守護者
二体のフェルギアが、同時に武器を構えた。
巨大な盾を持つ一体が前へ出る。
その後ろでは、大斧を握った一体が刃を高く振り上げていた。
「侵入者確認」
「AETHERへの接近を禁止します」
「排除を開始します」
「悪いけど――」
アルトは《砕》を両手で握り、腰を低く落とした。
「そこを通してもらうぞ」
盾を持ったフェルギアが、床を踏み鳴らしながら突進してくる。
ドンッ!
巨体が一歩踏み出すたびに、足元の鉄板が大きく揺れた。
「真正面からかよ!」
アルトは横へ跳ぶ。
だが、巨大な盾はアルトを追うように向きを変えた。
「なっ――」
避けきれない。
アルトは《砕》を盾の表面へ突き立て、両腕に力を込める。
ガァンッ!
「ぐっ……!」
衝撃を受け流そうとする。
しかし、巨体の勢いを殺しきれず、そのまま後方へ押し込まれた。
靴底が鉄の床を削る。
「重すぎるだろ……!」
盾の隙間から、赤い瞳がアルトを見下ろす。
「対象の抵抗を確認」
「圧殺します」
「冗談じゃない!」
アルトは身体を低く沈め、《砕》を盾の下へ滑り込ませた。
「砕衝!」
下から跳ね上げるように振り抜く。
ガンッ!
盾がわずかに浮き上がった。
「今だ!」
アルトは盾の横をすり抜ける。
その瞬間。
頭上から風を切る音が迫った。
「っ!」
大斧が振り下ろされる。
アルトは前へ飛び込み、床を転がった。
ズドォンッ!
巨大な刃が鉄板へ食い込み、周囲の床が大きく陥没する。
「当たったら終わりだな……」
アルトはすぐに立ち上がり、《砕》を構え直した。
二体はこれまで戦ったフェルギアよりも、明らかに連携が取れている。
盾を持つ一体が攻撃を受け止める。
そして、その隙に大斧を持つ一体が仕留める。
「先に盾をどうにかしないと……」
アルトは盾のフェルギアへ向かって駆け出した。
「砕閃!」
横薙ぎの一撃を、盾の側面へ叩き込む。
ガァンッ!
フェルギアの腕が、わずかに外側へ開いた。
「もう一発!」
同じ場所へ二撃目を打ち込む。
ガンッ!
さらに三撃目。
「これで――」
「攻撃を予測」
「えっ――」
盾を持つ腕が勢いよく引かれた。
次の瞬間。
巨大な盾そのものが、横殴りに振るわれる。
「ぐあっ!」
アルトの身体が弾き飛ばされた。
背中から床へ叩きつけられ、そのまま何度も転がる。
「くっ……!」
肺から空気が抜ける。
起き上がろうとしたところへ、大斧を持ったフェルギアが迫った。
「対象の動作低下を確認」
「排除します」
巨大な刃が振り上げられる。
「まだだ!」
アルトは《砕》を床へ突き立て、無理やり身体を起こした。
振り下ろされる直前に横へ跳ぶ。
刃が服の端を切り裂いた。
「危なっ……!」
アルトは大斧の柄へ《砕》を引っかける。
両腕へ力を込め、身体ごと回転した。
「砕円!」
大斧の軌道が、強引に横へ逸れる。
その先にいたのは、盾を持つフェルギアだった。
「防御行動へ移行」
巨大な盾が持ち上がる。
ガァァンッ!
大斧と盾が激突し、耳をつんざくような金属音が響いた。
二体の動きが、わずかに止まる。
「今だ!」
アルトは盾のフェルギアの懐へ潜り込んだ。
狙うのは、盾を支えている肩の接合部。
「砕牙!」
《砕》の先端が、装甲の隙間へ突き刺さる。
バギィッ!
「右腕部に異常」
「盾保持能力低下」
巨大な盾が大きく傾いた。
「まだだ!」
アルトは《砕》を引き抜き、同じ場所へもう一度叩き込む。
ガンッ!
接合部が弾け飛んだ。
支えを失った盾が、床へ落下する。
ドォンッ!
「防御機構、喪失」
「よし!」
アルトが追撃しようとした瞬間。
背後から、大斧が迫る。
「くっ!」
振り返り、《砕》で受け止めた。
ガァンッ!
両腕に痺れるような衝撃が走る。
「重っ……!」
大斧のフェルギアは、そのまま力任せに押し込んできた。
アルトの膝が沈む。
視界の端では、盾を失ったフェルギアが拳を振り上げている。
このままでは挟まれる。
「くそ……!」
一瞬だけ。
アルトの頭に、別の戦い方が浮かんだ。
だが。
「……いや」
小さく首を振る。
「これでやる」
アルトは大斧を受け止めたまま、突然腕の力を抜いた。
「対象の抵抗が――」
支えを失った大斧が、勢い余って床へ落ちる。
アルトは身体を捻り、刃の横を滑り抜けた。
そのままフェルギアの腕へ飛び乗る。
「砕天!」
跳び上がった勢いを乗せ、《砕》を頭部へ叩きつけた。
ゴォンッ!
頭部装甲が大きくへこんだ。
「視覚機構に異常」
赤い瞳が激しく明滅する。
アルトは着地すると、間を置かず膝関節へ《砕》を振るった。
「砕閃!」
ガキィンッ!
一撃。
さらに同じ場所へ二撃目。
バキィッ!
大斧を持ったフェルギアが片膝をつく。
その直後。
盾を失ったフェルギアが、アルトへ拳を振り下ろした。
「遅い!」
アルトは横へ飛ぶ。
鋼鉄の拳はアルトを外れ、片膝をついた仲間の頭部へ直撃した。
ドゴォンッ!
「誤射を確認」
「頭部損傷拡大」
「仲間同士で壊し合ってろ!」
アルトは《砕》を両手で握り、大斧のフェルギアへ飛び込んだ。
「砕衝!」
へこんだ頭部へ、全力の一撃を叩き込む。
バギィンッ!
頭部装甲が砕け、赤い光が消えた。
「動作……停止……」
大斧を持ったフェルギアが、ゆっくりと前へ倒れる。
ドォンッ!
「残り一体!」
盾を失ったフェルギアが、両拳を構えた。
「戦闘継続」
「対象を排除します」
「させるかよ!」
アルトは正面から駆け出す。
右の拳が迫る。
身体を低く沈めてかわす。
続けて左の拳。
《砕》で横へ受け流す。
そのまま背後へ回り込み、壊した肩関節へ鋭い突きを放った。
「砕牙!」
バキィッ!
右腕が力なく垂れ下がる。
「右腕部、機能停止」
フェルギアは残った左腕を振り上げた。
アルトは逃げず、さらに懐へ踏み込む。
「これで――」
《砕》を大きく振りかぶった。
「終わりだ!」
「砕衝!」
全身の力を込めた一撃が、胸部装甲へ叩き込まれる。
ドゴォンッ!
分厚い装甲がへこんだ。
だが。
「損傷軽微」
「まだ動くのかよ!」
フェルギアの左手が、アルトの肩を掴んだ。
「っ!」
巨大な鉄の指が食い込む。
アルトの身体が、軽々と持ち上げられた。
「対象を拘束」
「圧壊処理へ移行」
「ぐっ……!」
握る力が強くなっていく。
肩の骨が軋み、激痛が走った。
「離せ……!」
アルトは苦悶の表情を浮かべながら、《砕》を片手で握り直した。
狙うのは胸部ではない。
首でもない。
壊した右肩の隙間から、内部へ伸びている細い配線。
「届かせろ……!」
身体を大きく振り、《砕》の先端を装甲の隙間へ突き入れた。
「砕牙!」
バチィンッ!
青白い火花が激しく散る。
「内部伝達機構に異常」
アルトを掴んでいた左手の力が緩んだ。
「今だ!」
床へ落ちたアルトは、着地と同時に踏み込む。
腰を深く落とし、《砕》を両手で握った。
「砕衝!」
最後の一撃が、先ほどへこませた胸部へ叩き込まれる。
バギィンッ!
装甲が砕け、内部の機構が露出した。
「致命的損傷」
「動作……停止……」
フェルギアの赤い瞳が消える。
巨体が後方へ傾き、巨大な扉の前へ倒れ込んだ。
ドォンッ!
「はぁ……はぁ……」
アルトは《砕》を床へ突き立て、どうにか立っていた。
全身が痛む。
掴まれた肩は痺れ、呼吸も整わない。
それでも。
目の前を塞ぐものは、もういない。
「やっと……終わった」
アルトはゆっくりと顔を上げる。
そこには、工場中から伸びる無数の配管が繋がった、巨大な扉が立ちはだかっていた。




