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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ


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殴って蹴り飛ばせばいい


 ――助けて。


 誰か……。


 苦しいよ……。


 お腹……減ったなぁ……。


 帰りたい……。


 幼い子どものような声。


 老人のようなかすれた声。


 男とも女ともつかない声。


 無数の声が一斉に頭の中へ流れ込んでくる。


「……っ!」


 アルトは足を止めた。


「この声……。」


 目を見開く。


「まさか……。」


 次の瞬間、地面を蹴った。


 全力で走り出す。


(精霊だ……!)


(精霊の声だ!)


(でも、なんで今……。)


 一瞬だけ疑問がよぎる。


 だが、すぐに頭を振った。


(そんなことはどうでもいい!)


(精霊が苦しんでる!)


 声を頼りに路地を駆け抜ける。


 近づけば近づくほど、悲鳴は大きくなっていく。


 助けて。


 苦しい。


 痛い。


 暗いよ。


 帰りたい。


 お腹減った。


 怖いよ。


「くっ……!」


 アルトは胸を押さえた。


 心臓が締め付けられる。


 喉の奥が焼けるように熱い。


「うっ……!」


 胃が激しく痙攣する。


「オエッ!」


 その場に膝をつき、思わず吐き出した。


「はぁ……はぁ……。」


 荒い息を繰り返しながら口元を拭う。


「くそっ……。」


「なんなんだ……この声は……。」


 それでも足を止めることはなかった。


 やがて視界の先に巨大な建造物が現れる。


 何本もの煙突から黒煙を吐き出す巨大施設。


 工場にも見える。


 軍事基地にも見える。


 しかし、アルトには確信があった。


「あそこだ……。」


 あの建物の中から、精霊たちの悲鳴が聞こえてくる。


 アルトは迷うことなく入口へ駆け寄った。


「止まれ!」


 怒号と共に二人の衛兵が槍を交差させ、道を塞ぐ。


「ここから先は軍関係者以外立ち入り禁止だ!」


「くっ……。」


 アルトは歯を食いしばる。


「通してくれ……。」


 震える声で訴える。


「精霊が……苦しんでるんだ……!」


 衛兵は怪訝そうに顔を見合わせた。


「精霊だと?」


「怪しい奴だな。」


 一人が槍を構え直す。


「どこの者だ! 何の用がある!」


「俺は……。」


 言葉に詰まる。


「捕らえろ!」


 二人の衛兵が一斉に飛び出した。


「くそ……。」


 アルトは砕へ手を伸ばす。


「騒ぎは起こしたくないんだ……!」


 ここで戦えば、ヴォルグ軍に潜入が知られる。


 そうなれば、この後合流する予定のレテたちが潜入しづらくなってしまう。


(ここで騒ぎは起こせない……!)


 どう動くべきか迷った、その時だった。


「お前はまた面倒を起こしてるのか。」


 聞き慣れた声が頭上から降ってくる。


「え?」


 アルトが見上げる。


 ドォンッ!!


 轟音と共に一人の男が衛兵たちの前へ着地した。


 舞い上がる砂埃。


 そこに立っていたのは、何かの巨大な骨を咥え、ボリボリと噛み砕いているガオンだった。


「ガオン!」


 ガオンは骨を飲み込むと、アルトを見てニヤリと笑う。


「……まぁ。」


「暴れる口実ができたな?」


「ガオン、やめろ!」


 アルトは慌てて止めに入る。


「ここで問題を起こしたらレテ達が潜入しづらくなる!」


 ガオンは鼻で笑った。


「はっ! 関係ないね。」


「それに――」


 ブォンッ!!


「ぐはぁっ!?」


 拳が唸り、一人目の衛兵が宙を舞う。


 数メートル吹き飛び、地面を転がった。


「き、緊急――」


 残った衛兵が警報を鳴らそうと口を開く。


 しかし。


 ドゴォッ!!


「がぁっ!!」


 ガオンの蹴りが腹へめり込み、衛兵は門の柱へ激突した。


 ガオンは肩を鳴らしながら笑う。


「騒ぎになる前に殴ればいい。」


 アルトは呆れたようにため息をつく。


「……蹴りもしたろ。」


「細けぇこと気にすんな。」


 ガオンは豪快に笑う。


「殴って蹴り飛ばせばいい。」


「だからそういう問題じゃないんだけどな……。」


 アルトが頭を抱えた、その瞬間。


 ビーッ! ビーッ! ビーッ!


 施設中に警報が鳴り響いた。


 ガオンは満足そうに笑う。


「ほらな。」


「結局騒ぎになった。」


「……誰のせいだと思ってるんだよ。」


 アルトは深く息を吐く。


 だが、今はそんなことを言い合っている場合ではない。


 建物の奥からは、今もなお精霊たちの悲鳴が聞こえ続けていた。


 アルトは強く拳を握る。


「行くぞ、ガオン。」


「ああ。」


 二人は警報が鳴り響く施設の中へ飛び込んだ。

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