鋼鉄の兵士
第一編 鋼鉄の兵士
ガコン……。
ガコン……。
重く鈍い駆動音が、薄暗い通路の奥から響いてくる。
倒れた衛兵たちの表情が、一斉に強張った。
「来た……。」
「フェルギア部隊だ!」
暗闇の中で、一つ、また一つと赤い光が灯る。
やがて姿を現したのは、五体の鋼鉄人形だった。
人間よりも一回り大きな身体。
全身を覆う分厚い装甲。
その手には、巨大な剣や盾が握られている。
「目標確認。」
「侵入者を排除します。」
感情のない声が重なった。
「こいつらが……フェルギア。」
アルトは鉄の棒《砕》を構える。
見た目は、ただの大きな人形。
だが、あの中には精霊が閉じ込められている。
――助けて。
――苦しい。
――痛いよ。
弱々しい声が、アルトの頭の中へ流れ込んでくる。
「……待ってろ。」
《砕》を握る手に力が入る。
「必ず助ける。」
次の瞬間。
五体のフェルギアが一斉に駆け出した。
「速い!」
見た目からは想像できない速度だった。
一体が巨大な剣を振り上げ、アルトへ叩きつける。
アルトは横へ飛び、紙一重で回避した。
ズドォンッ!
大剣が床へ食い込み、鉄板が大きくへこむ。
その隙にアルトは懐へ潜り込んだ。
「はぁっ!」
《砕》を横薙ぎに振り抜く。
ガァンッ!
甲高い金属音が通路に響いた。
しかし、フェルギアはわずかに身体を揺らしただけだった。
「硬っ……!」
直後、鋼鉄の拳が迫る。
アルトは《砕》を盾のように構えた。
ドゴォッ!
「ぐっ!」
防いだはずなのに、身体ごと後方へ吹き飛ばされる。
床を何度も転がり、壁際でようやく止まった。
「アルト!」
「平気だ!」
アルトはすぐに立ち上がる。
その横では、別のフェルギアがガオンへ大剣を振り下ろしていた。
「遅ぇ!」
ガオンは一歩踏み込み、刃を横から殴りつける。
ガァンッ!
大剣の軌道が逸れ、床へ突き刺さる。
ガオンはそのまま拳を引いた。
身体から熱気が立ち上り、周囲の空気が歪んでいく。
「獅子拳!」
熱を帯びた拳が、フェルギアの胸部へ叩き込まれた。
ゴォンッ!
巨体が数歩後退する。
胸部装甲には拳の跡が残り、わずかに赤く変色していた。
だが。
「損傷軽微。」
「戦闘続行。」
フェルギアはすぐに剣を構え直した。
「おいおい。」
ガオンが口元を吊り上げる。
「鉄人形のくせに、ずいぶん頑丈じゃねぇか。」
「ガオン! 油断するな!」
左右から二体のフェルギアが襲いかかる。
ガオンは一体の拳をかわし、もう一体の剣を腕で受け止めた。
「ぐっ……!」
足元の鉄板が軋む。
「重てぇな!」
ガオンは力任せに剣を押し返し、そのままフェルギアの脇腹へ蹴りを叩き込んだ。
だが、巨体は少し揺れただけだった。
一方、アルトも二体を相手にしていた。
大剣をかわし、盾の側面を《砕》で打つ。
ガンッ!
すぐに背後へ回り込み、膝関節を狙う。
「砕閃!」
低い姿勢から放たれた横薙ぎが、フェルギアの膝を捉えた。
ガキィンッ!
装甲の表面に、細い傷が刻まれる。
「まだだ!」
同じ場所へ二撃目。
ガンッ!
三撃目。
バキィッ!
関節部分が歪み、フェルギアが片膝をついた。
「駆動部損傷。」
「姿勢制御に異常。」
「装甲じゃなく、関節を狙えば通る!」
アルトが叫ぶ。
「細けぇことは任せた!」
ガオンはフェルギアの懐へ飛び込んだ。
熱を帯びた拳を左右から連続で叩き込む。
「獅子連牙!」
ドドドドドッ!
胸部。
腹部。
脇腹。
拳が装甲へ次々と突き刺さる。
最後に渾身の一撃を叩き込み、フェルギアを壁まで吹き飛ばした。
「今だ、アルト!」
「ああ!」
アルトは片膝をついたフェルギアへ向かって駆け出す。
狙うのは胸部装甲と肩を繋ぐ、わずかな隙間。
《砕》を真っ直ぐに構えた。
「砕牙!」
鋭い突きが装甲の隙間へ突き刺さる。
バギィッ!
フェルギアの赤い瞳が激しく点滅した。
「内部機構損傷。」
「動作……不能……。」
鋼鉄の巨体が、前のめりに倒れる。
「一体!」
だが、残った四体はすぐに陣形を変えた。
「戦闘データ更新。」
「攻撃部位を共有。」
関節や装甲の隙間を守るように構え、互いの死角を補い始める。
「もう対策してきたのかよ!」
アルトの左右から大剣が迫る。
一本を《砕》で受け流し、もう一本を身体を沈めてかわす。
その背後から、別のフェルギアが拳を振り上げていた。
「アルト!」
ガオンが割り込み、拳を横から殴りつける。
ガァンッ!
「獅子砕牙!」
熱をまとった一撃が腕部装甲へめり込み、拳の軌道を強引に逸らした。
「助かった!」
「礼は後だ!」
ガオンの背後から、盾を構えたフェルギアが突進してくる。
アルトは床を蹴り、盾の側面へ《砕》を差し込んだ。
「砕衝!」
下から跳ね上げる一撃。
盾が大きく弾かれ、フェルギアの身体がのけ反る。
「今だ!」
「おう!」
ガオンが大きく拳を振りかぶった。
「獅子咆拳!」
咆哮とともに放たれた拳が、フェルギアの胸部へ直撃する。
ドゴォォンッ!
胸部装甲が大きくへこみ、その巨体が壁へ叩きつけられた。
「残り三体!」
アルトとガオンは背中合わせになり、《砕》と拳を構える。
フェルギアたちは三方向へ分かれ、同時に襲いかかってきた。
「ガオン! 右を頼む!」
「二体まとめて寄越せ!」
「無茶言うな!」
アルトは正面から迫るフェルギアへ駆け出す。
振り下ろされる大剣をぎりぎりまで引きつけ、横へかわした。
剣が床へ突き刺さる。
その刀身へ飛び乗り、一気に駆け上がった。
「砕天!」
跳び上がった勢いのまま、《砕》を頭部へ叩きつける。
ゴォンッ!
頭部装甲が大きくへこみ、赤い光が消えた。
着地したアルトの横から、もう一体が拳を振るう。
「っ!」
回避が間に合わない。
アルトは《砕》を構え、衝撃に備えた。
その瞬間。
「おらぁっ!」
横から飛び込んできたガオンが、フェルギアの腕を蹴り飛ばした。
「そっちは任せたんじゃなかったのか!」
「もう終わった!」
ガオンの背後では、一体のフェルギアが壁へ頭からめり込んでいた。
「早すぎるだろ!」
「細けぇことはいい!」
最後の一体が二人へ向かって突進してくる。
盾を前へ構えたまま、一直線に迫ってきた。
「アルト!」
「分かってる!」
アルトは正面から駆け出した。
激突する直前、低く身体を沈める。
「砕円!」
身体を回転させながら放った一撃が、フェルギアの両膝をまとめて打ち抜いた。
バキィッ!
巨体が大きく前へ傾く。
ガオンは床を蹴り、フェルギアの頭上へ跳び上がった。
「獅子落とし!」
熱を帯びた拳を頭部へ叩きつける。
ズドォォンッ!
フェルギアの顔面が床へめり込み、赤い瞳がゆっくりと消えた。
「排除……失敗……。」
最後の一体が動きを止める。
「はぁ……はぁ……。」
アルトは《砕》を杖代わりにしながら、荒い息を吐いた。
ガオンも肩を上下させ、額の汗を腕で拭う。
「硬すぎるだろ……。」
「ああ。」
アルトは床に倒れた五体のフェルギアを見回す。
「たった五体で、これか……。」
奥からは、今も精霊たちの悲鳴が聞こえている。
ここにいるフェルギアだけで終わりとは思えない。
「まだ奥にいるかもしれない。」
「だったら全部ぶっ壊すだけだ。」
ガオンは拳を握り直した。
その時。
パチパチパチ。
場違いな拍手が、通路の奥から響いた。
「んー! 素晴らしい!」
アルトとガオンが同時に顔を上げる。
「実に興味深い戦闘でしたねぇ!」
巨大な扉が蒸気を噴き上げながら、ゆっくりと左右へ開いていく。
その奥から、白銀の巨大な機体が姿を現した。




