氷漬けの部屋
外れた格子とともに、アルトの身体が通気口から滑り落ちた。
「うわっ!」
咄嗟に受け身を取り、凍りついた床の上を転がる。
「いってぇ……。」
打ちつけた肩を押さえながら立ち上がり、顔を上げる。
「……なんだ、これ。」
部屋中が氷に覆われていた。
床も。
壁も。
天井を走る太い配管も。
机や工具、動きを止めた機械までもが、分厚い氷の中へ閉じ込められている。
天井から落ちた水滴は、床へ届く前に凍りついていた。
吐き出した息が白く染まる。
「そりゃ、寒いわけだ……。」
アルトは両腕を擦りながら、部屋の中を見渡した。
「……っ!」
その視線が、一体のフェルギアで止まる。
大剣を振り上げた姿勢のまま、全身を氷に包まれていた。
赤い瞳から光は失われ、完全に動きを止めている。
しかし、凍らされていたのはフェルギアだけではない。
その周囲には、何人もの兵士が立っていた。
逃げようと腕を伸ばした者。
武器を構えた者。
何かを叫ぼうと、大きく口を開けた者。
誰もが苦悶の表情を浮かべたまま、氷の中へ閉じ込められている。
「……。」
アルトは何も言えず、その光景を見つめた。
ただ寒さに襲われたわけではない。
誰かが、意図的にこの部屋を凍らせた。
しかも、フェルギアと兵士たちが反撃する間もなく。
アルトは《砕》を握り直す。
視線を巡らせ、周囲を警戒した。
氷が軋む音。
機械が止まった部屋に響く、自分の呼吸。
それ以外の物音は聞こえない。
人の気配も感じない。
それでも、この惨状を生み出した何者かが近くにいる。
そう考えた、その瞬間だった。
「やいやい!」
「っ!」
突然、背後から大声が響いた。
「オメェ、ナニモンだこの野郎!」
アルトは反射的に前へ飛ぶ。
凍った床を滑りながら距離を取り、すぐさま振り返って《砕》を構えた。
(いつの間に……!)
背後も警戒していたはずだ。
誰かが近づいてくれば、足音くらい聞こえる。
だが、男は最初からそこに立っていたかのような顔をしていた。
派手な金髪。
人を威嚇するような鋭い目つき。
着崩した服に、いかにも柄の悪そうな立ち姿。
どう見てもまともな軍人には見えない。
「あぁぁん!?」
金髪の男が顔を歪め、アルトへ詰め寄る。
「何ガン飛ばしてんだコラァ!」
アルトは《砕》を構えたまま、目の前の男を睨み返した。




