そんなセンスのない名前では、なぁぁい!
機装兵との戦闘記録が巨大な魔導投影装置に映し出される。
灰色の光が装甲を侵食し、鋼鉄の身体が音を立てて崩れ落ちる。
水の刃が関節を断ち切り、巨大な大剣が一撃で機体を叩き潰す。
誰一人として口を開かないまま、ヴォルグ軍幹部たちはその映像を見つめていた。
「ほうほう……。」
静寂を破ったのは、白衣の男だった。
ドクター・ヴェルナー。
眼鏡をくいっと持ち上げると、興奮を抑えきれないように頬を緩める。
「《脆化》ですかぁ……。」
映像を巻き戻し、何度も同じ場面を見返す。
「んー! 厄介!」
次の瞬間には、子供のように笑みを浮かべた。
「んー! 興味深い! 実に実に面白いですねぇ!」
「楽しんでいる場合ではない!」
怒号が会議室に響き渡る。
軍総司令バルドゥル・グロッツが机を力任せに叩いた。
「ガイストが! ガイストが攻めてきたのではないか!」
額には脂汗が浮かび、鼻息を荒くして叫ぶ。
「ガレス! 貴様どうにかしろ!」
名を呼ばれた大男は腕を組んだまま、静かに口を開く。
「……先に攻撃を仕掛けたのは我々です。」
短い一言。
それだけで部屋は静まり返った。
バルドゥルの顔がぴくりと引きつる。
すると、会議室の隅から笑い声が漏れた。
「クックックッ……。」
細身の男――ゼイン・クロウ。
椅子へ深く腰掛けたまま、愉快そうに肩を揺らす。
「羽虫と戯れる程度の相手ですよ。」
細い目を女性将校へ向ける。
「そうでしょう? エリナ中尉。」
突然話を振られたエリナは一瞬だけ視線を伏せた。
「…………そう、ですね。」
どこか歯切れの悪い返事だった。
「えーい! うるさいうるさい!」
再びバルドゥルが怒鳴る。
「ブラム!」
「はっ。」
屈強な男が一歩前へ出る。
「貴様はフェルギア部隊とフェルメラ部隊の指揮に回れ!」
「了解しました。」
ブラムは力強く敬礼した。
「ガレス!」
「はっ。」
「ゼイン!」
「はいはい。」
「エリナ!」
「はい!」
「貴様らは各自専用フェルギアで迎撃しろ!」
三人は揃って敬礼する。
「了解!」
その時だった。
くつくつと笑う声が再び響く。
ヴェルナーだった。
「それにしても……。」
眼鏡を外し、丁寧にレンズを拭く。
「私の偉大なる発明を”鉄人形”とは。」
眼鏡を掛け直した彼の瞳が妖しく光る。
「腹が立ちますねぇ。」
両手を大きく広げる。
「我がフェルギアは!」
興奮したように叫んだ。
「そんなセンスのない名前では、なぁぁい!」
しかし誰一人として相手にしない。
バルドゥルは額を押さえ、ガレスはため息を吐き、ゼインは肩をすくめるだけだった。
ヴェルナーだけが、一人楽しそうに笑っていた。
◇ ◇ ◇
「迷った……。」
煤に覆われた工業地区を歩きながら、アルトは頭を掻いた。
「……あのバカガオン、どこ行きやがった。」
さっきまで一緒だったはずなのに、気付けば姿が消えている。
辺りを見回しても、それらしい姿はない。
「今度見つけたら首輪でも付けてやろうかな……。」
深いため息をつき、アルトは再びヴォルグの街を歩き始めた。
その時だった。
「……ん?」
微かに、どこかから小さな泣き声が聞こえた。




