今なんつった?
「いや……。」
アルトは困惑しながらも、《砕》を下ろさない。
「お前が急に後ろから声をかけてきたんだろ。」
「あぁ!? 口答えしてんじゃねぇぞ!」
「会話が通じない奴だな……。」
「あぁぁん!?」
男の額に青筋が浮かぶ。
アルトは小さく息を吐き、凍りついた部屋へ視線を向けた。
「……これ、お前がやったのか?」
「あー?」
男も氷漬けにされた兵士たちを見る。
そして、挑発するように口元を吊り上げた。
「だったら、なんだって言うんだよ?」
その顔は、今にも襲いかかってきそうなほど凶悪だった。
アルトは男と氷漬けの兵士たちを交互に見る。
「いや。」
《砕》をわずかに下ろした。
「別に、どうでもいいんだけどさ。」
「……あぁ?」
男の笑みが固まる。
「オメェ、仲間がやられて敵討ちってわけじゃねぇのかよ?」
「仲間じゃねぇよ。」
アルトは即座に答えた。
「俺はヴォルグの人間じゃない。」
「じゃあ、こんな所で何してやがる。」
「精霊を探してる。」
「あぁ?」
「俺は、ここに捕まってる精霊を助けたいんだ。」
「……。」
男の動きが止まった。
先ほどまでの威圧的な表情が消えている。
「オメェ……。」
低い声が漏れた。
「今、なんつった……?」
部屋の空気が変わる。
男の鋭い目が、真っ直ぐアルトへ向けられていた。
ふざけている様子はない。
先ほどまでの軽薄な態度とは、まるで別人だった。
アルトは《砕》を握り直す。
「精霊を助け――」
最後まで言い切ることはできなかった。
男の姿が視界から消える。
「なっ――」
次の瞬間には、目の前にいた。
反応する暇さえない。
「くっ!」
アルトは《砕》を構えようとする。
しかし、その前に両腕ごと男に抱え込まれた。
「しまっ――」
アルトは身体を捻り、拘束から抜け出そうとする。
だが、男の腕はびくともしない。
凄まじい力だった。
「精霊を助けるって、オメェ……。」
男の腕に力がこもる。
ぎゅううううっ、と締め上げられ、アルトの身体が軋んだ。
「ぐっ……!」
(まずい……!)
このままでは折られる。
アルトが《砕》を握り直そうとした、その時。
「オメェ……!」
男の声が震えた。
「……え?」
アルトは動きを止める。
男の目から、大粒の涙が流れ落ちていた。
「めっちゃいい奴じゃねぇがぁぁぁぁ!」
男はアルトを強く抱き締めたまま、子どものように号泣し始める。
「精霊を助けるなんてよぉぉぉ!」
「今どき、そんなこと言う奴がいるのかよぉぉぉ!」
「お、俺は……俺は感動したぞ、この野郎ぉぉぉ!」
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、さらに腕へ力を込める。
「ぐえっ!」
アルトの身体から、変な声が漏れた。
「苦しい! 苦しいって!」
「オメェ、最高だよぉぉぉ!」
「分かったから離せ!」
「俺ぁ、オメェみたいな奴を待ってたんだよぉぉぉ!」
「えぇぇぇ……。」
氷漬けになった兵士たちに囲まれながら。
アルトは、号泣する金髪の男に抱き締められたまま、ただ困惑することしかできなかった。




