
続いてレテ、ログ、ユノも地面へ降り立った。
「ディーネ」
レテが優しく呼びかける。
彼女の傍らに浮かぶ水の粒が集まり、一匹の魚の姿を形作った。
大きなヒレを持つ、美しい水の精霊。
ディーネは空を泳ぐように馬たちの周囲を回ると、大きなヒレをゆっくりと揺らした。
涼やかな水が身体を包み込み、熱を持っていた馬たちは気持ちよさそうに鼻を鳴らす。
「ありがとう、ディーネ」
レテが微笑むと、ディーネは嬉しそうにレテの頬へ身体を寄せた。
「本当に懐いてますねぇ」
ユノが穏やかに笑う。
その肩には、青白い狐の精霊が丸くなって眠っていた。
周囲に浮かぶ火の玉も、小さく揺れている。
「キュウもお疲れ様です」
ユノが頭を撫でると、キュウは小さく鳴いて目を細めた。
「《暖脈》を長い時間維持してくれましたからね」
「馬も助かったぜ」
ログがそう言うと、赤茶色の牛の精霊が嬉しそうに近寄ってきた。
「おう、アルゴス」
ログが頭を撫でる。
アルゴスは気持ちよさそうに目を細め、ログの肩へぐいぐいと頭を押しつけた。
「ははっ、お前も頑張ったもんな」
ログが笑う。
その様子を見ていたレテも、小さく微笑んだ。
一方、アーヴェルの足元では、鉄の甲羅を持つ亀の精霊が静かに佇んでいた。
鉄で覆われた身体は重厚でありながら、不思議と威圧感はない。
主人の一歩後ろを、ゆっくりと歩いている。
「玄甲」
アーヴェルが名を呼ぶ。
玄甲は短く首を上げると、そのまま主人の隣へ寄り添った。
四人と四体の精霊。
それはガイストでは、ごく当たり前の光景だった。
精霊は兵器ではない。
道具でもない。
契約者の傍らで共に歩み、時に力を貸し、時に寄り添う。
互いを信頼する、大切な家族だった。
「行くぞ」
アーヴェルが低く告げる。
「はい」
レテが頷く。
「了解です、隊長」
ログも表情を引き締めた。
「承知しました」
ユノもキュウを優しく抱き直す。
四人は精霊たちと共に、鉄と煙の国・ヴォルグへ足を踏み入れた。




