細い通気口②
アルトは、細い通気口の中を這うように進んでいた。
肩が壁にぶつかるたび、鈍い音が響く。
身体を少し動かすだけでも、鉄板がギシギシと軋んだ。
「くそ……。」
額から流れた汗が、頬を伝う。
「レテ達は、ちゃんと潜入できたのかよ……。」
自分たちが起こした騒ぎは、すでに施設中へ広がっている。
警備も、先ほどまでとは比べものにならないほど厳しくなっているはずだ。
もし。
自分たちのせいで、レテたちまで見つかっていたら。
もし、すでに捕まっていたら――。
「……。」
嫌な想像が頭をよぎる。
アルトはすぐに首を横へ振った。
「いや。」
「アーヴェル隊長もいるんだ。」
あの人なら、何があっても冷静に判断する。
レテやログも、簡単に捕まるような奴らではない。
「きっと大丈夫だ。」
そう自分に言い聞かせ、再び前へ進む。
だが、頭に浮かぶのはレテたちのことだけではなかった。
「それにしても、ガオンの奴……。」
アルトは眉をひそめる。
「馬鹿のくせに、簡単に寝やがって。」
眠らされたガオンの姿を思い出し、奥歯を噛み締める。
「ああいうのって、馬鹿には効かないのが相場なんじゃないのかよ……。」
返事はない。
当然だ。
今、この狭い通気口にいるのはアルト一人だけなのだから。
「絶対助けるからな……。」
小さく呟き、さらに奥へ進む。
その時だった。
「……ん?」
アルトの手が止まる。
何かがおかしい。
先ほどまで、鉄板は触れるのも嫌になるほど熱かった。
工場内の機械から発せられる熱が、通気口の中にまでこもっていたからだ。
だが今は、違う。
「冷えてきてる……?」
手のひらから伝わる感触が、急速に変わっていく。
温かいどころではない。
むしろ――。
「冷たっ!?」
アルトは反射的に手を離した。
鉄板が凍りついたように冷たい。
少し長く触れていれば、皮膚がそのまま張りついてしまいそうだった。
「何だよ、これ……!」
吐く息が白く染まる。
通気口の内側には薄い霜が生まれ、少しずつ範囲を広げていた。
冷気は、前方から流れてきている。
「さ、寒っ……!」
アルトは両腕で身体を抱き締める。
薄い服越しに、冷たさが容赦なく肌へ突き刺さる。
「ひぃぃぃぃっ!」
あまりの寒さに情けない声が漏れた。
「無理無理無理!」
「このままじゃ本当に凍る!」
アルトは慌てて前へ進み始める。
先ほどまでの慎重さは完全に消えていた。
肘と膝を鉄板へぶつけながら、必死に出口を探す。
「いでっ!」
肘を強く打ちつける。
「いでででっ!」
今度は頭を天井へぶつけた。
「何でこんな狭いんだよ!」
涙目になりながら、それでも止まらず這い続ける。
すると。
「あっ!」
通気口の先に、微かな光が見えた。
「あれだ!」
薄暗い格子の隙間から、白い光が漏れている。
アルトは一気にそこまで進み、格子へ顔を近づけた。
だが、冷気で金属が凍りつき、簡単には外れそうにない。
「開け!」
拳で格子を殴る。
ガンッ!
びくともしない。
「くそっ!」
もう一度。
ガンッ!
「開けって!」
さらに拳を叩き込む。
ガァンッ!
金属が大きく歪み、固定具が外れた。
「よし!」
アルトは最後に渾身の力で拳を振り抜く。
「開けぇっ!」
バキィンッ!
格子が外れ、下へ落ちていく。
アルトは勢いのまま、開いた穴から外へ飛び出した。




