偉大な発明
白銀の機体は、先ほどのフェルギアよりも一回り大きかった。
細長い胴体。
左右に伸びた四本の腕。
背部には無数の管が繋がれ、その内部を紫色の液体が脈打つように流れている。
胸部の中央には、巨大な透明容器が埋め込まれていた。
その中では、いくつもの光が苦しそうに揺れている。
――痛い。
――助けて。
――ここから出して。
「……精霊。」
アルトの瞳が大きく見開かれる。
あの機体には、一体ではない。
何体もの精霊が閉じ込められていた。
「お前……!」
白銀の機体の頭部が開く。
内部から姿を見せたのは、白衣を着た一人の男だった。
ドクター・ヴェルナー。
フェルギアを生み出した研究者。
「おやおや。」
ドクターは倒れたフェルギアたちを見回し、楽しそうに笑った。
「私の可愛いフェルギアを、ずいぶん壊してくださいましたねぇ!」
「お前が、こいつらを作ったのか。」
アルトの低い声に、ドクターは両腕を大きく広げる。
「ええ! ええ!」
「精霊と機械の完璧な融合!」
「これこそ私の偉大なる発明です!」
「ふざけるな!」
アルトは《砕》を強く握り締める。
「精霊をこんな物に閉じ込めて、何が完璧だ!」
「んー?」
ドクターは不思議そうに首を傾げた。
「使われずに消えていくより、よほど有意義ではありませんか?」
「精霊は部品じゃない!」
アルトの叫びが、工場内に響く。
ドクターは一瞬だけ目を丸くした。
そして、嬉しそうに口元を歪める。
「んー! その反応!」
「あなたも実に興味深いですねぇ!」
白銀の機体の四本の腕が、ゆっくりと持ち上がる。
「ですが、まずは――」
ドクターの視線がガオンへ向けられた。
「そちらの熱い方から、調べてみましょう!」
「来るぞ、ガオン!」
「任せろ!」
ガオンが前へ飛び出した。
白銀の機体の腕が、鞭のようにしなって迫る。
ガオンは身を低くしてかわし、そのまま機体の懐へ飛び込んだ。
「獅子拳!」
熱を帯びた拳が、機体の腹部へ突き刺さる。
ゴォンッ!
重い音が響いた。
だが、機体は一歩も下がらない。
「なにっ!」
別の腕が横から迫る。
「ぐあっ!」
脇腹を殴られ、ガオンの身体が勢いよく吹き飛ばされた。
床を何度も転がり、壁際で止まる。
「ガオン!」
「来るな!」
ガオンは片膝をついたまま叫ぶ。
「こいつは俺がやる!」
「でも――」
「精霊を探せ!」
ガオンは口元の血を拭いながら立ち上がる。
「あいつらを助けに来たんだろ!」
「……分かった。」
アルトは胸部の透明容器へ目を向ける。
助けを求める精霊たちの声は、今も絶えず響いている。
だが、白銀の機体を倒さなければ、近づくことすらできない。
「すぐに終わらせろよ!」
「誰に言ってんだ!」
ガオンは再び駆け出した。
身体から熱気が立ち上り、周囲の空気が歪んでいく。
「獅子連牙!」
左右の拳を連続で叩き込む。
ドドドドドッ!
胸部。
腹部。
肩。
脇腹。
熱を帯びた拳が、白銀の装甲へ何度も突き刺さる。
「おらおらおらぁっ!」
最後の一撃で、機体の頭部を殴り上げる。
ガァンッ!
白銀の機体が、わずかに身体を揺らした。
しかし。
「損傷率、三パーセント。」
「各部、異常なし。」
機体から無機質な声が響く。
「三パーセントだぁ?」
ガオンが顔をしかめる。
「随分と頑丈にできてやがるな。」
「んー?」
ドクターは操縦席から身を乗り出すようにして、ガオンを見つめていた。
「熱ですか!?」
目を輝かせながら、機体の計器を操作する。
「んー! なかなか面白い!」
白銀の機体が拳を振るう。
ガオンは腕を交差させて受け止めた。
「ぐっ!」
衝撃で足元の鉄板が大きくへこむ。
「それに、精霊術師とは違う術の使い方……。」
ドクターは興奮した様子で計器を見つめる。
「霊素の流れが、精霊術師のものとはまるで違う!」
「んー! 気になる!」
「実に気になりますねぇ!」
「人を勝手に調べてんじゃねぇ!」
ガオンは白銀の腕を押し返し、懐へ潜り込む。
身体の熱を右拳へ集める。
「獅子砕牙!」
強烈な正拳突きが、機体の胸部へ直撃した。
ドゴォンッ!
衝撃で白銀の機体が一歩後退する。
胸部装甲には、拳の形をしたへこみが残っていた。
「どうだ!」
「んー。」
ドクターは装甲の損傷を確認しながら、楽しそうに笑う。
「実に興味深い。」
白銀の腕が、ガオンへ伸びる。
ガオンは身体を捻ってかわし、もう一度拳を叩き込む。
「獅子拳!」
ゴォンッ!
さらに蹴りを放ち、機体の脇腹へ直撃させる。
ガァンッ!
だが、白銀の機体はほとんど怯まない。
逆に四本の腕が、四方向から一斉に襲いかかる。
「ちっ!」
一本目をかわす。
二本目を腕で弾く。
三本目を身体を反らして避ける。
だが、四本目がガオンの腹部へ直撃した。
「がはっ!」
身体が宙へ浮き、そのまま床へ叩きつけられる。
「ガオン!」
アルトが駆け寄ろうとする。
だが、ガオンは床へ手をつき、すぐに立ち上がった。
「来んなって言ったろ。」
「でも、お前……。」
「まだ終わってねぇ。」
ガオンは口元を拭い、白銀の機体を見上げる。
自分の攻撃を何度受けても、ほとんどダメージを受けていない。
それでも。
ガオンは笑った。
「へぇ……。」
周囲の空気が、さらに熱くなる。
「こんだけ殴って立ってる奴は久しぶりだ。」
「おや?」
ドクターが首を傾げる。
ガオンは拳で自らの胸を叩いた。
「よく覚えとけ。」
身体から立ち上る熱気が、激しく揺らめく。
「俺は星詠みだ。」
「星詠み!?」
ドクターの目が大きく見開かれた。




