細い通気口
白銀の機体がアルトへ迫る。
ガコン!
ガコン!
巨大な足音が、工場内に響き渡った。
「あなたにも興味があります。」
ドクターは操縦席からアルトを見下ろす。
「精霊の声を聞いているようでしたねぇ?」
「んー! 逃がしたくありません!」
四本の腕のうち、二本はガオンを拘束したまま。
残る二本が、アルトを捕らえようと伸びてくる。
「っ!」
アルトは横へ飛んだ。
巨大な鉄の指が、背後の壁を砕く。
「待ちなさい!」
「少し調べるだけですよぉ!」
「誰が待つか!」
アルトは通路を走り出した。
後方から、白銀の機体が追ってくる。
「侵入者逃走。」
「隔壁を閉鎖します。」
施設内に無機質な声が響く。
アルトの正面で、分厚い鉄扉が降り始めた。
「間に合え!」
床を蹴り、閉じる寸前の隙間へ身体を滑り込ませる。
直後。
鉄扉が轟音とともに閉じた。
「はぁ……はぁ……。」
アルトは立ち止まらない。
右。
左。
さらに奥へ。
工場内部は複雑に入り組み、どこを走っているのかも分からない。
背後からは、警報音と兵士たちの声が迫ってくる。
「侵入者を探せ!」
「遠くには行っていない!」
「全通路を封鎖しろ!」
「くそっ……!」
このままでは追いつかれる。
角を曲がった先は、行き止まりだった。
「嘘だろ……!」
左右には鉄の壁。
前にも逃げ道はない。
振り返れば、兵士たちの足音が近づいている。
「いたぞ!」
「奥だ!」
アルトは壁に手をつき、必死に周囲を見回す。
その時だった。
「……風?」
頬に、微かな風が触れた。
顔を上げる。
壁の高い位置に、小さな通気口があった。
人一人が、どうにか通れるほどの細い穴。
「ここしかない!」
アルトは壁の配管へ足をかけ、一気によじ登る。
通気口を塞ぐ格子へ《砕》を差し込んだ。
「砕牙!」
バキィッ!
格子が外れ、暗い通気口の奥へ落ちていく。
「上だ!」
「止まれ!」
衛兵たちが角を曲がってくる。
「止まれるかよ!」
アルトは通気口へ身体を滑り込ませた。
直後、槍の穂先が足元をかすめる。
「くっ!」
狭い通気口の中を、必死に這って進む。
「追え!」
「無理です! 狭すぎます!」
「出口を探せ!」
背後から衛兵たちの声が聞こえる。
アルトは振り返らず、暗闇の中を進み続けた。
鉄板は熱く、身体を動かすたびに大きな音が響く。
「はぁ……はぁ……。」
やがて、兵士たちの声が遠ざかっていった。
アルトはその場で動きを止める。
狭い通気口の中で、荒い呼吸を繰り返した。
「ガオン……。」
助けに戻りたい。
今すぐにでも。
だが、戻ったところで今の自分では、あの専用機には勝てない。
拳を強く握る。
「絶対に助ける。」
暗闇の中で、静かに呟いた。
「精霊も……ガオンも。」
その時。
通気口のさらに奥から、かすかな声が聞こえてきた。
――こっち。
――お願い。
――早く。
アルトが顔を上げる。
「精霊の声……。」
声は、通気口の先から聞こえている。
アルトは《砕》を握り直した。
「待ってろ。」
そして再び、暗く細い通気口の奥へ進み始めた。




