やはり温い
第三編 獅子座に選ばれた男
「星詠み!?」
ドクターの声が工場内に響き渡る。
驚きは、すぐに興奮へと変わった。
「んー!」
「実に面白い!」
「星から直接力を授かる、選ばれた人間!」
ドクターは操縦席の計器を激しく操作する。
「まさか、この場所で星詠みに出会えるとは!」
「今日という日は、なんと素晴らしい日なのでしょう!」
「うるせぇ奴だな。」
ガオンは拳を鳴らしながら、白銀の機体を睨みつける。
「だったら、星詠みの力をその身体で確かめやがれ!」
身体から熱気を噴き上げ、床を蹴った。
「獅子拳!」
熱を帯びた拳が、白銀の機体の顔面へ叩き込まれる。
ガァンッ!
続けて腹部へ膝を突き刺す。
さらに身体を回転させ、脇腹へ回し蹴りを放った。
ドゴォッ!
白銀の機体が数歩後退する。
「どうだ!」
「んー。」
ドクターは装甲の状態を確認する。
「話に聞くほどの力ではありませんねぇ?」
ガオンの眉がぴくりと動いた。
「何だと?」
「確かに熱量は興味深い。」
「身体能力の上昇も確認できる。」
「ですが……。」
ドクターはいやらしく口元を歪めた。
「この程度なのですかぁ?」
「あなた……本当に星詠みですかぁ?」
「……。」
ガオンは何も答えなかった。
俯いたまま、両の拳を強く握る。
「ガオン……?」
アルトが不安そうに名前を呼ぶ。
次の瞬間。
ガオンの周囲の温度が、一気に上昇した。
床に落ちていた金属片が赤く染まり始める。
肌は熱を帯び、全身から白い蒸気が立ち上る。
「おや?」
ドクターはさらに目を輝かせる。
「熱量が上昇している!」
「んー! 素晴らしい!」
ガオンはゆっくりと顔を上げた。
額には青筋が浮かび、目には激しい怒りが宿っている。
「俺は――」
熱気が爆発する。
「獅子座に選ばれた!」
床を強く踏みしめる。
「ガオン・レオニス様だ!」
「なっ……!」
アルトが目を見開いた。
ドクターも一瞬だけ言葉を失う。
「レオニスって……。」
アルトは驚いたまま、ガオンを見つめる。
「ルミナスの王族じゃ……。」
「んふふふ……。」
沈黙を破ったのは、ドクターの笑い声だった。
「なるほど。」
「レオニス王家の人間でしたか。」
「それならば、その身体能力にも納得がいきます。」
「うるせぇ!」
「だが――」
ドクターは笑みを深める。
「やはり、あなたは星詠みではありませんねぇ。」
「あぁ?」
ガオンの声が低くなる。
「獅子座に選ばれた星詠みは、ルミナスの現国王のはずです。」
「……。」
「星が同時に二人を選ぶなど、聞いたことがありません。」
ドクターはわざとらしく首を傾げた。
「それとも……。」
「王族を追われた腹いせに、星詠みを名乗っているだけですかぁ?」
周囲の空気が止まった。
ガオンの身体から立ち上る熱気が、さらに激しくなる。
「……ガオン。」
アルトが声をかける。
だが、その声は届いていなかった。
「俺が選ばれるんだから……。」
ガオンが低く呟く。
「んなことぁ――」
次の瞬間、床を蹴った。
「どうでもいいんだよぉぉぉっ!」
ガオンの身体が、炎のように白銀の機体へ迫る。
全身の熱が右腕へと集中していく。
拳の周囲で空気が歪み、触れてもいない床が赤く焼けていく。
「んー!」
ドクターは逃げるどころか、興奮した様子で両腕を広げた。
「来なさい!」
「あなたの全力を見せてください!」
「これが俺の――」
ガオンは拳を大きく振りかぶる。
「獅子咆天拳ッ!」
渾身の一撃が、白銀の機体の胸部へ叩き込まれた。
ドゴォォォォンッ!
爆発にも似た轟音が、工場全体を揺らす。
熱風が吹き荒れ、アルトは腕で顔を覆った。
白銀の機体の足元が砕ける。
巨体が大きく後方へ押し込まれ、床を削りながら止まった。
胸部装甲が赤く焼け、拳の形をした大きなへこみが刻まれている。
「はぁ……はぁ……。」
ガオンは拳を突き出した姿勢のまま、荒い息を吐く。
白銀の機体は動かない。
「やったのか……?」
アルトが煙の向こうを見つめる。
少しずつ煙が晴れていく。
赤く焼けた装甲。
深くへこんだ胸部。
だが。
白銀の機体は、ゆっくりと姿勢を戻した。
「……これだけ!?」
ガオンが目を見開く。
確かに先ほどまでの攻撃よりは効いている。
だが、期待したほどの損傷ではない。
内部には届いていなかった。
「んー。」
操縦席から、落胆したような声が聞こえる。
「先ほどよりは、多少強いですねぇ。」
白銀の機体の赤い瞳が、再び灯った。
「ですが……。」
ドクターはつまらなそうに首を傾げる。
「んー。」
「やはり温い。」
「……っ!」
ガオンが拳を構え直す。
その瞬間。
白銀の機体の四本の腕が、一斉に振り上げられた。
「ガオン!」
アルトの叫びと同時に。
四本の鋼鉄の腕が、ガオンへ向かって振り下ろされた。




