兄弟
「いやよぉ。俺も助けてやりてぇとこだけど――」
金髪の男は、アルトを抱き締めたまま鼻をすすった。
「俺には俺で、やることもあるしよぉ!」
「ぐっ……。」
アルトの身体が、さらに締めつけられる。
「わ、分かった……分かったから離せ……!」
「おぉ、悪りぃ悪りぃ!」
男はようやく腕を緩め、アルトを解放した。
「つい感動しちまってな!」
「危うく感動で殺されるところだったぞ……。」
アルトは痛む肩と脇腹を押さえながら、男から距離を取る。
見た目も言動も、どう考えても信用できない。
だが、少なくとも今すぐ襲ってくる気はなさそうだった。
男は腕を組み、難しそうな顔で唸り始める。
「おらぁー……んー、そうだなぁ。」
「何を考えてるんだ?」
「名前だよ、名前!」
男は自分の胸を親指で指した。
「ライだ!」
そして、満面の笑みを浮かべる。
「よろしくな、兄弟!」
「……兄弟?」
アルトは眉をひそめた。
「おう!」
ライは当然のように頷く。
「オメェ、いい奴だからなぁ!」
「いい奴だったら兄弟になるのかよ……。」
「細けぇことは気にすんな!」
ライは豪快に笑い、アルトの肩へ腕を回そうとする。
アルトは即座に半歩下がってかわした。
「もう抱き締めなくていいからな。」
「なんでだよ! 兄弟だろ!」
「いつ兄弟になったんだよ!」
「今だ!」
「勝手に決めるな!」
ライは腹を抱えて笑った。
「ガッハハハ! 面白ぇ奴だなぁ!」
ひとしきり笑ったあと、ライはアルトの顔を覗き込む。
「んで、兄弟。」
「名前を教えてくれよ!」
「兄弟はやめろ。」
「じゃあ、名前を教えてくれよ、兄弟!」
「聞いてないだろ……。」
アルトは深いため息をつく。
「……アルト。」
「アルト!」
ライの顔が一気に明るくなる。
「いい名前だなぁ!」
「そうか?」
「おう! 短くて覚えやすい!」
「褒めるところ、そこなのかよ……。」
ライは再び豪快に笑う。
氷漬けの兵士たちに囲まれた部屋の中で、その笑い声だけがやけに大きく響いていた。




